第62話 十二神の大神殿にて~治療~
――Side 幸希
「――あの神々がそれを口にした際、その可能性を考えないわけではなかったが……」
「世界の、いえ、時空の理、なのかもしれませんね。ある程度までの『情報』を与えられ、その奥に隠されている『真理』には触れられぬよう、……俺達もまた、この時空という腕(かいな)に抱かれながら、目隠しをされているのでしょう。ははっ、十二神だ何だのと崇められながら、滑稽な程に底が浅かったわけか、……俺達も」
星の外に宇宙があるように、この世界の外に別の数多の世界が存在しているように、円環は幾重にも重なって出来ているのかもしれない……。
十二神の方々が創り上げた別空間に戻った私は、大神殿の一室でアレクさんの治療を進めながら、この時空の『外側』について打ち明けていた。
多くの世界を内包する『時空』。これもまた、外から見れば、ひとつの世界。
十二神を原初の父、母とするこの時空と同じように、『外』には沢山の『時空』が存在し、私達と同じように、沢山の命が日々の営みと共に生きている。
「……いえ、本来であれば、『外』からの使命を持ってこの時空に送られた私達が、最初に生まれた十二神の方々に事情を話し、共に生まれ来る世界を見守り、その繁栄を促す事が役目でした」
大抵は、誰も自分達の生きている時空の外に、同じようなものがあるとは知らずに輪廻を巡り続ける。
『真理』を知るのは、極一部の人達だけ……。
エリュセードや時空内の状況、そして、『外』からの干渉や災厄の動向に注意を向けている十二神の方々とは別に、この部屋に同行してくれたお父様とトワイ・リーフェル様がその視線を窓の外へと向ける。
「あんな事がなけりゃ……、こんな面倒くせぇ事にはなってなかったかもしれないっつーのによ」
「カインさん……」
アレクさんの隣のベッドで眠っている……、その息子神であるアヴェル君、……いいえ、ユスティアード君の治療をしていたカインさんに、私は後悔を抱く頷きを返す。
『あんな事』が起きなければ……。はじまりの世界が滅ぶ事も、十二神の方々が一度その命を散らす事も……。
だけど……。
「本当に、そうなっていたんでしょうか……」
「ん? 何がだよ」
「あの時、私達の記憶があったとして……、『あの存在』に立ち向かい、事態を収拾出来たかどうかは」
「……」
あまりにも遠い昔の記憶……。私とカインさんが、この時空に送り込まれた際の……。
記憶は薄れる事なく私達の魂に刻まれていて、……思い出すだけで、身の毛がよだつ。
「『外』で生まれた私達は、時空や世界の在り方、そこに生まれ来る災厄の種をどう扱い導くべきか、『先生』と呼んでいた……、私達にとっては、お父さんやお母さんのような存在の方々に教わりました。他の時空に送られる予定だった皆と一緒に」
「時空の誕生=俺達の誕生……。『先生(アイツら)』は俺達を個々の時空そのものだって言う時もあったが、それが事実なのか、比喩なのかはわかんねぇ……。ただ、俺達が正しく在り続けねぇと、時空が滅ぶ。そう念押しで何千、いや、何万回かは軽く叩き込まれたっけな」
生まれ持った使命と運命が、あまりに重く、歩む道次第では破滅をもたらすから……。
時空に生まれる災厄の種を回収し、善なる幸いとして孵化させ、世界に旅立たせてゆく。
だけど、私達がその種を放置したり、扱いを誤れば種は負に染まり、時空を蝕む病の素になってしまう。
「ユキさん……、いえ、もう、記憶は戻っているのですから、セレネ、と、呼んでもいいですか?」
「はい。フェルお父様」
かつて、紅の石の中で眠り続けていたセレネフィオーラを、私を見守り、ずっと傍で目覚める時を待ってくれていたトワイ・リーフェル様。
私はこの神(ひと)の、フェルお父様の許で育ち、沢山の愛を貰って幸せに暮らしていた。
あの日、……災厄の種とは知らずに、それに近付いてしまうまでは。
フェルお父様は普段の飄々とした双眸に喜びの気配を滲ませ、アレクさんの手を握りながら力を送り込んでいる私の傍に膝を着いた。
「貴方とそちらの坊やが『外』から来た事と、災厄との関係は理解しました、次は、貴方達が俺達の生きる時空へと送られた際の、『異変』についてお聞きしてもいいですか?」
「はい……」
まだ、簡単な事情しか説明していない。
だけど、あの時の一部始終を語るには……。
「記憶を……、私達の記憶を、受け取って貰ってもいいですか? もしかしたら、かなりの負担を強いてしまう事になるかもしれませんが」
