第12話 救助船とフミ

 …フミの言葉を信じ、必死に杭を掴んで救助が来るのを待つタマイと王子…!

 風に揺れる葦のがしゃがしゃという音。

 沼で何かが跳ねたボチャッ!という音。

 ケモノが蠢くのか草藪のガサッ!と擦れる音。

 それら全てが2人に不気味な恐怖感を与えて、タマイと王子は舟の上で身体を寄せ合いしくしく泣きながら不安な思いに怯えていた。

 …どうしてこんなことになってしまったのか?

 …サダジはいったい何処へ行ってしまったのか?

 2人は頭の中でぐるぐる思ってみたが今はもうなすすべも無いのである。


 …やがて杭を掴む腕も疲れて気持ちもぐったりしてきた頃…。

 どのくらい待ったのであろうか?…遠くの方からドドドドドドッと舟のエンジンの音が聞こえて来たのである。

 ハッ!と振り返ると、船尾にモーターを着けたボートがこっちに向かって来るのが見えた。

 舟にはエンジンを操る男の人とフミが乗っていた。

 それを見た2人は張り詰めていた気持ちが切れ、わんわんと泣き出してしまった。

「…泣くんじゃないよ!さあ帰ろう…」

 フミがそう言うと、男の人が慣れた手つきで王子らの舟にロープを掛け、舟を繋いでボート小屋の方へ曳航して行ったのである。

「あっ !! 」

 …しかしボート小屋が近づいてきた時、フミが突然右手の沼岸の方を指差して叫んだのである。

「お父さんがあんな所にいるよっ!」

 目を向けると地元の子供らしき数人と一緒に何か遊んでいるサダジの姿が岸辺の方向に小さく見えた。

 フミは舟の男の人に叫んだ。

「あそこで子供と遊んでいる親父も拾ってきて下さいっ!」

 …という訳で舟は右手に進路を変え、フミは立ち上がって腕組みをしてサダジを拾いに向かったのだが、王子とタマイが見たフミの後ろ姿からは、怒りの炎のオーラがはっきりと見えたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る