第50話 国境へ向けて

 前国王「タケル・S・ヤマト・ローベンス」は、総司令部のモニターを睨み思考を廻らせる。 


 ローベンシア王国の首都ヤマトには王城という物は存在しない、あるのは官邸である。

官邸は公式に地下二階・地上五階建と発表されてるが、本来有る筈の無い地下四階にタケルはいた。 

地下四階の此処が総司令部・・・・であり、ローベンシア国防の中枢である。


 中央作戦司令室には大型モニターの様な物が設置され、国土と隣接する二国・・がシルエットとなって映し出されていた。


モニターに映し出されているのは、エルマー王国との国境にある空中都市「バラン」で、入国時の様子が様々な場所から撮影され表示されていた。


 エルマー王国との国境には弾丸列車バレットラインの国境駅がある。

その造りは渓谷をそのまま利用した物で岩盤をくり抜き造られており、その表面は滑らかな岩肌で構成されていた。

その姿から空中都市「バラン」といわれており、地球にあるマチュピチュ遺跡と似た雰囲気を持っていた。


 当然ながら宿泊施設なども完備され、通常はここで一泊し翌日それぞれの国へと入国になる。

両国の関係が余り良くない事が、即時入国とはなら無い理由でありる。

当然の事だが、其処では厳しい入国審査が行なわれていた。


「やはり……、かなりの人員が潜入しようとしておるか 」


「はい、諜報部からの報告でも、今までに無い人数が投入されているとの事です。

 なんとか水際で防いでおりますが、網を逃れる者が…… 恐らくは一割は出るかと思われます 」


「エルマーめ! やる気満々か 」


「向こうへ潜入した者からの連絡は? 」


「ガードが固く、中枢へは至っていないそうです 」


「無理をするなと伝えろ! 決して命を散らすなと! 」


「「「「はっ! 」」」」

数名の武官がタケルの言葉に頷く。


「北側の港で動きがあったとの報告を受けております。

 近々、荷物を届けると。 

 向かう先がヘルヴェスト連邦とだけ判明したそうです 」


「荷物とは? 」


「詳細は不明です。 ただ、危険なモノ・・だと予想できるとの報告でした。

どうも、エルマーの暗部・・・・・・・が、三十名ほど動いているのが確認できたそうです 」


「一小隊だと? 随分大掛かりだな…… 潜入ルートは何処だ?

うむ…… 我が国とヘルヴェスト連邦との国境に注視するよう指示を出せ!

だが、決して無理はするなと伝えろ! 」 


「はっ! 」

報告した武官が頷く。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 白銀しろがね沙弥華さやかと俺の三人は、ヘルヴェスト連邦との国境へと向かっている。

当然の事だが、事前にマップ追加も実施済みだ。


紅蓮ぐれんはエルマー王国へ、紅花べにばなはヘルヴェスト連邦首都へ向かっていた。

リリスはアリスと各地の支援を行なっている。


 ヘルヴェスト連邦は六国家の集合体であり、八年ごとの投票で六ヶ国の首領の中から首相が選出される。


ヘルヴェスト連邦の国土は七地域に分割されており、六個の国の中央には中央府がある。

六個の国と中央府は隣接し、それぞれの首都とは弾丸列車バレットラインで繋げられていた。

国家の指針等は中央府にある連邦政府が起案し、六ヶ国の協議により決められている。


 ローベンシアの食糧問題は何とか解決の目処はたった。 

と言っても約一ヶ月後の収穫を確実にする必要がある。

継続的に収穫量を上げる必要があり、現時点では一時凌ぎに過ぎず、長期的に考えると本格的に改革を進める必要があるのは確かだ。

でなければ、これからの戦局を乗り切る事は難しくなる。


 また、同盟国であり隣国のヘルヴェスト連邦の食糧問題も解決する必要がある。

何故なら、エルマー王国と西のアロイス帝国と事を構えるのにローベンシアだけでは厳しいからだ。


 ただ、手を貸して貰えるのかは微妙だが…… それも、北のブリタニア公国次第だと思われた。

何故か? どちらの国も一方の国と隣接しており、ブリタニア公国は湾を挟んで西のアロイス帝国と近く、陸続きでエルマー王国と接しており挟撃されると厄介な事になる。

 

 南のヘルヴェスト連邦もエルマー王国とアロイス帝国とは陸続き、しかもブリタニア公国が落とされると三方から攻められる事になる。

ローベンシアがエルマー王国と揉めているから今は安心出来ているが、ローベンシアが陥落すると次は間違い無くヘルヴェスト連邦が狙われる。


 敵であるエルマー王国とアロイス帝国の効率を考えると。

ローベンシア王国を落とし、次いでブリタニア公国を落とせば、ヘルヴェスト連邦など四方から攻めてあっと言う間に飲み込めるだろう。

それまでヘルヴェスト連邦など放って置けばよいのだから。


 それをヘルヴェスト連邦も判っており、食料問題とエルマー王国の問題を片付けるのが自国の防衛戦略的には得策だと考えている筈だ。


後は、交渉材料として食料だけでは弱い、西方のアロイス帝国との国境の守りを強化する手土産次第と言う所か……。


「重結界…… 聖霊との契約だそうだが、条件付で解除が可能だろうか?

それとも、俺が設計し錬成した魔導騎士シュバリエならば…… 」

さとるは思案していた……


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