第48話 復興と国防

「では、今後の方針と手配だが、マリアから説明させよう」


「はい。 まず農作物は全耕作地において既に収穫を終わらせました。

状況が悪いまま放置しても仕方が無いので、収穫率は度外視しての実施ですね 」


次いでファルドさんから現状の説明がある、

「まず、収穫率は前年対比で五十%程度になります。

しかし、秋から冬にかけての収穫が例年並みなら、前年比八十%程度まで持ち直すと予想されます。

この予測通りなら、国庫の備蓄を放出ぜずとも乗り切れそうですが、予断は許さない状況である事にかわりはありません。


エルマー王国がこのまま黙ってくれれば良いのですが、こればかりは相手次第なので何とも言えない状況です。


 現在、諜報部にてエルマー王国の動向を探ってはおりますが、現時点で確度の高い情報は入手できておりません。

 それと、問題の変異種のワームについては、全域での駆除が進行しており後二日程で完了します。

あとは、対策済みの肥料を使って土壌改質を行い、作付けをするだけになります 」


「お願いしていた肥料の回収はどうなっていますか? それとテスト結果は? 」


 一度肥料を時空庫内へ保管し時空庫内錬成により分析・分解・再構築して問題のワームを分離する。

後は地球の肥料と合成する事で遊者補正が波及する事も判り、分離合成と錬成作業を行なうために、全ての肥料を此処へ集めて貰っていた。


「分離合成していただいた肥料ですが、テストしたところ、さとる殿の国より持ち込んだ物と同等の効果が確認できました。 

そのお陰で、食糧難は数ヶ月で解消できる見込みです。

 

 回収の方も既に手配が終わっており、三日後には全て此方に届きます。

分離合成して頂いた肥料と作物の出荷も、昨日よりはじまっております 」


「では、打ち合わせが終わりましたら作業を再開しますね 」

 

「ファルド後は任せるぞ。 

済まぬが、軍務の方が忙しく此処で失礼させて貰うが、必要な物等は遠慮なく言ってくれ 」


「「はい」」

そう返事を返し、タケル伯父さんが退室するのを見送る。

 

「作物と肥料関係は問題ない様ですが、輸送と魔法師の手配は大丈夫ですか? 」


「輸送も魔法師も大丈夫ですよ。 

輸送については地下を走る弾丸列車バレットラインで主要五都市間へと繋がっておりますので、そちらでの優先輸送を実施しています。

それよりも、エルマー王国への対応の方が問題ですね 」


『うむ、確かにそうだな。 いま輸入を断ると感づかれる危険があるの。

少しでも時間は稼ぎたいところだな 』


『今は、紅蓮ぐれんが探っている最中だから、相手に気付かれるのは避けたいわよね 』


「ファルド、暫くはエルマー王国からの購入は継続して下さい。

今は、気付いた事を知られない方が良いでしょうからね 」


「では、俺と沙弥華さやかは昼間に肥料の合成を、夕方からは魔道騎士シュバリエの錬成を行ないますね 」


「はい、お二人とも宜しくお願いします 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 ローベンシア王国の首都ヤマトには王城という物は存在しない、あるのは官邸である。

石材やモルタル似た物、硬質ガラスのような建材を使い建てられている。

中高層建築で地下二階・地上五階建ての建物である。


 会議室を後にした前国王「タケル・S・ヤマト・ローベンス」は官邸の地下に居た。

官邸は公式に地下二階・地上五階建と発表されてるが、本来有る筈の無い地下四階に赴く。 

地下四階の此処が「ローベンシア総司令部」であり、国防の中枢である。


この世界には魔法があり錬成術がある。

知恵のある者達は魔法だけに頼らず、様々な錬成機器を生み出してきた。

地球で言う輸送・農業・工作機器から通信機器まで。


 中央作戦司令室には大型モニターの様な物が設置され、国土と隣接する二国がシルエットとなって映し出されている。


 このモニターは、特殊な結晶を用いた板状の錬成物で任意の映像を映し出す。

ただし、この世界では衛星通信などの超遠距離通信設備は無いため、広域な双方向通信は出来ない。


空は竜種の領域であり中継器や観測機などを設置できない。

一度その領域を侵せば、相応の対価を支払う事になるからだ。

これはローベンシアに限った事ではなく、この世界に住む者の常識である。


 殆どの国は有線式の通信網を構築している。

地球で言う無線通信は魔力により可能だが、他の魔力干渉や傍受の観点から普及はしておらず、もっぱら娯楽関連などの映像配信に留まっていた。


 ローベンシアでは有線式の他、光魔法を使った遠距離通信も行なっているが、重要な技術情報は秘匿され各国工夫をし行なっていた。


前国王「タケル・S・ヤマト・ローベンス」は、「総司令部」のモニターを睨み思考を廻らせる。


その先にある、エルマー王国の思惑を掴み取るために……。

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