114話
大人しくなったスカイにレイラはホッとため息をつく。それから、
「ごめんなさい。それとありがとう、スカイを止めてくれて。本当に助かった」
申し訳なさそうにお礼を言えば、
「……別にいい。お前も今起きたばっかりだろうと思ってスカイを止めただけだから」
と、ディックがどこか照れた顔を隠すかのように返した。
いや、実際問題彼は少しだけ照れているらしかった。
というのも、じっとそっぽを向く彼に顔を向ければ微かにだが尖っている耳が真っ赤になっているのだ。まるですでに熟して美味しそうなアプラム、あるいは甘酸っぱくなったスタルベリーのように、と言うべきか。ちなみにアプラムとは真っ赤で丸い形の果物のこと、スタルベリーはアプラムと同じように色が真っ赤だが少し尖った形をした果物のことをさす。
そんな表情になっているディックを見て、少しだけドキドキと胸を高鳴らせる。ほんの少し、ほんの少しだけこのエルフの幼馴染みがレイラの知らない大人びた表情になっているのを見たような気がしたのだ。
・・・だがしかし。これまで彼と共に過ごしてきたせいか、レイラの思考回路は、
(………気のせい、よね?)
とそこまで考えておいて完結してしまうのだった。
―――そんなこんなで、考え事をしていてそちらに意識を飛ばしていたレイラだったのだが。
「いやはや、レイラさんの目が覚めて本当によかったよかった。ずっと眠っていたから大丈夫かと心配していたのじゃよ」
というドミニクの言葉で我にかえった。その声でレイラはこの部屋に来客があったことも思い出し、また顔を青くさせる。
「すっすみません! 来ていらしたのに、何もできなくて………っ」
慌てる彼女にドミニクは首を振って答えた。その表情はというと、どこか愛しい孫娘を見るかのような・・・そんなほんわかとしたもので。
なにかしなければと動こうとするレイラに、ドミニクはやんわりと嗜める。
「いやいや貴女は病人じゃ、大人しくされていてほしい。むしろ動く方がより悪化するのではないかの?」
「……うぅ、おっしゃる通りです………」
その言葉があまりにも図星のことを言われて、言葉を返せなくなる。そんな彼女に笑うと、ドミニクはベッドの近くの椅子に座った。
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