第32話 女神の微笑は、災厄の旋律

 ――Side 幸希


「大量の攻撃陣配備の上、魔獣、瘴獣の軍団連れ、そして……。なるほどな。確実に潰す気できたか」


 今までとは何もかもが違う、突如現れたマリディヴィアンナ達の猛攻。

 今夜の解呪を嗅ぎ付けてくる、万が一の危険性も考えていたけれど、彼女達の様子はあきらかにおかしかった。

他には手を出さず、塔と、その周囲だけに凄まじい攻撃を仕掛け続けている。

てっきり、王宮全体や、王都にも魔の手が伸びてくると思っていたのに……。

 敵側の猛威を受けても冷静に頭上を見上げているお父様に頷き、反撃に出るべく結界の外に飛び出して行……、こうとした矢先。


「待て」


「お父様?」


 空高く、マリディヴィアンナ達を見据えながら伸ばされた右手。

 それを合図とするかのように、アレクさん達が創り上げた神の結界が呼応する様を見せ、眩く強い光を放った。向けられた脅威は全てマリディヴィアンナ達へと返り、耳を劈くような絶叫が響く。


「げぇ……っ」


「ニュ、ニュイ~……ッ」


「清々しい程……、容赦ないね」


 自身は手を触れず、他者が築き上げた結界さえも利用して、敵陣を阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく……、最強の戦神様。

 その恐ろしさは、マリディヴィアンナ達の用意した攻撃用の陣さえも支配下に置き、全ての方位を奪い、自分の攻撃の場と化した事。

 魔獣も、瘴獣も、マリディヴィアンナ達も……、抵抗の隙さえ与えては貰えない。

 

「な、なぁ……、やり過ぎじゃ、ねぇ、か?」


「ニュィッ、ニュィッ!!」


「ソルさーん、もういいんじゃないかなー? ……オイシイとこ全部盗られちゃうと、俺達だけじゃなくて、ウチの女帝陛下も……、あのー……、ソルさーん?」


「すみません、サージェスさん。お父様、一度何かに集中し始めると、終わるまで外野の声が聞こえなくなるんです」


 それに、今頭上で起きている一方的な攻撃は……、同時に別の作業も行っているから、緊急事態の声でない限り、お父様の耳には入らないはず。

 でも……、本当に良かった。ここでお父様に会えていなかったら、あの恐ろしい数の敵を前に、少なからず犠牲が出ていた事だろう。

 王都内で動き出した味方側の気配が、王宮の上空で起きている光景に意識を奪われているのが、伝わってくる。

 地上にて揮われた、失われし神の力……。以前に見たのは、遥か遠い、遠い昔の事。

 たとえ味方側であっても、娘の私であっても、お父様の力は魂を震わせる程に凄まじいものだ。

 圧倒的な支配者の面に膝を屈し、圧迫感を覚えながら怯える人もいれば、その神々しさに言い知れぬ歓喜と恍惚感を覚え、全身を震わせてしまう人もいる。

 神とは本来、数多の命から恐れられながらも一心に信仰を集める存在だ。

 自分達には強大な力を抱く神々……。どんなに恐ろしいと心が感じていても、同時に、酷く焦がれてやまない、尊き存在。

 誰もが魅せられる……。神という存在の偉大さに、苛烈さに、慈悲に、その魂の輝きに。

 

「……そろそろいいか」


 お父様が右手を下ろすのと同時に、上空を浄化の風が吹き荒れて視界をクリアにしていく。

 あれだけ集まっていた魔物や魔獣、瘴気の獣達が……、跡形もなく消え去っている。


「結局俺らの出番なしかよ……。ユキ、お前の親父、容赦ねぇな」


「あ、はは……。でも、肝心の人達は片付いてないと思いますよ」


 お父様が手を下したのは、余計なものだけ。

 マリディヴィアンナと、もう一人の見知らぬ女性の気配は、まだ上空に潜んでいる。

 