「ふふ、それくらいどうという事はありませんよ。他の神々とは違い」
「安心しろ、ユキ。そいつは全神々中、図太さと腹黒さにかけては随一だからな」
「一の神兄殿~? ちょぉ~っと余計な事を口にしすぎですねぇ? 俺が貴方の弱味や黒歴史を握っていないとでも?」
「ふっ、俺には愛するファーラからの三行半(みくだりはん)以外に、恐れるものなどないぞ?」
……あ~、大事なお話の途中なのに、なんだか災厄よりも怖いオーラをぶつけ合い始めた神(ひと)達が……っ。それと、お父様、本当にお母様との離婚が一番怖い事なんですね。愛妻家過ぎて、場の空気を読めなくなるぐらいに。私が、あはは……とから笑いをしていると、その残念な問答は意外にもすぐに終わった。
フェルお父様は私に、ソルお父様はカインさんに、互いの額をそっと押し当て、当時の記憶を読み取っていく。
もう、災厄による神性の歪みも、誤作動のロックもかかっていないから、あの時の一部始終を伝えられるはずだ。
「……なんなんでしょうねぇ、これは」
「…………」
げんなりとしながら呟いたフェルお父様は、顔や首筋に冷え切った汗を掻き、それはソルお父様も同じだった。
はじまりの世界で孵化した災厄の時よりも恐ろしい不安感が、どうしようも出来ない絶望の鐘の音が、二人にも聞こえたのだろう。
「俺とユキは、あの日……、この時空へと旅立った直後に……、『それ』を目にし、大嵐のような中で翻弄されながら、どうにか『はじまりの場所』に辿り着いた」
「それは、俺達が生じる前の事でいいのか?」
「あぁ……。妨害と、……事故や色んな事が重なりやがったせいで、記憶と神性にも不具合が生じちまったけどな。十二神が生じ、はじまりの世界が生まれてからようやく……、俺達を守っていた『殻(かく)』が表に顔を出した。……面倒なおまけ付きで悪かったが」
起きなかったはずの事態。民を巻き込んだ不幸は、この時空の外に巣食っている存在に受けた悪影響の産物だった。そして、カインさんの瘴気を生み出す力もまた、……その身に生じた不具合のひとつ
セレネフィオーラが地上の民に出した悪影響も、同じく。
「様々な面で、私達は後(おく)れを取りました……。記憶の消失、神性への干渉によって巻き戻された、身体の時……。果たすべき役目も果たせずに……」
記憶があれば、自分達の役割を覚えていれば……、少しは、何かが変わったのかも、しれない。
少なくとも、災厄の種に寄生され、間違った方法で孵化させる事は絶対に阻めたはず。
それに、この時空に起きている『危機』をどう解決するか、その対処法に使えたはずの、多くの時間。
……だけど、後悔は自己満足にしか繋がらないと、今の私は痛みと共にそれを心に刻んでいる。
「ソルお父様、フェルお父様、そして、今話を聞いて下さっている十二神の皆様。単刀直入に伝えさせて頂きます。今、このエリュセード、いいえ、この時空には、――災厄の存在以上の恐ろしい脅威が寄生し、時を待っています」
「セレネ、それは……」
「ごめんなさい……。その正体が何なのかは」
「俺達にもわかんねぇんだよ。俺達を教育したアイツらなら、……今頃、何かを掴んでるかもしれねぇが」
私達を導き、教育を施してくれた『先生達』。
永い永い年月をかけて、ようやく、この時空に干渉する事が叶ったのだろう。
先生が救いの手を差し延べてくれなければ、記憶を取り戻す事も、あの災厄達の脅威を退ける事も……。
「立ち向かうべき敵が、災厄だけに留まらなかった……。はぁ、……困りましたね。また一から情報収集の上、眠れぬ日を数えそうですよ」
「それで結果を得られるのなら、別に苦労という事もあるまい?」
深刻に、というよりは、少し茶化した様子でやり取りをしているソルお父様とフェルお父様だけど、……私達の心の重荷を増やさないようにという気遣いからなのかもしれない。
「先生達には、呼びかけの声を届け続けています。きっと、応えてくれるはずですから……、お父様達はエリュセードに近付いている災厄に注意を向けておいてください。何かわかり次第、必ずお伝えします」
いざとなったら、『外』に私とカインさんで向かう必要も出てくるけれど……。
でも、今がどんな状況なのか、『外』に寄生した『あれ』が何なのか……、絶対に知らなければならない。
正体はわからないままだけど、『あれ』は決して良いものでも、無害なものでもないと、そう強く感じているから……。
