97話

 治療部屋は大階段を上がったホールの二階一角にあった。

 時刻は夕方。なので廊下の窓から見える外はほんのり黄昏色に染まっている。方角的に夕日は少しも見えないが、きっとキレイな茜色を見せているに違いない。なにせ今日も今日とて雲一つない快晴だったのだから。



 ここまで案内をしてくれた相手に感謝を伝え、片手で器用に扉を開ければ。

 真っ先に飛び込むのはちょうど西にある窓からの夕日の赤銅色。窓枠も白いカーテンも夕日で淡い暖色に染まっている。


 それから真っ白なベッドと仕切り代わりの白いカーテン、それから窓辺にある季節の花が飾られた花瓶だけ。余計なものがないから解放感があり、清潔感があるのと同時に怪我人にとって落ち着く場所には違いなかった。


 入口に近い壁際には薬品や薬草のある棚がいくつかある。その全てに錠が扉についており、簡単には開けられないようになっていた。薬品のなかには毒にもなるものがあるから触らないようにという措置なのだろう。

 棚の近くには診察台と机、そして椅子が二脚。一つは力を入れれば折り畳みができるもの、もう一つは背もたれのないタイプの椅子だった。



 そして。

 その折り畳みの椅子にこの部屋の主人である一人の女性が座っていた。

 彼女は立ち上がると、

「治療部屋へようこそ。なにかありましたか?」

 と、にっこり笑いながら言ったのだった。

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