「どんな手を打とうと勝手だが……、お前達に俺をどうこうする事は出来んぞ」


「マリディヴィアンナ! お願い! 話を聞いてほしいの! このままだと、貴女達は利用されて終わってしまう!!」


 魂の消滅。ヴァルドナーツさんの時に必死に訴えた……、大事な事。

 彼女の中にディオノアードの欠片の存在は見当たらないけれど、災厄と関わる以上、同じ事だ。


「――構いませんわよ。そんな事」


「え?」


 闇空の中に黄金のふわふわとした長い髪を靡かせながら現れた少女、マリディヴィアンナの言葉が信じられなくて……。彼女の許へ飛翔した私は、今までとは比べ物にならない敵意と力の奔流を受けて地上へと跳ね返されてしまう。

 やっぱり、獅貴族の国で最後に見た時のマリディヴィアンナとは違う……。

 私は塔の上空付近で留まり、彼女の傍に現れた女性にも意識を向ける。

 

「私は、ガデルフォーン皇家への復讐を決めるよりも前に、アヴェルの為に生きると、そう決めたんですの。お母様も、お父様も、私の傍にいてはくれなかった……。だから、ずっと寄り添ってくれたアヴェルの為に……!」


「そうよ、マリディヴィアンナ。私達はアヴェル様の為に尽くしてこそ、存在価値があるの。良い子ねぇ」


「気安く触らないで下さいな! 私は、貴女と手を組むつもりはありませんわ!! 勝手についてきただけの存在が、上から目線で威張らないでくださいな!!」


「……そう。別にそれでも構わないわ。私は……、アヴェル様に酷い仕打ちをしてくれた、そこの神々共を根絶やしに出来ればいいのだから」


 マリディヴィアンナの頭をそっと母親のように撫でようとした女性の手が打ち払われた様子を見る限り、あの二人は一時的な協力関係であって、本来は仲が悪い、という事なのだろう。

 パルディナのオルゴール箱を持った女性は冷ややかにマリディヴィアンナを見つめた後、私のお母様、女神ファンドレアーラしか知らないはずの旋律を歌声に乗せ、凄まじい衝撃波を起こして攻撃の一手を放ってきた。


「ユキ!!」


 女性の攻撃を阻むので精一杯のカインさんが、地上から私を呼んでくれる声が聞こえる。

 心配してくれている……。だけど、大丈夫。

 私は自分の周囲に張った結界に守られ、見知らぬ彼女がそうしたように……、同じ旋律を奏でてその攻撃を無へと還す。

 遥か昔……、お母様が教えてくれた、パルディナのオルゴール箱を扱う上で必要な旋律。

 同じ旋律、けれど、歌声から聞こえてくるのは、互いに違う歌詞。

 オルゴールの、今の所有者である女性が奏でているのは、負の力を扱い、害悪と成す為の、命令歌。

 私が奏でているのは、オルゴールの力を浄化し、在るべき場所へと還す為の歌。


「く……ッ、小娘がぁあああっ!!」


 彼女が誰なのかは知らない。けれど、パルディナのオルゴール箱を使えるという事は、お母様の、災厄の女神から恩恵を受けた存在なのだろう。つまり、マリディヴィアンナ達と同じ、被害者。

 そう、思ったのだけど……、あの人は違うと思い直した。


「お父様! マリデイヴィアンナの方をお願いします!! 私はあの女性をっ」


 振り返り、そう叫んだ瞬間だった――。

 私を守っていた結界と、塔を守っていたそれが一瞬で破壊される気配が生じ、全身を撫でるような薄気味の悪い、けれど……、どうしようもなく懐かしい何かが。


「ふふ、ふふふふふ……、久しぶりに目を覚ましてみれば、何だか……、とっても楽しそうな事が起きているみたいねぇ」


「――ッ!!」


 今、この場にはなかったはずの……、二度と聞く事のないはずの……、声。

 私が創った人形とは違う、これは、正真正銘の……。

 そこに在ったはずの、オルゴールを両手に持って佇んでいた女性の姿が……、あきらかに変わり果ててしまっている。

 私と同じ色の長い髪……、妖しく微笑む、アメジストの双眸。

 艶めかしい身体のラインをぴったりと縁取っている濃紫のスリットドレス。

 その姿に釘付けとなった私は、視線の向こうから放たれた攻撃に動く事が出来ず……。


「ユキ!! ぼけっとするな!!」


「お、……お、お父様」


 黒紫の光を宿した力の奔流に飲み込まれかけた私を、お父様とカインさん達が同時に結界を張って攻撃を防いでくれた。……三人の背中に阻まれて、もう、向こう側が、見えない。

 今のは……、何? 私の目には、『誰』が映っていたの?

