第24話 湖水に棲む者

  地球と異世界との二重生活? を始めて既三ヶ月が経とうとしている。


 今日は此方へ着くと、白銀しろがねよりマップ更新の相談を受けた。

沙弥華さやかとも相談し、新しいマップの開放を行なう事にした。


開放に必要なポイント・・・も結構貯まっていたので、マップの開放に問題が無かったという事もある。


 ただ、次のナビ本体のバージョンアップが問題だった。

新たなマップを攻略出来ればポイントは問題無いと言っていたが、他種族との接触が発生する心配があるからだ。


 まだ、心の準備も、技術的な準備も整っておらず……来春まで鍛錬を続けてから行おうという事になった。


今は9月下旬でもう暫くすると冬の到来だ。

その間は初期マップと、今回開放したマップの領地化・・・と鍛錬を優先する事にした。


 しかし、これから行なおうとしている鍛錬には白銀の能力開放・・・・が必須との事で、急遽、MトレックをLV3へバージョンアップした。


白銀しろがねの能力って? 」

と質問すると。

最初に言っていた『三身(さんしん)』の開放だそうで、


『哲殿、「ヘルハウンド」と「ケルベロス」が顕現出来るようになるのだが、取り敢えずは一人が顕現する事になろう 』

と言うことだった。


『多くは語るまい。 後は…… 見てのお楽しみだな 』


と教えてくれなかった。

まぁ、楽しみしておこうと思う。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 その夜の事は暫く忘れていた、何故か思い出すことも無く……。


 この世界には月が二個・・・・ある、どうしてか地球と同じくと呼ばれていた。

二つの月は、大きな軌道を描く「響月ひびき」と、小さな軌道を描く「彗月はづき」と呼ばれていた。

常に二つの月が夜空に在る訳では無く、月に一度だけの共演となる。

 今夜は、そんな貴重な夜だと知り、月夜酒だと一人野湯へと足を運んで来た。


沙弥華さやか白銀しろがねにリリスは、囲炉裏で寛ぐそうだ。

気を使って一人にしてくれるらしい。

本当に良い家族だと思う。

 

 二つの月が湖面を泳ぎ、立ち登る湯気との舞を演じているようだった。

水面みなもの月を波で壊すのを躊躇ったが、何時までもそうして眺めて居るわけにもいかず、掛け湯をして温泉へと身を沈めた。


 檜の木桶きおけに日本酒やさかなを入れ、野湯に浸かり夜の湖水を望む。

「ふ~っ。 何時来ても良い湯だな~ぁ。 しかも月見酒か! 少し親父臭いかな? 」

等と一人ごちる。

湖面の月を眺めながら一杯、また一杯と温燗ぬるかんを頂く。


 ふと、何かの気配を感じ・・・・・、湖水と野湯の交わる水面みなもへと視線を送った。


 視界に入った者に意識を奪われる。

しかし、そこに在る者の違和感に、その時の俺・・・・・は気付けなかった。

いや、そこに佇む者に魅了されていたのだろう……と思う。

なぜなら、そこであった事を暫く先まで思い出すことは無かったのだから……。


 二つの月がスポットライトの如く照らし、その輪郭を浮き上がらせる。


 そこに在るのは、白く透き通る長い髪の女性だった。

その艶かしい肢体には纏う物は無く、その女性らしい部分を際立たせるように強調していた。


 濡れそぼる白い髪が、その美しく突き出した胸に絡みつくと、月明かりが反射して艶かしく輝いていた。

身体から滴り落ちる雫が煌き、より一層に妖艶さを醸し出す、その美しさに暫し目を奪われて……時が止まったような錯覚をおこした。


 気付けば彼女の元に歩み寄っていた……。


此方を見る彼女の瞳に、何故か既視感を覚えるも、その意識はすぐに霧散してゆく。

何かを囁かれた気がしたが、そこで意識を手放した。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 その頃、囲炉裏囲んでいた三人は。