「おい、こっちの浄化と種の除去終わったぜ」
「ご苦労だったな、カイン。俺達の行う浄化と、お前達の浄化の力はまるで違うようだからな……。仮に俺が種を強制的に取り除いたとしても、根本的な解決は望めずに終わった事だろう」
「俺達の場合、力押しみたいなものですからねぇ。ですが、セレネと坊やの浄化は、寄生された対象への負担も少なく、災厄の種にとっても救いをもたらすもの……。こっちの御柱君にとって、何も失わないで済む奇跡の幸運となりましたよ」
浄化を受け、その身から災厄の脅威を退ける事が出来たユスティアード君は、確かにこれでもう大丈夫だ。
回復には時間がかかるけれど、もう一度、歩き出せる。
偽りの記憶と、誰かへの憎しみを抱きながら歩いていく道ではなく、自分自身の意志で道を選ぶ事が出来る。
ユスティアード君の浄化を終えたカインさんは、二つのベッドがある場所を離れ、用意されていたティーセットのあるテーブルへと向かっていく。
覚醒に次ぐ覚醒を経ての仕事に、私同様、疲労感を負っているのだろう。
カインさんは炭酸飲料ジュースによく似た飲み物の入ったグラスを手に取り、ストローに口をつけている。
私はその姿に小さな笑みを零し、……魘されながら眠り続けているアレクさんに視線を戻した。
「うっ……、はぁ、……っ、ぐぅぅっ、ぁあっ」
「アレクさん……っ!」
浄化の力で一時的に抑え込んでいた『原初の災厄』の力……。
それもまた、災厄の種から孵化した禍々しい力である事は感じ取れる。
だけど、浄化しようとしても、それはじわりじわりとまた黒い染みを広げてくるかのようで……。
苦しみだしたアレクさんの手をしっかりと両手に握り締め、私はカインさんに助けを求めて叫ぶ。
「カインさんっ!!」
「ちっ! わぁーってるよ!!」
『原初の災厄』を二人で分析し、最も効果的な方法で浄化を進めていたのに、簡単には事を進めさせてくれない現状。苦痛に苛まれているアレクさんが四肢をがむしゃらに暴れさせ、私とカインさんの手を拒む。
「ぅああああっ! ぐぅうっぁああああっ、あああああああああああああっ!!!!!!!」
「くそっ!! あっちのガキより難易度激高じゃねぇかっ!! 手間かけさせんじゃねぇよ!! この馬鹿野郎!!」
「カイン、退(ど)け!!」
「うぉっ!!」
アレクさんを押さえつけていたカインさんに代わり、前に出たのはソルお父様だった。
暴れ狂うアレクさんの胸の中心に右手のひらを当て、神気を込め、力強い一撃を叩き込む。
「ぐ、はぁあっ!!」
「お、お父様っ!! あ、アレクさんに何をっ」
「大丈夫ですよ。まぁ、喰らってる方はとんでもなく痛いでしょうけど……。ソルの神気を送り込み、御柱君の中で暴れている『原初の災厄』とやらを一時的に麻痺させようとしているんですよ。意識を落としてやった方が、本人も楽でしょうしね」
「うげぇ……っ。お前ら、鬼畜すぎんだろっ」
「ついでに、動けないようにこんな物も仕掛けちゃいましょう」
ニコニコと微笑みながら、トワイ・リーフェル様がアレクさんの手足に施したのは、神気仕込みの大きな鉄枷。
感じられる神気は、トワイ・リーフェル様だけじゃなくて、……一体、十二神何人分の神気をっ。
私とカインさんが揃ってドン引きしていると、ようやくアレクさんの大声や両手足の動きが止まり、ぱたん……と、静かになった。
「……だ、大丈夫、ですよね? あ、アレクさんの息の根……」
「止めるわけがないだろう。……ふぅ、だが、これは今までの災厄の比ではないな。はじまりの世界を滅ぼした災厄にも匹敵する……、哀れな迷い子だ」
忌まわしい、と、ソルお父様がそう言わなかったのは、災厄の種が決して破滅のみを抱いて生まれたのではないと、そうわかってくれているからなのだろう。
アレクさんの体内で動きを封じられた『原初の災厄』。
物理的というか、こういうやり方もあるのかと、ソルお父様達の大胆な行動に目を瞠ってしまう。
これで治療の続きが出来ると、カインさんと顔を見合わせ、ほっと息を吐きだす。
「カインさん、もう一度アレクさんの状態を把握しなおしましょう。一刻も早く、浄化を終わらせないと」
「だな。……手間取りそうだが、やるしかねぇか」
「頼むぞ、ユキ、カイン」
「俺達では貴方達の代わりにはなれませんからね。お願いしますよ……」
信頼を込めた音に、私はしっかりと力強い音を返す。