 

「ニュィイッ!」


「ふぁ、ファニルちゃん……」


 サージェスさんの腕の中から私の胸へと飛び込んできた温もりが、私の意識を現実に繋ぎ留めようとするかのように、声をかけ続けてくる。

 

「ユキ、動じる事はない……。十二の災厄は、ファンドレアーラの魂から生み出された物だ。あれの姿を模し、その人格を真似てみせる事など造作もない。わかっているだろう?」


「は、はい……っ」



「ねぇ、ソルさん。あのオルゴール箱を持ってる女性は、ユキちゃんのもう一人のお母さん、じゃないんだよね? あれ、斬っても大丈夫かな?」


 十二の災厄を生み出し、そして、地上へと落ちた……、今は異空間に封じられている、ディオノアードの鏡に汚染された神々と、――もうひとつの『核』である、鏡の装飾部分。

 それに宿っているお母様の魂の欠片。こういう手段に出てくる可能性を、何故……、忘れ去っていたのか。お母様が災厄の女神となったあの瞬間の、最後の光景が生々しく蘇ってしまって、すぐに対応出来なかった。

 お父様はサージェスさんからの問いに首を振り、自分が前に出て片を着けると私達を制する。


「俺が話をしよう。……良い結果は得られないだろうがな」


「あら、懐かしい顔ぶれの中には、貴方もいらっしゃったの? 私の愛おしい……、ソリュ・フェイト。相変わらず素敵な方ねぇ。ふふ、惚れ直してしまいそうだわ」


「生憎と、本物の妻にそう褒められたのであれば愛の言葉のひとつも囁くところだが、お前のような使い捨ての人形に心を配る気はない。粉々に砕かれて果てるのを望むか、それとも、浄化を受けるか、好きな方を選べ。特別に神の慈悲を与えてやる」


「ふふ、そうやって偉そうに振る舞われる貴方も魅力的だわ。でもねぇ、私の愛する貴方……。どちらも受け入れられないの。だって……、私は貴方達と遊びたいんだもの。ずっと、ずっと、暗い場所に囚われているのよ? もう退屈で退屈で」


 お父様を見下ろしながら艶やかに微笑むその表情は、確かに私の知っているお母様とは違うものだ。

 本当のお母様は、人に嘲笑の気配を寄越したり、そんな風にプンプンお色気を振りまいたりはしない!! お父様に愛の言葉を囁かれると、すぐに少女のような愛らしさで頬を染めてもじもじとしてしまうし、ある時は慌てふためいてドジをやらかすし、本当に目を離せない世話の焼き甲斐のある女神様なのだ!!


