第43話 電車急行佐渡号で新潟へ
上野駅を発車した165系電車急行佐渡号は快調に夏の関東平野を走る。
…首都圏と新潟を結ぶ国鉄上越線は、沿線の風景も変化に富み、四季それぞれに自然のバリエーションを見せてくれる、王子の大好きな路線である。
中小の都市と緑の田園が流れる関東平野の風景を眺めるうちに、やがて列車は群馬県に入って高崎駅に停車。
高崎発車後、榛名山と赤城山が左右行く手に迫って来ると、渋川から先は一転して峡谷を走る山岳路線となり、利根川源流部の水上温泉を過ぎれば上越国境谷川岳の下、日本最長の新清水トンネル (この当時) を抜けて一気に新潟県へ…景色はドラマチックに移り変わり、車窓に飽きることが無い。
群馬県の山は峡谷や岩場が多くゴツゴツした感じだが、新潟県の山々は稜線が美しく女性的なイメージである。
…越後中里から石打にかけてはスキー場銀座で、車窓からは夏の間に草原と化したゲレンデがいくつも見える。
まるでアルプスの少女ハイジが、やたら長~いブランコで遊んでいそうな景色である。
へよ~んと緩んだ顔で車窓風景を眺めるうちに、列車は魚沼盆地から小千谷市の山あいを抜け、新潟平野の田んぼ地帯に出て、間もなく長岡駅に到着した。
上野から4時間ちょっとの列車旅行であった。
…電車を降りた王子とキノは、駅前から越後交通のバスに乗って蓬平に向かう。
今年の春にようやく竹之高地まで車が通れる道路ができても、やはり路線バスは一つ下の蓬平集落までしか行かない…。
田んぼばかりの新潟平野から山間部へ、太田川沿いの県道をバスは上がって行く。
冬の間は雪また雪の白一色の世界が広がるところだが、夏は野も山も草や青葉の緑一色である。
…車窓からの渓流を眺めながら走って、駅から所要45分ほどでバスは蓬平に到着。
下車した2人は休む間もなく徒歩で竹之高地へ…。
辺りはすでに日も暮れて、だんだんと薄暗くなりかけていた。
山中の田舎集落ながら温泉の湧く蓬平には旅館も3軒あり、宿の前の渓流に沿った道ぞいには土産物屋が数軒並んでいた。
そこを通り過ぎると白蛇神を祀る高龍神社があり、ここまでは一般観光客も訪れるところだが、さらにその先に山道が続き、1、5キロメートルほど奥まった山崖に落差40メートルの不動滝、さらに滝上の山峡に竹之高地という秘境の里があることは、長岡市民でも知る人はほとんどいないのであった。
…山の斜面をずんずん登る細道を、祖母キノは健脚逞しく歩く。
キノの背中のつづらには、こちらへ出発する時にフミが慌てて詰めたパンやケーキ、水羊羹などのお土産が入っていた。
…空に星がチラチラしだした頃、ようやく2人は竹之高地の森緒本家にたどり着いた。
ちなみに森緒本家にも屋号があり、集落内では「長兵衛」と呼ばれていた。
「王子~!…良く来たね~!」
「また大きくなったね~!」
「遠かっただろうに偉いね~!」
…例によって本家4姉妹の中のミツイとヨシコとトシコが笑顔で王子を歓迎してくれた。
「こんばんはー!お世話になりま~す!…あれっ?」
玄関を上がって居間に通された王子はしかし、意外なことにビックリした。
…そこには王子の全く見知らぬ男が座っていたのである。
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