『白銀様? 』


「(……お兄ちゃん? )」


『二人ともここに居るのだぞ 』

そう言って白銀しろがねは野湯へと向かった。


 湖面に浮かぶ二つの月の傍らには、月明かりに照らせれる寄り添う二つの影。


白銀しろがねは、さとると野湯に佇む女性を視界におさめると、もう一人・・・・に声を掛けた。

『黒髪の、御主の知り合いの様だが、どうする? 』


『……私が出ましょうか? 』


『うむ、真意が判らぬゆえお願い出来るか? 』


 そう言うと白銀しろがね消え去り・・・・・、入れ替わるように、漆黒の長い髪を棚引かせ、紅い瞳をした美しい顔立ちの女性が現れた。


白い髪の女性と負けず劣らず、主張する胸は美しい陰影を描き、キュッと引き締まった肢体は神々しさすら感じる。

腰から爪先までの曲線が女らしさを更に強調していた。


『あら、久しぶりね。 お元気だった? 』


『相変わらずさ、そちらは元気そうだな。 所で、その殿方をどうするつもりだ? 』


『ふふっ。我慢できなくって逢いに来ちゃったの』


『んっ? その方を知っているのか? 』


『ええっ。 哲さん・・・の事は昔から・・・知っているのよ。

……そう、随分と昔からね、私の片想いだけど 』


『危害を『好きな人に、そんな事するわけないでしょ! 』……ではないのだな 』


『ただ、逢いたかっただけ……。 今はそれで十分よ。

今は眠っているの、私の事は知らないまま、それで良いの……。

もう行くわね。 哲さんの事をお願いね 』


『判っている、私達に任せておけ 』


『絶対よ! いずれまた、今度はあの方と一緒に逢う事になるかしらね? 』


『多分、……そうだな 』


そう言うと抱き抱えていた哲を預け、白い髪の女性は湖水へと消えていった。

その消えゆく後姿を眺め終わると、黒髪の女性は哲を抱き上げ白銀達の待つ囲炉裏へと向かった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


「お兄ちゃん!? って言うか貴女は誰!?? 」


哲を抱き抱え、漆黒の長い髪に紅い瞳、美しい顔立ちの女性が入ってきた。

『沙弥華様、あの方はヘルハウンド様ですの 』


白銀・・は どこ? 」


『白銀は、今は休まれている。 私が顕現しているらな 』


「お兄ちゃんはどうしたの? 大丈夫なの? 」


『心配は要らない。 少し眠っているだけだ、暫くすれば目を覚ますだろう。

取り合えず寝かせたいのだが、そちらで良いか? 』


「ちょっと待ってて、今布団を敷くから 」

そういって沙弥華が敷き布団を用意した。


『では、そちらへ寝かせるとしよう 』

そう言うとヘルハウンドは哲を布団へ寝かせた。


「何があったの? 」


『昔なじみ? と言っていたが、恐らく哲殿には認識はないのだろうな。 危害を加えに来た訳では無さそうだったが。 ただ、ひと目逢いたかっただけだと…… 』


「良く判らないのだけれど……」


『聖霊様でしたか? 』


『そうだ、一糸纏わぬ姿で佇んでいたが、相変わらず・・・・・美しい女性ひとだったぞ。

余程魅惑的だったのだろう、哲殿もタオル越しにも判るほど大きくなっいるだろ!

 

 それにしても立派なモノ・・だ。 

女と生まれたからには、殿方にこの様に反応して貰えるのは羨ましく思うぞ。

私をても同じように感じて下さるだろうか? 』


『まあ……、ご立派・・・なのです 』


「……はい? 」

沙弥華はその言葉に思わず反応してしまい、視線がタオルに隠されたソレ・・に向いてしまった!


「きっ、きゃぁあああぁぁぁぁぁ~! 」


茹蛸もかくやとばかりに真っ赤に顔を染め、ソレ・・から視線を逸らして叫んだ!

「ちょっ、ちょっと!?……なんて物見せるの! 何なのょぉ~~! 」


『どうされたのだ? 』


『沙弥華様には刺激が強かったのです 』


『そうなのか? 』


「ほっ、ほっといてよ……」


『沙弥華殿。 次逢う時までで構わない、私にも白銀のような良い名を頂けないかな 』


「こ、こんな状態じゃ無理だから……考えておくわね」


『宜しく頼む。 では白銀と替わるとしよう 』

そう言ってヘルハウンドは光に包まれ消えると、同時に白銀が笑いを噛み殺しながら現れた。


『ぶふっ……ウぉほんっ! 哲殿に何事も・・・  無くは無かったが、先ずは良かったな』

白銀は、視線をさとるの下半身のモノ・・へと向けながら呟く。


「……シロ君」


『うっ……スマヌ 』


『白銀様? あの者は一体誰だったのですか』


「そうよ、お兄ちゃんに逢いにとか言ってたみたいだけど 」


『この湖に棲む聖霊……白竜と言う。

沙弥華殿の世界で言うと龍神と言うのが妥当か。

まあ、敵ではない事は判ったのだ、今後も問題ないであろう。

それに加護も有るようだぞ 』


「加護? 」


『哲殿には水聖の加護が掛けられたようだな。

この世界では、聖職者達が使う治癒などの魔法を使えるようになる筈だ。

いずれにせよ魔法については次の段階での事だがな 』

 

皆でそんな話をしながら、兄が目を覚ますまで囲炉裏を囲み酒宴を続けるのだった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 目を覚ました俺を待っていたのは、顔を赤らめ目をそらし続ける沙弥華と、それを面白そうに眺める白銀とリリスだった。


訳が判らず沙弥華に近づくと、

「お兄ちゃんの、ばかぁぁぁ~!」

と何故か引っ叩かれた。


「何故? 」

 

誰か教えて欲しいと、理不尽だ! と天を仰ぐのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る