117話
・・・だから、かもしれない。
今までにないこの不思議な感覚に、なぜか置いてかれたような気持ちになったのは。
どうしてかはわからない。レイラのただの勘違いかもしれないし、この先どうするかという漠然とした不安が出たのかもしれない。
だがしかし、今までと今回の違いがどこにあるのかなんてまだレイラは知りもしないのだ。だからこそ当然といえるのかもしれない。
ただ・・・これだけは思う。
この気持ちは、この気持ちだけは絶対に自分で気づかなければならないと―――そうでなければあとで後悔するのは自分だと。無意識にそう思うのだった。
さて。
突然のディックによる抱擁からすでに数分の時が過ぎようとしている。
それまでの数分間に会話らしい会話はほとんどなく、ただただ無言の抱擁がどこまでも続いていて。通常ならそろそろどちらからともなくあるだろう会話らしい会話が、今のところこの二人の間では皆無といっていいほどにない状態だ。
なにか言うべきことがお互いにあるとは思うのだが―――それが言葉として出ることはない。依然として音がなく、そして静かである。
そんななか、レイラはどうやって先程の返事を返そうか考えていた。そろそろ昼食が職員によって持ってこられる時刻となっているからである。
こんな光景をみれば部屋に入って来た人があれ? と疑問に思うに違いない。あるいは邪魔をしたと昼食を持ったまま戻っていく可能性もある。
お腹が空いている今、そのせいで昼食がなくなるのは大いに避けたい案件で。だからこそどうにかせねばと、思考をこらして考えていたのだ。
とはいえ普通であれば話がしたくともできずに、少し居心地の悪さを感じるのが通常の反応である。少しずつ気まずさがその間に広がり、徐々に距離を置くのもこの状態といえるだろう。
・・・だが。
無言だった数分間はレイラには案外苦痛などではなくて。それどころか言葉などなくても心と心で通じあっているかのような・・・そんな居心地のよささえ感じるものがそこにはあった。
〝幼馴染みだから〟とか、〝昔から知っている相手だから〟というものだけではない―――それよりももっと上にあるような関係な気がして。
思わずと言うかなんというか、『この状態でもまぁ別にいいか・・・』と安直に思っている自分が心の隅に存在している。
でも、そろそろどうにかしたほうがいいのかもしれない。
そう思ったレイラは、さっそく動き始めた。
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