第2回ユースフルマジョリティー

天国口高校は夏休みに入った。


2013年7月下旬。夏本番という感じで蒸し暑い日々が続いていた。


2年A組桂崎哲史はクラブ活動を好まなかったが、とりあえず何かに入っていようと思い、漫研に席を置いていた。


夏休み前に今時珍しい体罰教師生田が通算3度目の復帰を果たしていた。


もう復帰は出来ないだろうと思っていたが、親戚が警視総監とくれば、免除されるよなあ……相変わらず体罰をやめる気はないようで、校長やPTAと揉めてるらしい。


桂崎は生田が自分の担任の汐留先生に気があるんじゃないか?と読んでいた。汐留先生のファンは多いが、彼女の場合、並の美女じゃないので、ほとんどの男が言い寄る前に気後れしてしまうようだ。


じゃあ逆に汐留先生が惚れるほどの男がこの高校にいるかと考えるとクエスチョンだった。


しかし着任早々に坂裏が早乙女先生を拉致して逃走したのは痛快だった。


しかも海外へ逃走したというんだから、徹底してる。坂裏の親友という新任の本城だが、噂では既に数人の生徒に告白されてるようだ。何かしら只者じゃないなという予感は当たった。


漫研に入ってるといっても桂崎は漫画に対する執着度は低い。彼は音楽を聴く時が一番の至福の時だった。


同じ漫研のA組学級委員の北島守も漫画より、音楽の方に傾いているので、漫研の部室でアニソンがガンガンかかってる中で彼と音楽の話で盛り上がる事が多かった。


J-POPだけじゃなく、洋楽ロック・ポップス、クラシックやジャズなど北島も自分と同じく、ジャンル問わず聴くようで、しかも視聴覚委員でもあるので、桂崎はよくリクエストしていた。


その日の漫研の部室は空っぽで、桂崎は在庫のCDから「超時空要塞マクロス・愛・おぼえていますかサントラ」を流す。羽田健太郎は作曲家としてもピアニストとしても好きだった。


窓際から校庭を眺めると野球部とサッカー部が練習してる。サッカー部の2年北みちると武井織江はいい動きをしてる。さすがエース同士だな。


同じクラスの天津玲奈は吹奏楽部でアルトサックスを吹いてる。今気になる存在だが、これが恋愛に発展するかどうかはまだ未知数である。


一度彼女のサックスを聴いたことがある%……なんとも哀愁に満ちた音だった。ロックでのサックス導入部はピアノやギターでは表現できない魂揺さぶるパートである。


彼女に惹かれ始めたのもあのサックスの悲しい音色を聴いたことに起因している。


ここの漫研は漫画研究部というより、アニメ研究部なんじゃないかというほど、アニメのグッズで溢れている。CDもほとんどアニメのサントラ系ばかりだ。俺も北島みたく視聴覚委員になるかな?






2年C組欅坂蓮次郎は学年で首席の我道幸代、万年2位の三日月易郎に次いで、大体3位くらいの成績を維持してる。その風貌は銀河英雄伝説を彷彿させる金髪の美形だった。


美少女の園でイケメンの男子が少ない中彼の存在はミステリアスだった。背丈も軽く180cmはあり、スレンダーで文武両道。


彼が気になる女子は大勢いたが、一度柔道部の連中に教室で絡まれ、3人とも軽く伸してしまった。


目立つ風貌で無口な彼の突然の爆発で、欅坂はもともと目立った所がないため不気味がられたのだろう一目置かれ、誰も彼に話かけることはなかった。


欅坂が金持ちの息子ということを知る生徒はいなかった。実際天国口高校の近所のマンションで一人暮らしをしていた。


この日の夕方彼が部屋に戻ると、姉の加寿美が待っていた。


「姉さん、来る時は連絡してよ……」蓮次郎は冷蔵庫から天然水を出して飲む。


「相変わらず何もない部屋ねえ……退屈しない?」加寿美はベッドに腰を下ろす。


加寿美は25歳。ソバージュ髪の神秘系美女。春に結婚してる。相手はどう考えても加寿美の好みじゃない40代半ばの沖長一郎社長。蓮次郎は旦那に3,4人の愛人がいることを聞かされてる。


「いつも思うけど、よく同じ家の空気吸えるね……」


「まあ、うざいとも思うけど、私も他に相手はいるし、あの人もそのことに気付いてて、それでも上辺の夫婦を演じてるのよ……空しいものよ、まだ新婚半年も経ってないのに……」


「別れるつもりないんでしょ?」


「まあね……離婚なんていつでもできる……それよりあんたみたいな美形に会った後、家で旦那の地味なルックスを拝むのは物凄いギャップ……」


加寿美は半笑いするが、作り笑いか、引きつってるだけなのかもしれない。


「あんた幾つになるの?」


「もうすぐ17だよ」


「セブンティーンか、いい響きねえ……」


「姉さんだって充分若いじゃん」


「私の青春は終わってるわよ……」加寿美は溜め息を一つ……。


「一緒に飯でも食いに行く?」


「う~ん、そうするか……旦那のツケが効く店あるから、行きましょう」


加寿美とは9つ離れてるが、愚痴っぽくない所は接しやすい。






アマミュージシャンの千川武人は大学の構内で、アコギを弾いていた。2,3歳の子供を連れたママさん達がよく通るので、ふざけてPerfumeの「レーザービーム」をアコギバージョンで弾きながら、高音で歌う。明らかに子供らは反応してる。


夕方6時半に学食でラーメンとかつ丼を食べる。値段が安いわりに味は旨い。


高校教員になるより、地道にバイトでも探すか?”自由人千川武人”は物事を小難しく考えるのが嫌いだった。なるようにしかならない……泣いても笑ってもお日様は昇るのである。


久しぶりに酒でも飲みたくなってきた。いい飲み屋はないかな……。







駅前のマックで2年A組の岸森明日菜は窓際で本を読んでいた。


同じクラスの流水荒太は外から望遠レンズで岸森を撮りまくっていた。流水はハンチング帽にサングラス、よれよれのジャージの上下にサンダル。


変質者モードかなり入ってるよな。自覚してるだけましか……。


2016(H28)5/6(金)・2019(R1)11/21(木)

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