第31話 ホワイト イン 新潟
…次に目覚めた時にはすでに朝になっていた。
列車はどこかの駅に停車しているらしく、動きを止めていた。
しかし、窓の外を見た王子は驚きの声を上げた。
「うわっ、すご~い!」
窓ガラスの向こうは一面の雪景色で、まさに白一色の世界だったのである。
駅のホームも、屋根の無いところにはおよそ1、5メートルくらいの積雪があり、今停まっている列車の隣にあるはずの上り線レールは全く雪に覆われてしまって見えない。
駅周辺の建物も向こうに見える山も、全て真っ白な世界になっていたのであった。
「…もうずいぶん長いこと停車してるんだよ、ここに…!」
王子と向かい合いの席に座っているフミが、眠そうな顔で言った。
…仕方なく、家から持ってきたミカンを剥いて2人で食べていると、やがて車内にアナウンスが流れた。
「御乗車お疲れ様です。…え~昨夜からの大雪のため、この列車は石打駅に停車をしております。…え~現在、この先の線路の除雪作業を行なっております。…発車までもうしばらくお待ち下さい」
…これを聞いた王子は「うへ~…」と思ったが、他の乗客らを見ると、みんな顔色も変えず平然とした様子であった。
石打は国鉄上越線の、越後湯沢の隣の駅である。…おそらくこの地域では積雪で列車が止まるなんて別に珍しくも無いことなのだ。
王子が雪景色にも飽きて眠くなってきた頃、ようやく列車は動き出した。
外はまた激しい雪となり、白い世界にさらに積もっていく。
およそ地面というものが全く無い白だけの色の中を、車輪の規則的な振動を伝えながら列車は進む。
空模様は限りなく白に近い灰色、山に見える背の高い杉の木は降雪にけむって黒に近い灰色、…景色に明彩色が無いことが王子に遠いところに来たんだなと感じさせていた。
六日町、小出、越後川口、小千谷と雪降る町を通り過ぎ、予定よりだいぶ遅れてようやく列車は長岡駅に到着した。
…長岡は新潟県では2番目に大きな都市で、市街にはビルやデパートもあってそれなりに華やかである。
フミと王子は改札口を出ると、駅前から山古志村方面行きのバスに乗って、いよいよ虫亀に向かう。
大好きな鉄道にたくさん乗って満足顔の王子に対し、なぜかフミの顔色にはどことなく悲壮感が漂い始めていた。…
…2人を乗せた越後交通のバスは長岡の市街を抜け、雪面の新潟平野を突っ切って走る。
山古志村の虫亀集落は、長岡駅から南東方向に14キロほどの道のりを進んだところにあり、例によって豪雪の山間僻地である。
平野が終わって山裾の村松集落から太田川の谷に沿って山間部に入ると、積雪が一段と増え、窓の外の白一色がまるでバスを圧迫するかのように感じられる。
…結局この日は、大雪のためバスは次の濁沢集落までで運行取り止めとなってしまった。
「…やっぱり虫亀までは上がってくれないかぁ!この雪じゃねぇ…」
がっかりするフミと王子を降ろすと、バスはUターンしてさっさと去って行ってしまった。
濁沢からだとまだ虫亀まではざっと6キロはある。…しかも登り坂の真っ白な雪道なのだ。
しかし王子は周りの雪景色にちょっとはしゃいで、雪道をダッシュして駆け出した。
50メートルくらい走ってフミの方を振り向いたとたんに足が滑って、王子は路面に積もった雪に顔を突っ込んで転んだ。
それでもう王子は全身雪まみれになり、襟首の中にも履いている長靴の中にもたくさんの雪が入った。
…という訳で王子の元気は一瞬にして萎み、身体はあっという間に冷えたのであった。
「バカっ!雪道でふざけてるんじゃないよっ!」
フミに叱られ、身体は凍えて王子はすでに半べそ顔である。
積雪は道路上で30~50センチ、周囲の野や山の雪はざっと1メートルを超え1、5メートルくらいありそうだった。…子供の長靴には厳しい道行きだが、もう歩くしか無いのだ。
フミは王子の手を引いて雪道を踏みしめ黙々と歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます