第22話 鍛錬と思惑と

 温泉から戻った翌日。


 金曜日の夕方に向かったので、向こうで三泊してもあと一日休みがあるのです。

沙弥華さやか白銀しろがねは残りの休日を自宅でスタートさせた。


シロ君は私のコレクションがお気に入りのようです。

私と兄が仕事で留守の間、DVDをリリスに入れ替えて貰って鑑賞しているようでした。


 漫画コレクションもリリスと読んでいるシロ君でしたが、紙の物では無くタブレットを器用に使って二人で鑑賞しています。

 最近は電子書籍と言う便利な物があり、出先でもコレクションを鑑賞できるのは、

「幸せと言わず、何と言うのでしょう! 」


 今日は天気が良いので、シロ君と鍛錬をしようと考えています。

兄は朝からリリスと出かけたようで、今は自宅には居ませんが、夕方には戻ると言っていました。


 『沙耶華殿。 鍛錬についてだが、こちらではそれ程やれる事は無いのだよ。

主に「魔力を観て感じ纏い動く」ことに意識して生活を送ることが上達への近道だな。


幸いな事に向こうに比べるとマナは多くある。だが、向こうに比べ、マナが扱い難い場所であるのが良い。

 こちらで息をする様に「観て感じ纏い動ける」様になれば、向こうの鍛錬は非常にやり易いものとなる訳だな 』


『既に哲殿には教えたが、先ずはみ)事だな。

 沙耶華さやか殿、其処そこに楽な姿勢で座って貰えるか。


 人や動物、魔物にも魔力廻廊・・・・という物が有る、一度活性化させるゆえ気をしずめるのだ。

 魔力廻廊は生き物の魂の器・・・とも言える、廻廊の中を魔力が循環していると考えて貰えるか? 

中心に魂があり、常に魔力の循環を繰り返しておる。

魂がマナを吸収し、魔力として魔力体へ放出しておるのだ。

呼吸に似た物だと思ってくれて構わぬ。

 

 以前話した「魔力体」の源が、魔力廻廊であり魔力体が傷つけられると魔力廻廊や魂に影響が出る、場合によっては魂の崩壊に繋がるのだ。


 従い、先ず強化するのは魔力廻廊と魔力体になる。

お主らには補正効果があり余程の事でも無い限り、魔力廻廊に損傷は受けぬと思うが、油断は禁物だな 』


 そう言ってシロ君は、私の額に手を置いた。

次の瞬間

沙弥華さやか殿、ゆくぞ! 』

の言葉と共に色彩いろの洪水が、私の意識の中に押し寄せて来た!?


 何と言うか、嫌な物とは感じず温かい……包まれるている様な錯覚をおこす。

暫くの間それは続いた、始めは胸の中心に向かった「明滅し鳴動する物」は次第に身体全体へと広がって行く。

全体に広がったと感じた時、シロ君の手が離れた。


『気分はどうだ? 』


「うん……大丈夫みたい。 特に変な感じはしないけど、何か身体がポカポカすると言うか、なにかな? フワフワした物が身体の周りに有るような感じがするよ 」


『うむ、そのフワフワと感じる物が魔力体だが、感じる事が出来たら観る事も出来よう。

此方を見よ、これから魔力を上げて行くゆえ、気をシッカリと持ち感じ取れ。 ゆくぞ! 』

 

