第27回GOTTA HOLD ME NOW
我道からの逆プロポーズ。正直面食らう。
「本気で言ってるの、お前」
「うん」
「今更お前と俺が結婚?」
ベータは悪くはないなと考える。今の我道と結婚すれば、シンデレラ・ボーイだ。しかし、絵里江さんといい感じになってるし、無理だよな。
「こないだ、お前俺に彼女出来たの見破ったじゃん」
「うん」
「彼女と順調に付き合いが続いてんのよ、ここでやめるわけにもいかない」
我道は表情を変えず、両腕を後頭部に組む。
「6年間一緒に暮らして何もなかった間柄だぜ、結婚なんてできるかねえ?」
「まあね、でもセンセと結婚しようって話初めてじゃないよね」
「ああ、なんか大昔に一回そんな話出たよな……」
「今の彼女が大事なんだ」
「まあ相当大事だよね」ベータはビールを呷る。
我道は遠い目をして「どこを見回してもろくな男がいなくてさ、男運ないのかな?あたしとか思ったけど、センセがいるじゃない!だけどすでに時は遅しってことか……6年も一緒だったのにね。あたしも不器用だな」
お前が不器用だったらほとんどの人間が不器用以下になるわとベータは思う。
友達以上恋人未満。一番難しいようで、6年間成立してたんだもんな。変な2人だな。
「わかった、あたしもセンセとの結婚となると実感が湧かなくなってきた。早く彼女の元へ帰ってあげて」
ベータは口を曲げて「やけにあっさり身を引くねぇ」
「え?じゃあ可能性はあるの?」
「人生の可能性に0%ってことはないでしょ」ベータは髪を掻き上げる。余計なこと言っちゃったかな?
「あたしも希望を持っていいってことよね」
「お前まだ24歳だろ?これからどんな出会いがあるかわからんぞ。いい男は沢山いると思うよ。俺程度の男じゃ今のお前とは釣り合わんよ」
正直な気持ちだと言えよう。
「センセにあたしはフラれたってことか……」
「絶世の美女、我道幸代をフる男は世界中探しても俺ぐらいしかいないね。そういう意味では俺も特別かも」
我道は笑顔で「やっと自分の凄さを認めたね」
「センセ、握手しよう」
「キスじゃなく、握手?」
「そう、キスじゃなくて、握手」
引っ越しの時以来の握手だが、戦闘の達人のわりに女の子っぽい柔らかい手だよなと思う。
「いい女になるのだぞ」これ以上にいい女になったら人間じゃなくて神になっちゃうけど。
「何シャアみたいなこと言ってんの!キャラじゃないよ」
我道は店の支払いはすべて持ってくれて、車で送ってくれると言う。
「いや、なんか歩きたい気分だから、ここで別れよう、な、親友君」
「親友、そうだね、あたしとセンセは親友だね、またね」
ベータは車を見送って、蒼く沈みゆく街の空を仰ぐ。
今日も一日歩き続け、もがき続け、どこに向かう?
絵里江さんのマンションに戻ると、彼女は夕食を作ってくれていた。
「今日はおでんです。たまにはいいと思ったので」
そう言って絵里江さんは柔和に笑みを浮かべる。
この嫌みのないナチュラルな笑顔に俺は相当やられてるな。
「おでんは大好物だ。楽しみだなあ」
土鍋一杯分の愛情って色んな意味で底なしだと思う。
2017(H27)9/10(日)・2019(R1)12/14(土)
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