第15回SWEET MOMENT

7月30日(土)


明け方4時近くになる。


バーテンダー華越絵里江さんは眠いそぶりも見せない。


ベータはさすがに眠くなってきた。


カクテルも5杯目だが、全く酔いが回らず、目が重いだけ。


パーティーの主催者がマイクを持って、終了寸前を告げる。


華越絵里江さんは小銭置きに4500円と書かれた紙片を差し出す。


「え?安いよ。5杯も飲んでるんだよ?」


「私の気持ちです。ここは任されてるから。私は一応雇われ店主です」


好意を持ってくれるのは~惚れた方の負け~の自分に都合はいいが……。


「どうやらお開きのようです」絵里江さんはレジを開け、清算し始めてる。


我道はまだ人に囲まれて盛り上がってる。


「絵里江さん家近いの?」


「はい、目と鼻の先です」


外は淡いブルーに染まってきた。


「今日はありがとうございます。とても楽しかったです」


「俺も楽しかったよ」


気のせいか彼女の頬が赤くなったのをベータは見逃さなかった。


「もう帰れるの?」


「はい、パーティー終了なんで、ここも閉めます」


「君のうちで休憩させてくれない?」あー言っちゃった。もう野となれ山となれだね。


「いいですよ、布団も二組あります」


ベータはガクッと頬から手が滑るほど上半身がこけた。


「あ、本城さん大丈夫ですか?」


「いや、大丈夫」予想以上にフランクな女の子なのね。


こりゃ大丈夫だわ。こういう子を探していた。


我道は無視してこの子の家に行こう。



10分後、明け方4時半頃華越絵里江さんは白いシャツに赤色のジーパンを穿いて小さいショルダーバッグを下げて出てくる。


「おまたせ」


彼女の私服はスタイルのいいくびれの線が出ていた。痩せてるけどグラマーな体形である。


べータはどうも眠さがじんわり来ていて、半寝状態で歩いていた。


絵里江さんはシャキッと背筋が伸びていて、眠気があるように見えなかった。


”若さだな”。ベータも24歳の頃は二晩徹夜なんて堪えなかった。


空は青くなっていて絵里江さんの白くて綺麗な肌を微妙に照らす。



絵里江さんのマンションはオートロックで三階建ての3階の隅の家で303号室。


部屋は整理されていて、キッチンが8畳くらい。他に寝室6畳。4畳半くらいの小部屋。リビングはテレビとブルーレイレコーダーにステレオミニコンポや卓上机に4人くらい座れるようになってる。リビングはソファーもおいてあるし、8畳はあるだろう。DVD やCDはテレビの横にきちんと整理されて配列されていた。


2LDKという所か。


「ずいぶんと整理されたいい部屋だね」


「そうですか……ありがとうございます」絵里江さんはジャージに着替えていた。


「なんか眠くてね、このソファーで寝かせてもらうわ」


ベータはソファーにDIVEして10秒後には熟睡していた。





映画監督愚蓮京介はハッと目を覚ました。ベットでコピー用紙にまみれて寝ていた。時計を見ると昼の1時になってる。ああそうか崎守女史から慌てて脚本を仕上げなくてもいいと連絡があったんだ。


しかし逆に少しでも脚本を詰めたくて二晩徹夜して、全体の9割は書き上げたんだった。


芸能記者修羅悦郎はまたいびきを掻きながらソファーでくたばってる。


たまににやけてる。どうせ崎守マネージャーでも夢に出てきてんだろう。


さてと愚蓮は散らばったコピー用紙をかき集め脚本の推敲を始める。あと1割方で完成である。


「ようし、一挙に仕上げよう」パソコンの前でキーボードを打ち始める。


ふいにコンコンドアをノックする音がする。


ドアを開けると女優の広永玲子がビニール袋を両手に持って立ってる。


「おう、よくここが分かったな」


彼女は今回の映画の出演者で、現在37歳。愚蓮とは高校生だった16歳くらいから面識はあった。


「今回の映画に関しては済まないと思ってる。まさか完成させるのに5年もかかるとは思わなかった。広永さんも32歳くらいから出てもらっていて、ここまでかかるとは想像してなかったでしょ?」


広永玲子は「とりあえず差し入れ持ってきました。召し上がってください」そう言ってから「愚蓮監督の映画の撮影の合間に3本の映画と4本のドラマをこなしました。今回の映画”オーバー・ザ・サマー・アポカリプス”に私は女優として命を懸けてます。愚蓮監督が脚本完成までラストスパートだと崎守さんから聞いて飛んできました。時間なんか幾らかけてもいいから、いい映画撮りましょうね……」


広永玲子は元からしゃきっとした美人女優だが、さらに凛々しい表情で愚蓮を見つめている。


「広永さんにそう言われると元気をもらえるよ。絶対完成してみせるからね」


広永玲子はまた凛々しい笑みをこぼす。


「あそこでくたばってるのは悪徳芸能記者だ。なんかのネタにしそうだから、奴が寝ているうちに帰った方がいい」


「そうなんですか、はい失礼しました」


そう言って広永玲子は立ち去っていった。


修羅は締まりのない顔をして、時折にやけてる。


愚蓮は再びパソコンを覗き込む。




アナザーサイドの門の番人Mr,Zは麦わら帽子の少女を抱きかかえながら、門の側に近づいてみた。


門は頑丈に出来てるので、手榴弾のような小型爆弾くらいではビクともしない。門を囲む岩が砕けた程度であった。しかし物騒である。


「今日はもうおかえり」Mr.Zは麦わら帽子の少女を下す。少女は軽快な足取りで去っていく。




ベータが目を覚ますと夕方4時を回っていた。目を覚ますとすぐに飛び込んできたのが華越絵里江の顔のドアップ。彼女はベータが寝てるソファーで一緒に寝ていた。


キスしちゃおうかなとも思ったが、あとの楽しみにとっておこう。


そう思った矢先、ベータは至福の時を迎える。


2017(H29)3/8(木)・2019(R1)12/7(土)







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