121話


            *  *  *







 数日もすれば傷ついた身体も徐々に回復してくるというもので。部屋のなかは当然としてゆっくりとならホールの外回りを散歩できるくらいにまでには動けるようになった。




 身体を休めている間、レイラはほとんどの時間をもて余していた。

 というのも持ってきたあの鍵のかかった本以外のものはほぼ全て読み終わり、借りていた本もこのランデルの図書館に返していて手元にないからである。そんな状態がずっと続いているため、ベッド近くの窓から見える景色を見る以外はなにもすることがなかったのだ。

 しかし一昨日からいつの間にかドミニクがこの部屋に現れて話相手になった。時間があることをどこからか聞いたのか、レイラとの会話をしにこの客室にわざわざ来てくれたのだ。


 彼との会話は、それはそれは充実したものだった。

 話してくれたものは彼が実際にその目で見てきたこと・聞いてきたことばかりで、ずっと聞いていて楽しかったから。面白くおかしく話を大きくさせたり小さくさせたりして、こちらを大いに楽しませてくれたからだ。

 最初こそ緊張していたレイラも、ドミニクと共に過ごすうちに緊張しなくなっていった。それこそドミニクをもう一つの〝家族〟であるかのように、彼女は自分の大切な人として接していたのだ。






 ―――いつだったか、レイラは彼に聞いたことがある。

「もう一人のおじいちゃん……って思ってもいいですか」

 と。

 するとドミニクは虚をつかれた顔になったあと、ふにゃりとシワを寄せて笑いながら言った。

「もちろんじゃとも。わしは偽物でも、君の家族になれてとても嬉しいよ」

 と。

 そのあとレイラの手を握り、片方の手で頭をよしよしと撫でてくれた。




 ―――その時はとても短く、会話らしい会話ではなかったけれど。

 レイラにとってはそれだけでも充分過ぎるものだった。ただそれだけで、心がポカポカと暖かくなったのだ。











 ―――だからこそ。

 これは、これだけは許せなかった。まさか

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