 そう言うとシロ君の身体が、一回り大きくなった様な錯覚を起こした。

実際には大きくなっては居ない、生命……命の密度と言うのか、濃くなってゆく様に感じる。

段々とその姿が霞み光り輝いて観えみえてきた。


「シロ君の姿が見えなくなって、光だけが観えるのだけど 」


『そうか、それが魔力体だ。 一度観る事が出来れば後は慣れる事だけだ。

今から徐々に魔力を下げていく、本来の姿と重なった時に、薄っすらと身体を覆うような物が観える筈だ、良くておくのだぞ 』


シロ君を覆っていた光のヴェールが、徐々に落ち着いて行く。

やがてシロ君の身体は、淡い輝きを纏う様にたたずんで居た。


「シロ君がはっきりと見えるけど、薄っすら何かを纏っている様に視える 」


『よし。視えた・・・様だな。 沙耶華さやか殿は先程、魔力を視よう・・・として眼に「まとい」を行なっていたのだ。

最初は全体を観て・・おったが、最後は眼に魔力を集中し纏を行なって視て・・いたのだ。

最初は感覚の違いが判りにくが、慣れれば息をするように出来る様になる 』

そう言って此方の様子を確認すると、話を続けた。


 『魂とは、言い換えると「心臓」で魔力は呼吸により吸収される「酸素」と考えて良い、魔力廻廊は身体中を張り巡らせた血管であるとも言える。


 肺で取り込んだ魔力を、心臓が魔力廻廊へ送ると言えば理解できるかな。

実際は違うのだが、感覚的にはそんな感じだな。

 まといは魔力を其処そこに集め、集中する事で効果が上がる。

攻撃も防御もまとい如何いかにうまく使うかだ。

しかし、魔力が集中するとどうなる? 』


「う〜ん、何をしようとしているか・・・・・・・・・・・が分かり易い? のかな 」


『うむ、そうなるな。 手に集中していたら、それにそくした攻撃と予想が出来る。

手練れになるとフェイクを混ぜて来るのだよ。

右手の魔力を強くし、左手のまといくらませるとかな。


その辺は追い追い教えていこう。

後は、身体全体に魔力をまとわせた状態で、常に行動する事だな。

何時如何いついかなる時も、その状態を維持出来る様になる事だ。

次の段階はそれからだな 』


 身体に魔力を纏う感覚を掴むと、今度はその状態を維持する鍛錬に入った。

鍛錬と言っても、街中をシロ君と歩く、所謂いわゆるお散歩である。


 色々と周りの事に注意しながら、魔力を纏い維持し続けるのは慣れないと辛いが、コツが掴めるようになるまで頑張るしかない。


時折休みを取りながら、公園で遊んだりしながら時を過ごした。


 やはりワンコ特性か? シロ君はフリスビーに熱中した。

そのお陰もあり、帰宅するまでには纏を維持出来るまでになっていた。


『やはりか。 遊者の特性は伊達ではないようだな。

本来の勇者と変わらぬ習得スピードゆえ。 この分なら、週末は別の鍛錬が始められそうだな。

このままの状態を、仕事をしている間も維持することだ 』


「仕事の間もね 」


『さよう。 寝ている間は、別の鍛錬を行う。

危機感知の鍛錬だな、これは向こうで行なおう 』


「うん。 頑張るね 」


公園を後にし自宅に向かう。

自宅に着くと兄は既に帰宅していた。


「お兄ちゃん、お帰り。 そっちはどうだったの? 」


「まぁ、何とかな。 そっちもまといの初歩は出来たみたいだな 」


「うん、週末はあっちで次のステップだって。 あれ? リリちゃんは 」


「部屋に行ったぞ 」


「じゃあ、シロ君もかな? 」


「……お兄ちゃん、シロ君が言っていた『兄妹ふたり願い・・に対する対価』って、思い当たる事ある? 」


「う~ん。 それが無いんだよな、何か引っ掛かるんだけど。 沙弥華さやかは? 」


「私も、何かあるような気がするのだけど…… 」


「話して貰えるまで待つしかないかな…… 」


「そうね。 何にしても、鍛錬をクリアーして次のマップを開放しないとね 」


「そうだな……。 さて、夕食の準備をしようか。 今日はトマトカレーかな 」


「期待してるね 」


「おい、そこは手伝うね、じゃ無いかな? 」


「えへへっ。 お風呂の支度に行ってきま~す 」

そう行って沙弥華さやかは逃走した!


「まったく。 料理も出来るくせに 」 


「仕方ない……さて、支度を始めますか 」

さとるはそう呟きながら、キッチンへ向かうのだった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 その頃、白銀とリリスは二人に与えられた部屋で話をしていた。


白銀しろがね様、お二人は疑問を抱く事無く、鍛錬を始めて下さいましたね 』


『まずは順調で一安心と言うところだな。 

あの方の魔術誘導も上手く作用しておるようで一安心だが、問題はワールドマップの解放後だな。

 果たして、二人が耐えられるかが気掛かりだが……。

それに、湖底の者の思惑も判らぬ。 そろそろ接触して来るとは思うのだが 』


白銀しろがね様は、の者を御存知なのですか? 』


『うむ、 我ではなく、もう一人・・・・の者がな。 何れにせよもう暫くは様子見であろう 』


『所で、そろそろ次のマップを開放されてはどうでしょう? 

鍛錬も次の段階では人型の方が宜しいかと……。 白銀しろがね様の制約を解除されては如何ですか? 』


『確かに頃合では在るな。 本来ポイント等とは方便・・故いつでも良いのだがな。

 うむ、次の段階で子狼では少々都合も悪いか、今週辺り具申して開放するとしよう 』


さとるの呼び掛けで夕食になるまでの間、兄妹ふたりさとられぬ様、二人の会話は続いた。


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