第7回LIKE A BLACK CROW
柔道部の部室にはビールの空き缶が散乱していた。
そうか、昨日希林先生と浦兼と生田先生のビールで酒盛りしたんだっけ……。
あの2人は明け方に帰って行ったようだ。
ベータが校庭に出ると、すでに明るく、雀のささやきが早起きの寝ぼけ眼と耳にちらついてくる。
昨日は久しぶりに天国口高校に訪れ、教員を募集してないか聞きに来た。
応対に出たのがベータが教員の頃の生徒浦兼好恵だった。英語教師に就いてるようだ。
「懐かしいな、お前も当時から金髪以外まっとうな生徒だったもんな」
「本城先生は今何してるんですか?」
「失職中……だから教員の空きがないか来てみたんだけど」
「今は空きはないですね。天国口高校も今3年は2クラスだけど、1,2年は1クラスづつしかないの。経営が難しくなってるみたい」浦兼は資料をまとめていた。
「そうか、まあ俺の場合頼りになるのがいるから……」
浦兼は口元に笑みを含ませ「幸代でしょう?まだ結婚しないの?何だかんだで6年くらい一緒に暮らしてんですよね?」
「まあ、紙切れ一枚の違いというとこか……」
「ふぅん、幸代とはもう1年くらい会ってないないしな……そうそう、それより夕方希林先生と生田先生のキープしてるビールで酒盛りすることになってるんですよ……」
「勝手に飲んじゃっていいの?」
「今日生田先生休みだし大丈夫でしょう……一緒にどうですか?」
「ふむ、希林先生ともしばらく会ってないし、つまみ買っていくよ。生田先生ってことは柔道部か?」
浦兼はバッチグーの親指を立てた手を上げる。
結局夕方5時から明け方3時くらいまで飲んでたんだっけ……。
浦兼は24歳か……希林先生も40くらいになってるはずだけど、若いな。
校庭を出るとカラスがゴミ捨て場に群がってる。ベータが通り過ぎる頃一斉に飛び立った。
カサカサした音を立てる。とりあえずコンビニでフリーペーパー貰おう。
映画監督の愚蓮京介はホテルに雲隠れしていた。しかし何としても大作”オーバー・ザ・サマー・アポカリプス”を仕上げようと携帯パソコンと格闘していた。
マネージャーの崎守叶香とは連絡を取り、しばらく一人で考えたいと伝えてある。
崎守は渋々承諾した。
7割方完成してるこの映画は出来上がれば今迄の日本映画に一石を投じる傑作になると自負していた。
入口の方でトントン音がしてる。
ドアを開けると修羅悦郎が皮肉に口を曲げて立っていた。
「お前よくここがわかったな?」
「先生、一流芸能記者の情報網を甘く見なさんな、差し入れに先生の好きなドーナツ買ってきましたよ」
愚蓮はパソコンに向かって再び格闘を始める。
「先生、崎守さんは元気ですか?」
修羅はまだ崎守女史のことを諦めてないようだ。
「あの女はやめといた方がいいぞ」
修羅はギクッとして「いやいやそういうつもりではないです」汗を拭く。
「俺が気づいてないと思ってるのか?」
その時また入口でトントン音がする。
愚蓮と修羅は顔を合わせ「まさか?」
2017(H29)1/27(金)・2019(R1)12/3(火)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます