裏切り

 どこかの部屋で星城家――瑠璃と葛城家――賢二のお見合いが行われている中。


「………………」


 夜は一人、別室にて待機、否、隔離されていた。


 結局、瑠璃に彼氏がいようがそんなの関係ないと、瑠璃の気持ちなど放っておけばいいと言わんばかりに、お見合いが中止になるわけもなく、予定通りに行われることになった。


 故に、お見合いをなかったものにしようと画策している夜が邪魔だったのだろう。侍女に案内された部屋に入った瞬間、閉じ込められてしまったのだ。わざわざ、錠をかけるほど厳重に。


 去り際に侍女が謝罪の言葉を口にしていたが、悪気などなかったことくらいわかる。侍女は仕えている人からの命令に従っただけなのだと。


 侍女が仕えているのは星城家、更に言えば真璃と隆宏だ。


 憶測な上に楽観的な考えかもしれないが、少なくとも友好的に接してくれていた真璃ではないと思う。


 つまり、命令を下したのは隆宏だろう。


 是が非でもお見合いをさせたい隆宏だ。邪魔をしかねない夜を隔離してその隙に強行しようとしてもおかしくはない。


 しかし、隆宏は信じてくれないだろうが、夜にお見合いを滅茶苦茶にしてやろうという考えはないのだ。


 夜はあくまでお見合いをなかったことにして瑠璃の望んでいない未来を変えたかっただけで、星城家に迷惑をかけたいわけではない。


 お見合いをなかったことにしようとすること自体が星城家に迷惑をかけることそのものだというのなら、夜には何も言えないが。


 昨日だって、真璃が許してくれた上にただお互いに顔を合わせて挨拶を交わすだけだったから非常識なこと承知の上で瑠璃の隣に座っていたが、その理由もお見合いをなかったことにして欲しいと相手側――葛城家に言うため。


 お見合いが始まってしまった今、夜にはどうすることも出来ない。


 だから、瑠璃を信じて待ち続けようと自分の無力さに奥歯を噛み締めながら心に決めたのだが。


 どうやら隆宏には滅茶苦茶にされるに決まっていると思われていたようで。心外なことこの上ないが、一連の行動を鑑みれば否定出来ないので大人しく受け入れるしかない。


 それに、閉じ込められてしまった以上夜にはどうしようも出来ないし、脱出を図ったら図ったで瑠璃に迷惑をかけることになるかもしれない。


 結局、何もすることが出来ず、大人しく待つこと一時間ほど。ここまで案内してくれた侍女が申し訳なさそうな顔をしながら鍵を開けてくれた。


 閉じ込められていた夜を不憫に思って、罪悪感が募りに募って開けに来たというわけではないだろう。


 つまり、鍵を開けてくれたということは……。


「お見合い、終わったんですね……」


 夜の確認に、侍女はこくりと頷いた。どうやら、瑠璃と賢二のお見合いは終わったらしい。


 夜は侍女にお見合いはどうだったのか、どうなったのかを聞くべく詰め寄ろうとしたところで。


「夜クン……」


 声が聞こえた方へ視線を向けてみれば、そこには華美な着物に身を包んだ瑠璃がいた。


 夜は無神経を承知の上でどうだったのか、どうなったのかを聞こうとして。


「瑠璃先輩……?」


 瑠璃の様子が少しおかしいように思えて、首を傾げる。


 その途端、夜の脳裏にいくつもの嫌な予感が浮かび上がる。


 そんな夜の予感は。


「夜クン……ううん、夜月くん。私、賢二さんと結婚することにしました」


 最悪な形で裏切られた。

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