「だから、私の遊び相手になって下さらないかしら? ねぇ、ア・ナ・タ」


 オルゴール箱にキスをして、お母様の姿を模した人形は魅惑的に誘いをかける。

 そんな誘いに、お父様が乗るわけがない……、というよりも。


「お、お父様……っ」


 俯いていたその顔がゆっくりと人形を見据え、薄っすらと優美な笑みを作った。

 ――しかし。


「――俺の妻を穢すな」


「げぇええええっ!!」


 滅多に見る事の出来ない、お父様の本気の怒りの形相。

 その激情は狙いを外す事なく人形へと向かい、容赦のない一撃を叩き込む。

 激しく燃え盛る炎を纏いながら天空より振り下ろされたそれは、お母様の姿をした人形ごと飲み込んで地上へと。

 王国中が一時的に激しい揺れに襲われ、遠くからさらに困惑と驚愕の気配が伝わってくる。


「お、お父様っ、やり過ぎですよ!!」


「あー……、ソルさーん、真下、広範囲で抉れちゃってるよー……」


「後で戻しておくから問題ない!」


「そういう問題かよ!!」


「ニュィィィ……ッ」


 塔を直撃する事は免れたけど……、まだ、あの人形は活動を停止していない。

 大きなクレーターを生み出してしまった地上で、真っ黒に焼け焦げた人型がゆらりと立ち上がりるのが見える。


「ふんっ……、やっぱりあの人形……、気味が悪いですわね」


 神の一撃、それも、怒りを宿したそれを受けても起き上がってくる人形の醜い姿に、マリディヴィアンナが嫌悪を露わに胸の前で腕を組む。

 アヴェル君と対峙している時にはなかった、人形を通しての、お母様、いや、災厄の介入。

 その真意を読む前に、私達は二手に分かれて飛んだ。

 私とカインさんはマリディヴィアンナの方へ、残りの二人は地上に佇んでいる人形へ。


「マリディヴィアンナ! 貴女を拘束します!」


「今日は逃げられると思うんじゃねぇぞ!! クソガキ!!」


「アヴェルと、私達の望みを邪魔する者は、全部、全部、消えてなくなってしまえばいいんですわ!!」


 消し去ったはずの瘴獣や魔獣、魔物達を召喚する巨大な陣が再び幾重にも現れる。

 これだけの強い力……、以前のマリディヴィアンナにはなかったはず。

 という事は、やっぱり……、アヴェル君が与えたものか、もしくは。


「おいユキ、外野は俺が抑え込んでおいてやる。お前はそのガキをさっさとふん縛れ!」


「カインさん……、はいっ!」


 漆黒の巨大な竜へと変じたカインさんが私達の周囲を取り囲んでいる敵の群れを凄まじい炎の息吹によって牽制し、隙を見計らって飛び込んでくる者達をその硬い両翼で打ち払う。


「あの塔で眠っている女も、お姉様達も、皆、皆、殺してあげますわ! そうすれば……、きっと、きっと、……アヴェルも目を覚ましてくれる、だからっ」


「アヴェル君が……? くっ、マリディヴィアンナ! 大人しくして!!」


 全身から瘴気を生み出し、誰から与えられたかもわからない負の力を二対の大鎌へと変え、私へと攻撃の手を放ってくるマリディヴィアンナ。

 アヴェル君の身に、今何が起きているのかはわからないけれど……、こちらも手を抜く気はない。

 孤独の中で死んでいった……、哀れな幼子。貴女の深い悲しみを、抱くその憎悪を、もう、終わりにさせてあげよう。


「マリディヴィアンナ!!」


 彼女の魂が宿っている器を壊す。その為に、神の力によって創り上げた無数の黄金色の糸を水面下で操り、マリディヴィアンナの攻撃を避けながらその周囲に張り巡らせてゆく。

 

「カインさん! 離脱してください!!」


『わかった!!』


 誰にも見えない、神だけが目にする事の出来る黄金の糸。

 竜体のカインさんと一緒にマリディヴィアンナから大きく距離をとった私は、彼女の器を破壊する為の短い詠唱を紡ぎ、仕掛けておいた力を爆発させた。

 マリディヴィアンナの器が破壊され、魂が外に出た瞬間に回収出来る術。

 けれど……、――予想していた手応えはなかった。

 それどころか、再びパルディナのオルゴール箱から力を発動させる為の命令歌が響き渡り、最初のものよりもおぞましい歌声が鼓膜を引き裂くかのように私達へと襲い掛かってくる。


「な、何……っ!? これ、はっ」


『う、うるせぇ、とか、そういう問題じゃねぇ、だろ、これ……っ』


 人形の方に行ったはずのお父様とサージェスさんは……っ、一体どうなったの!?

