第45回恋する惑星

877番は持ち場を離れて、いつもの定食屋へ行く途中。


定食屋の五月ちゃんが駆け足で前からやってくる。


彼女は3メートルくらい近づき、でやっと877番を確認して。


「こんばんわ、すぐ戻りますね」


877番は手を振って答える。


定食屋”やまびこ”は野菜炒め定食が安くて旨いので評判の店。


877番は野菜炒め定食とお新香を頼んで、携帯をいじり出す。


8分後くらいに五月ちゃんは戻ってくる。


「マスター、買ってきました」


五月ちゃんは汗を拭って調理場の奥へ入る。


気立てが良く、長髪を後ろで束ね、端正な顔立ちをした五月ちゃんはもちろんこの界隈ではアイドル的存在。


877番は顔には出さないがこの五月ちゃんにかなり惹かれてる。


調理場の奥で、料理するマスターのぼんさんと若い調理師南田君は五月ちゃんから材料を受け取り、笑顔を絶やさない。このアットホームな所がこの店の明るいオアシス的な雰囲気を醸し出してる。


この人気の少ない所でもこの店は繁盛していた。当然だろう。


877番は定食を平らげてから、お新香をちびちびと摘まむのが好きだった。


ビールでも一杯といきたいところだが、まだ勤務中だ。


五月ちゃんがお冷を出してくれて、「これからまた仕事ですか?」と聞いてくる。


「そろそろ終わるけどね」877番は口元だけ少し微笑む。

時間は夜11時を過ぎてる。”やまびこ”は夜中12時まで営業してる。


「お疲れ様です」五月ちゃんはそう言って他のテーブルを片付け始めた。


877番は口元が寂しいことに気付く。禁煙を始めて2年になる。


「習慣か……」そうつぶやき、877番はお代をテーブルに置き、”やまびこ”を出た

877番は汗を拭い、自販機で炭酸飲料を買った。


ぐっと一口飲んで、星空を仰いだ。


877番の自宅は親と妹が民宿を営んでいた。


妹は今日隣り町のバーで夜中まで飲んでくると言っていた。


「飲酒運転するなよ」そう言うと、「ノンアルコールドリンクの旨い店なのよ」と、屈託なく答える。


仕事が一段落したので、877番は自宅へ向かった。


今日はやけに星が綺麗な夜だ。


民宿の広い駐車場には妹のバンは止まってなかった。


入口の横の事務室の冷蔵庫からビールを取り出した。


タオルで汗を拭い、一息つく。877番は冷房が嫌いだった。


砂利を擦る音がしたので、外に出た。妹が帰ってきたようだ。


ベータはキョウに続いて車を降りた。男のシルエットは近づくにつれ生田先生に思えてきた。


「兄さん、お客様よ」入口でまったくの別人とわかった。


キョウの兄は「おう」とだけ言い、すぐ事務室へ戻った。


キョウは帳面を取ってきて、「1泊2食付きで4000円よ。名前書いて」

「はいはい」


二階の部屋へ通された。六畳の畳部屋である。掃除が行き届いてるのだろう、清潔感が溢れてる。

どうも眠気が抜けない。目が回りそうになる。こりゃあかんと思い、押し入れから布団を出し、ぶっ倒れる。そのまま深い眠りに落ちていった。


我道幸代は細長い丸太のような金属の廃屋の扉を強引にこじ開け出てきた。スマホを操っても電池切れで動かない。シャツが所々すすけてる。

我道は周りを見渡し、近くの林の中に入っていった。


2014(H26)7/4(金)・2018(H30)5/22(火)

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