118話
「あ、あの……さ」
そう声をかければ、もぞもぞと動く気配のあとに声が返ってきた。
「なに」
・・・顔を見ることはできないが、少なくともこちらの話を聞こうとしてくれていることはなんとなくわかる。なので、レイラは一度小さく深呼吸をするともう一度口を開いた。
―――少しでも自分の想いが伝わるように、と頭の隅で考えながら。
「心配してくれてありがとう。ずっと寝っぱなしだったから不安にさせたと思うけれど……もう元気、だよ。まだちゃんと力ついてないから説得力もないけどさ」
言葉を綴りながら苦笑いをこぼす。言ってて変な根拠に自分でも可笑しいと感じた。
ディックからの反応はない。それでも話を聞いてくれているような気がしたレイラは静かに言葉を続ける。
「思えばさ……昔っから迷惑ばかりかけてる気がする。幼馴染みだから助けてくれたんだと思っているけど……それでもやっぱり迷惑をかけるのは申し訳ないな、なんて思ってるんだ」
「…………そんなわけ、ないだろ」
ようやくディックが会話に入った。同時にギュッとレイラを抱き締める力が強くなる。
「俺はお前が大切で……ずっとそばにいたから心配で……だから、」
「知ってる」
頷くとディックの背中に腕をまわす。
ビクリとその身体が小さく動いた。
「……知ってるよ。あたしだってディックが大切なんだから、怪我したら心配する。今までもこれからも……
キュッとそのまわした腕に力を込める。大丈夫だよ、と相手に安心させるかのように。
紡いだ言葉に少しだけ嘘を混ぜたのはここだけのお話だ。そしてその嘘に少し胸が痛くなっているのも―――彼女しか知らない、ここだけのお話である。
また無言になってしまったディックだったが。
最後にもう一度、ギュッと力を込めて抱き締めるとようやく抱擁からレイラを開放した。そして、
「……飯は少しでもいいから食べろよ。あと―――すっげぇ心配したんだ、はやく治して安心させろ。ずっと待ってるから」
と言って彼女の頭を撫でてから、また部屋を出ていった。
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