2月16日 本に呼ばれて/迷宮の王を読んで

 久しぶりに本のほうから私に話しかけてきた。

 雪車町地蔵だ。


 おかしな話だと思うかもしれないが、私は本に話しかけられた経験が幾度となくある。

 いや、本当に口を利くわけじゃない、そんなオカルト有り得ません。


 書店で本棚の前を通過するとき、奇妙な引力を感じる瞬間があるのだ。

 呼ばれるままに視線を巡らせると、無数の書籍の中から、一冊が語り掛けてくる。

 それを手に取った瞬間、確信するのだ。

 これは、私が読むべくして手に取った本なのだと。


 本当のことを言おう。

 この数年、そんな経験は久しくなかった。

 私の感覚が鈍っていたのか、あるいは流行とたまたまベクトルが違ったのか。

 先日書店を訪ねたとき、戸惑うような衝撃を受けた。


 そう、以前のようにまた、本が話しかけてきたのである。

 そうして手に取った本が、「迷宮の王 1 ミノタウロスの咆哮」著作 支援BIS (敬称略) である。

 ネクストファンタジーを謳う、レジェンドノベルの既刊だった。


 冒頭を読みだして、巧いと唸った。

 思わず引き込まれる文章……というよりも、これは先で起こることを知らなくてはいけないぞ、見届けなくてはならないぞと使命感を抱く内容だったのだ。

 そうして一気に読了し、私は大いに喜んだ。

 傑作だった。

 言葉が足りないかもしれないが、そう評価して間違いのない代物だった。


 旧き善きファンタジーという概念があるとして、そのフォーマットをまるっと最新のものに変換すれば、これほどの傑作が生れ落ちるだろうか。

 スキル、レベルといったゲームなんかでは慣れ親しんだ言葉が、しかししっかりと、その世界で息づいている。

 息づいたうえで、物語の重要な根幹を形成している。


 ストーリーについては、ぜひあらすじだけでも読者諸氏の目で確認してほしい。

 ひと目で魅力的とわかる代物だし、ここでネタバレするほど私は野暮ではないし、読者諸氏の最高の読書体験を奪うわけにはいかないからだ。


 ハードな物語が軽快に、疲れを覚えるいとまもなく最後まで描かれているのである。


 この作品を読んで、私は大きな安堵を得た。

 古い時代から一線級で戦い続けている先達、はるかに遠い彼らの背中をとらえる作品が、確かにここにあったからだ。

 いつまでも英雄たちを酷使する必要はないと、とっくに新時代へのバトンはわたっているのだと、そう声高に叫んでくれる物語が存在したからだ。

 この事実を以て、私は迷宮の王を傑作とたたえることを決めた。

 私の世代が知っているファンタジーが、最新の形でそこには存在していたのだから。


 だから、どうか読者諸氏も、この物語に触れてみてほしい。

 なるほどたしかに、これはネクストファンタジーであると、うなずくことができる、素敵なお話だから。



(……えらい熱の入れようじゃないか)

(素晴らしいものは無条件で称えますよ。嫉妬や邪念を抱きようがない傑作でした)

(そこまで言うのは珍しいな)

(それだけすごい物語だったということです。とまあ、熱く語ってきましたが、今日はここまで。それでは、アデュー!)

 

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