第52話 マーブル人間たちの帰路
…タイヤが道のぬかるみにはまり、ついに立ち往生してしまったボンゴ1boxの前でガックリとうなだれているサダジを見て祖母キノが言った。
「なんしたてがで?…どうど人のいるんだんおせやずるろうぜ!」
※訳(どうしたって言うの?…大勢人がいるんだから押せば動くでしょうよ!)
「よしっ!じゃあみんなで車を押すぞ!」
キノの言葉を受けて清吉叔父がそう言ったので、サダジ以外の乗員は全て外に降りて車体の後ろに回り、身体を押し付けてスタンバイ態勢をとった。
「それじゃあ俺がアクセルを踏み込むタイミングに合わせて一気に押してくれ!」
サダジが運転席の窓から顔を出して後ろのみんなに叫んだ。
…弱い雨がぽそぽそ降る中、祖母から孫まで文字通り一族の総力を結集しての大脱出作戦となったのである。
「よし、行くぞっ!」
サダジがアクセルを踏み込んだ!
車の尻がガガガッと震える。みんなは必死に車体を押したがボンゴ1boxは前にほとんど進まない。踏み込むアクセルと押すタイミングが微妙にズレてしまったのだ。
「もう一度だ!」
「せ~のっ!」
…今度はサダジと押す7人との呼吸がかみ合い、車は少しずつ前に動き出した。
「もう一息だっ!」
7人は力を振り絞ってさらに押す。
ボンゴ1boxは尻を振りながらずりずりと前進し始めた。後輪が激しく回転しながらドバババババッ ! と泥を跳ね上げる!…しかし押す力を緩める訳にはいかないのだ。
…何十秒かの格闘の後、ようやくタイヤは地面を噛み始め、車は自力で進んでみんなの手から離れて行った。
サダジは前方の坂を上がり切った所まで車を走らせて、道端に停めた。
「やった~!」
「あ~良かった!脱出成功~!」
喜び合う押し手の7人だったが、お互いにその後の姿を見れば、みんな顔から腹から足まで全身泥玉マーブル模様になっていたのであった。
「やだ~っ!何これ~っ !?」
トシコとヨシコは大いに嘆いたが、
「アッハッハ~ッ!マーブル一家になっちゃった~!」
と王子は能天気に大はしゃぎである。
…ピンチを脱して動き出した車は峠を越えて山古志村に入った。
道路は少し路面状況が良くなり、車は安定した走りである。
豪雪地区なので村内の主要な道路は山ぎわの所々でスノーシェッドに覆われていた。
「…山古志に来たなら、ちょっと虫亀のフミの実家に顔見せに寄ってみようかな!…」
ハンドルを握るサダジが明るく言った。
「こっげきったんなりで何よそどこなんいかっずやばか!」
※訳(こんな汚ない格好でどうしてよその家になんて行けるのよっ全く!)
それを聞いたキノを始め女性陣からは総スカンである。
「…へぇはやけぇろんや!」
※訳(…もう早く帰ろうよ!)
キノの言葉にマーブル人間たちは素直に頷き、ボンゴ1boxは山古志村を素通りして竹之高地へと帰路を急いだのであった。
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