最終回とこしえの光明

「人間の煩悩など信じるに値しないと思いますが……」アポロンはゼウスの目を逸らした。


「あの男にハーレムに浸かってもらったことはそれほど悔いておらん」ゼウスは足を組み直す。


「じゃあ、初めからあの男を試していたのですか?」


ゼウスは押し黙った末に。


「まあ、信じるも信じないも、こんなもんだろう……」




877番は空の眩しい光の祭典に目を奪われながら、定食屋”やまびこ”の周りの黒いバンが次々と動き出してることを確認した。


最後のバンが姿を消した所で、民宿やキョウの携帯に連絡したが、どうしてもつながらない。


877番は意を決して自分の車で民宿へ向かった。




ベーヤンの車からも空の眩しい光は確認出来た「もう少しで着くな。しかし眩しい……この世の出来事なのかこれは?」


我道は腕を組みながら静観してる。


「ベータの野郎、無事かな?」


ベーヤンの車は土方の旅館の駐車場に滑り込む「黒いバンだらけだ」


ベーヤンと我道は車を降り、空を向いて固まってるベータとキョウと美紗緒に話しかける。


「ベータ大丈夫か?」


ベータは一瞬頭を振り、ベーヤンと我道を確認すると、ズルズルと寝転んでしまった。


「おい!ベータ!しっかりしろ!」ベータは気を失ってる。


我道はカクンと椅子にうなだれたキョウと美紗緒を介抱してる。


ベーヤンは黒いバンの大群を横目に気にしながら、光の滝が何十も浮き上がってる空を見上げた。


「色々はしょっちゃったがな……」





ベータは深い眠りの中で、岸森明日菜の顔を思い出そうとしていた……しかしそれは形にはならない。ただ彼女の口癖「やったね」の一言が微かに聞こえるくらい……。


自分は彼女の事を本当に愛してるんだろうか……顔も浮かばないくらいだから、本気じゃないのかな?


何か急速度で落下してるみたいだ……このまま地獄へ堕ちるのかな……。


地獄へ堕ちる前にもう一度岸森の天使のような笑顔が見たかった……。




月の上からアルテミスが光の収束を見守っていた。「ゼウス様もアポロンも機嫌を直したか……」


光が治まるにつれ地球が青さを増してるように見える。


「人類はまだ大丈夫ということか……」


アルテミスは腕を組んで地球を臨む。。。




ベータが気付いた時そこは病室だった。我道が横で座っている。ベータを見つめてる。


「我道か?岸森は?」


我道は首をすくめて「明日菜は荒野に旅立ったわよ。らしくないけど”イントゥ・ザ・ワイルド”ね」


「”イントゥ・ザ・ワイルド”……」そう言ってベータはまた気を失った。


我道は窓の外に目を向け、頬に汗が流れるのを感じた。




ベータはまた急下降してる自分を感じていた。


ただ一人ではないと実感していた。


楽園なのか悪夢なのかわからなかった夏の日々。


いい事もあったし、悪い事もあった。


夢なのか現実なのかも判別できない事だらけ……。


落下速度は落ちてきて、緩やかになってきた。




いきなりドサっと砂場に落ちる。


怪しげな洞窟の向こうには太陽の光が漏れている。


またやり直しだな。


ベータは尻の砂を払い、歩き出す。


(完)







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