そして、私達二人が新たに再構成した浄化法を用いて、アレクさんの浄化を再開しようとした時――。
この、十二神の大神殿を、いえ、……エリュセードという世界を震わすほどの衝撃が、全身に響き渡った。
「何があった!?」
『ソル兄様~!! 来たよっ、来たよ、来ちゃったよ~!! 第二陣は、――エリュセード中の魔物を掻き集めてもぜんっぜん足りないような、魔物の大軍勢!! わ~!! 気合入りすぎぃいいいい!! へへっ、一匹残らず、ぶちのめしてやんよっ!!』
『レヴェリィ、可愛さより漢(おとこ)らしさが際立ってるよ……。ソル兄ぃ、どうする?』
「……俺も出よう。ユキとカインの正体が判明した今、計画を修正せねばならんだろうからな」
「お父様……」
お父様達十二神の計画。この大神殿が建つ地……、かつての、はじまりの世界を模した空間を檻とし、本物の故郷を、その地に巣食う災厄達を殲滅するはずだった。
枯らし尽くされた大地の嘆き、幸せを奪われた民の悲痛な声……。
お父様達の記憶に、その耳に、目に、当時の悲劇が刻み込まれている。
本当は、自分達を苦しめた災厄を浄化して種に戻し、新たな道を歩ませるなんて……、許せない事かもしれないのに。ソルお父様達は、自分達の心ではなく、この世界の、時空の理に従おうとしている。
「あの、ソルお父様っ!」
後を私達に任せ、自分一人だけ外に向かおうとしたソルお父様に手を伸ばしかけた私は、振り返ったその表情を見る前に、別の黒い大きな影にドスンッ!! と、……うっ、ぅううっ、お、重いっ!!
「役に立つかはわからんが、一応、雑用係として傍に置いておけ」
「痛、っ、……な、なにを」
「はぁ……、雑用係、ね。まぁ、助けて貰った恩もあるし、お嬢さんの為なら、犬にでも何でもなりますよ、っと……。ふぅ、ごめんねぇ、重かったでしょ?」
「……えっ!? ヴぁ、ヴァルド、ナーツさんっ!? な、なんでっ、え? 私の中から、あ、『あの子』と一緒に消えたんじゃっ」
どんどん薄暗くなっていく外の景色を背景に、その人は、ヴァルドナーツさんは困惑げに微笑みながら言葉を濁した。……にしても、魂だけの存在、のはず、なのに。
……差し出された手を握り返して立ち上がった私は、訝しげな表情になってしまった。
「その身体、どうしたんですか?」
「いやぁ~、それがねぇ~。俺も、あの時、お嬢さんの中でとんでもない目に遭ってたんだけど」
「ソルが助けたんですよ。あのままでは、また災厄の力に支配され、面倒な事になりそうでしたからね」
「フェルお父様……」
ヴァルドナーツさんと『あの子』が私の中から消えたのは、アレクさんがその息子であるユスティアード君の襲撃を受け……、『神花』、魂を奪われたあの前後の事だと、私は思っていた。
その予想通り、アレクさんを失ってしまったと思い込んだ私の起こした暴走が引き金となり、体内で荒れ狂ったのは、災厄の……、私の抱く、破滅の力。
災厄の種と同じように、私には同じ性質がある。
――幸いを呼ぶ清らかな力と、破滅を呼び起こす、負の力。
普通の神々が抱くそれとは、比べ物にならない……、時空の命運を左右する力が。
災厄の種を身の内に取り込み、その性質のどちらかを注ぐ事によって、孵化へと導く。
それが出来るのは、私だけ……。カインさんは浄化や種に戻す力、勿論、神性の両面である、光と闇を抱いているけれど、私のように強い力ではなく、孵化させる力もない。
昔から、『あの場所』で生まれてきた二人の内、どちらかだけが抱いている力なのだ。
特に、その厄介な力を抱くのは、女神に多いとされているのだけど……。
やっぱり、私が暴走したあの時に、ヴァルドナーツさんと『あの子』まで破滅の力に巻き込んだのだ。
でなければ、ソルお父様が手を出してくるわけがない。
「ヴァルドナーツさんっ、『あの子』はっ!? 『あの子』を知りませんかっ!? 黒髪の、ちっちゃな女の子をっ」
「あ~……、いたねぇ」
「今は? 今はどこにいるんですかっ!!」
「ぐっ!! ちょっ、お嬢さんっ、お、落ち着い、ぐぅううっ!! ギブッ、ギブッ!!」
「さっさと吐かねぇと、ユキに絞め殺されちまうぞ~? おっさん」
「いっそ、昇天させるのも救いだとは思いますが、すでに死んでますしねぇ、その人。――まぁ、今はもう地上の民として生まれた魂ではなく、一の神兄殿が自分の力を与えて神格化した、眷属ってやつですけどね」
――眷属!? お父様の!?
私の口が大きく開いてぽかーんと言葉を失ってしまうけれど、カインさんの方は驚いていないようだ。
「お前は番犬野郎に夢中で、周りを見る目が足りてねぇんだよ」
「うっ……」
冷ややかに、ギロリと睨まれ、言い返す言葉もなく、その場に正座をしてしまう私。
そうですね……。今は一刻も早く、アレクさんを『原初の災厄』から解き放ちたくて、観察眼自体が役立たずと申しますかっ。
「俺の眷属にすればいいって、言ったんですけどねぇ~。それじゃ、可哀想だの、生贄だの言われまして、ははっ、失礼ですよね~」
「いや、それ全部正解だろ?」
「正解ですね……。フェルお父様の眷属になったら、いっぱいこき使われると思いますし」
「せ、セレネ……っ!! お、俺は……、貴女にそんな面を見せた事は」
「隠したって、わかりますよ。はじまりの世界にいた頃は一緒に住んでましたし、私がいない時にフェルお父様が何をしていたかなんて、全部……、知ってますから。……隠れて育児書を読んでいた事も」
「――っ!! せ、セレネっ、いえ、っ、あの、……~~っ!! あれは、です、ねっ」
フェルお父様は、五年の歳月をセレネフィオーラを守っている卵の傍で過ごしてくれた。
私が無事に卵から出てきた時も、すごく、すごく……、喜んでくれて……。
私にはとても優しいお父さんだった。血の繋がりはないけど、ソルお父様と喧嘩までして、私を育てるって言って聞かなくて……、全てが終わる日まで、沢山の愛情を注いで育ててくれた。
だけど、フェルお父様には娘以外に向ける様々な顔があって、極力、教育に悪いものは見せないようにと、気を使ってくれていた事も知っている。……私の為、というよりは、もしかしたら、私に嫌われない為、だったのかもしれないけれど。
非道な扱い、をするわけじゃないけれど、眷属の人達にとっては無茶ぶりぃいいっ!! な事も多くて、私は陰から同情の目を向けていた事もあった。まぁ、出来ない事をやらせていたわけじゃないし、結果的に、眷属の人達のスキルアップには繋がっていたようだけど。
「おっ……。ククッ、アンタも娘に隠し事がバレるとそうなるんだなぁ? 初めてみたぜ? そんな顔」
「うるさいですよ。くぅぅ……、不意打ちは卑怯ですよ、セレネぇっ」
本当に珍しい。フェルお父様は自分の腕で顔を隠しながら、その真っ赤に染まっている肌を見られないよう、必死なご様子だ。でも、さっきバッチリ正面からその可愛い赤面顔を見させて貰ったので、もう手遅れだけど。
「一連の流れはわかりました。で? 『あの子』はどこにいるんでしょうか?」
「それがねぇ……。俺達にもサッパリなんだよぉ~。あの黒髪のおチビちゃん、俺があの神様に助け出される際に、別の『手』に捕まっちゃってさ……。助けてあげたかったけど、……ごめんね」
「別の、……『手』」
暴走していた私には、自分の中に介入した干渉の気配さえ掴めなかった。
全ての本能が、ユスティアード君を討て! と、そう言っていたのだから……。
「わかりました……。『あの子』の行方は、アレクさんの浄化を終えてから考えます。カインさん」
「あぁ。今度は二人でパッパと片付けちまおうぜ。……少し、眠りてぇしな」
ふあぁぁぁ、と、欠伸を漏らすカインさんに、私の心も少しだけ緊張の糸をほぐしてもらえた。
本当は、浄化を終えた後に、ゆっくり眠りを堪能出来る時間など、ないと知っていながら……。
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