第13話 サダジ編 真 * 手賀沼バカンス
サダジ編 真 * 手賀沼バカンス
…実は最近になってサダジは自分の家族について悩んでいた。
お姉ちゃん2人が増えて華やかな一家にはなったが、フミの商売が忙しく、家族揃っての食事もままならぬ状況に、みんなの心の絆が繋がらないのでは?…と思っていたのである。
会社の同僚らにそのことを言うと、
「サダちゃん、そりゃあ家族で休日バカンスに行かなきゃ!」
仕事仲間にそう言われた。
「なるほどそりゃ良いなぁ!夏のバカンス!と言ったら、湖だ!…湖と言ったら、ボートだな!…ボートと言ったら…水遊び!」
という訳でサダジの三段跳び思考回路により、バカンス先は千葉県立自然公園に指定されている我孫子の手賀沼に決定!…さっそく家族を連れてその週末に張り切って出掛けて行ったのである。
現地に着くと、素早く手漕ぎボートを借りてフミと王子とタマイを乗せ、自分でオールを握って湖面に舟を発進させた。
王子は舳先に陣取ってはしゃぎ、フミとタマイも笑顔で寛ぎつつ、綿雲流れる空の下、湖面を渡る心地良い風に吹かれて沼の中央まで来ると、サダジはアロハシャツを脱ぎ、海パン姿になって水に飛び込んだ。
湖底まで澄みきった淡水の中を気持ち良く泳ぐと、いつの間にかボートの3人は水上の揺りかごでゆらゆらまどろみながらすやすや眠ってしまっていた。
それを見てサダジは大きく息を溜めて沼の中に素潜りを始めた。
…潜ってみると、水の中の世界は素晴らしいものだった。
そよそよと揺らぐ水草の茂みには、小さな魚や沼海老などが、水面から射し込む光をキラキラ反射させながら泳いでいた。
それらにサダジが手を伸ばすと、驚いてパッと散って逃げて行った。
時々遠くの湖底を大きな魚影がよぎる。
…サダジは夢中になって何度も素潜りを繰り返し、さすがにだんだんと疲れてきたので、水面に顔を出して見たらボートが無かった。
「何だ、やつらはボート漕いでどっか移動しちまったのか?」
そう思って上を仰ぐと、にわかに空はかき曇り、風が少し強くなって怪しい雲行きになってきた。
…仕方ないのでサダジは岸に向かって泳いで行った。
ところが沼岸近くまで泳ぐと、短パン姿の地元の子供たちが、木の棒で水の中をほじくっているのを発見した。
何してるのかと訊くと、貝を採っていると言う。
面白そうなので、サダジも子供たちに混じって木の棒で貝掘りを始めた。
…時間を忘れて子供らと笑いながら楽しく作業すると、黒い大きな貝が両手に一杯くらい採れた。しかも食べられる貝だと言う。
サダジが喜んでいると、子供の一人が沼を指差して叫んだ。
おじさん、舟が一艘こっちに向かって来るよ!
見ると、確かに舟が真っ直ぐサダジの方に近づいて来るのが見えた。
しかも目を凝らしてよく見れば、乗っているのはフミや王子のようだった。
「俺を迎えに来てくれたのか?…よくここが分かったな!」
サダジは笑顔で舟に手を振って応えた。
…その時、雲の隙間から太陽の光がスッと伸びて湖面をキラキラと照らした。
「おぉっ!綺麗だな!…お土産の貝も採れたし、今日はバカンスに来て本当に良かったなあ!」
サダジはそう呟いてしばし満足感に浸ったのである…。
サダジ編 真 * 手賀沼バカンス
完
※追記
先日、私が両親を訪問した際、およそ半世紀前のこの手賀沼の話題になったので、父に思い出を訊いたところ、
開口一番にサダジは言いました。
「あぁ!手賀沼の貝は美味かったよ!」
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