 何とか地上を見下ろすと、佇みながら歌っている人形のすぐ近くに、蹲って耳を押さえているお父様達の姿があった。


「ニュッ、ニュィィィ……ッ」


「ファニルちゃんっ!」


 私の腕の中で大人しくしていたファニルちゃんが、歌声の歪過ぎる響きに耐え切れなくなったのか、ぐったりと長いふさふさのお耳や尻尾を垂らして気を失ってしまう。

 不味い……、この音は、瘴気を……、いや、これは、災厄の気配を色濃く増幅したものだ!

 パルディナのオルゴール箱は、十二の災厄とは似て非なる存在。

 確かに災厄の力を発動させて不幸を作る事は出来るけれど、あの人形に……、ここまでの力があるなんてっ! 私は意識を失っているファニルちゃんを抱え込んでさらに上空へ飛ぶと、この恐ろしい歌声とオルゴールの力から人々を守る為に神の力による結界を王国中に張り巡らせた。

 マリディヴィアンナの魂の回収も終わっていないこの状況……。

 大よその範囲を定めて強力な結界と、同時に強い浄化作用を送り込む作業をやっていた私は、やがて静まった歌声に、ほっと息を吐いた。

 お父様の右手が、人形の首を鷲掴んでいる。その場所から一気に力を送り込んだのだろう。

 人形は粉々に砕け散り、砂となって消えていった……。地面に、パルディナのオルゴール箱だけを残して。


「お父様!」


「おい、何だったんだよ、今のっ。内側から破裂するかと思ったぜっ」


「いやぁ……、ホント、吃驚したねー。でも、ソルさん、さっきの……、ユキちゃんのもう一人のお母さんの姿を真似ていた人形、最期に嗤ってたね」


「あぁ……。嫌な置き土産を寄越していったものだ。ユキ、お前の方も、取り逃がしたようだな?」


「はい……」


 もう、見なくてもわかる。私の許に、マリディヴィアンナの魂が回収出来ていない。

 地上から遥か頭上を見上げ……、彼女が仲間の手によってか、自分自身の力でか、逃げ延びた事を示すように、そこには静かな闇だけが、広がっていた。

 操られていた敵の群れも、姿を消している。完全に退却した後の図だ。

 

「でも、これで……、――ッ!!」


 今夜の解呪は無事に済みそうだ。そう、安堵したのもつかの間の事だった。

 私達の足元……、いや、これは、塔の地下から?


「行くぞ。厄介な事になった」


 苦し気に小さな声を漏らしているファニルちゃんに治癒と浄化の術をかけた私は、可愛いもふもふのお友達をカインさんとサージェスさんに預ける事にした。


「カインさん、サージェスさん、ファニルちゃんと一緒にレゼノスおじ様達と合流して下さい。後は、私とお父様で行きます」


「はぁああ!? 何言ってんだよ、お前!! まだ何かあるんだろうが! 俺もついて」


「ユキちゃん、皇子君を遠ざけるのは、まぁ、わかるんだけどね……。俺も、頼りない? 一緒に行っても、役に立たない、かな?」


 一緒に行くと言い張ろうとしてくれたカインさんを遮り、サージェスさんは寂しそうにそう尋ねてきた。違う、違う、頼りないからとか、力がないとか、そういう事じゃなくて……。


「お父様と私、そして、塔の地下にいるレイフィード叔父さん達は、神としての目覚めを迎えています。だから、多少の事がっても、それ以上の事があっても、神や災厄の力に抗う事が出来るんです」


 さっきまでと、状況が大きく様変わりしてしまった。

 塔の地下から感じられる、蛇が肌を這い回るかのような、恐ろしい気配……。

 これは間違いなく、災厄の力。――人形の次は、おそらく。

 神でない者がこの先に進むのは、命を代償とする可能性がある。

 そう説明した私は、サージェスさんとカインさんの手を交互に握り締めて頭を下げた。


「お願いします……、王宮の、国の皆さんを、どうか、守ってください」


「ユキ……」


「ユキちゃん……」


 温もりを手離し、私はお父様と一緒に背を向ける。

 大丈夫、塔の地下にはレイフィード叔父さん達がいるのだから……、不味い状況になっていたとしても、神を五人も相手に、災厄がそれを凌ぐ事は――。

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