84話

「っ!!」

 その声と音に相手はそちらに一瞬気をとられ、意識はスカイからほんの一瞬だけ離れた。


 ―――できたその隙を彼女は絶対に見逃すはずもなく。

 罠だと彼が気づいた時には、

「っ……く……………そ…………………」

 強烈な脚の攻撃が鳩尾みぞおちに入り、勢いで身体が吹っ飛んだ。そして微かに壁にめり込んで倒れたのである。





 こちらに気を引く行動をしたのはずっと峰打ちで兵士たちを伸していたグレイだ。

 白翼猫ブランリュンクスばかりに気をとられていて隊長らしき男とその周りにいた何十人ものの兵士たちは、ほとんどの兵士たちがすでにもう倒れていることには一切気がついていなかった。前だけに意識が集中しており、周りを一切視ていなかったからだ。

 しかしそのような状態だというのは戦闘の最初からわかっていたことで。こちらに気付くことはないように倒していたので、それを利用して彼は件の作戦を決行したのだ。

 それは今までのことを逆手にとり、グレイは気付かれるような倒しかたをするというもの。男の戦っている意識をほぼ強制的にこちらに向けさせた。

 おかげで項を期してスカイの一撃が決まったのである。



 そして。

 隊長格の男を倒したのを最後に、この路地裏の戦闘は終わった。スカイ・グレイによる圧巻の勝利で幕は閉じられたのだ。





             * * * * *





 吹っ飛んだ男はブツブツと何かを呟いていたようだがすぐに意識を落とした。

 忍刀を腰に差し戻し、グレイはすぐさま路地裏に散らばる武器を集めていく。剣に槍、ついでに旗も全て集めて一ヶ所に纏めておいた。

 倒れている兵士たちはというと―――スカイが首の後ろの服の襟を噛んでずるずると引っ張り、これまた別のところで一ヶ所に集めていた。

 ほぼ全員がグレイによる攻撃で強制的に意識のない状態だ。重くなった彼らを運ぶのに力がいったのだろう、かなり不機嫌な様子である。


 武器を纏め終えたグレイは、次に敵の捕縛にかかる。

 敵の腕を後ろ手に組ませ、その状態を維持しながら縄で縛るのだ。起きたときにすぐ逃げたりしないよう、キツくキツく縛っておくのがポイントである。

 ついでに勝手に舌を噛みきって死んだりしないよう猿轡さるぐつわも噛ませることも忘れない。

 とはいえこれもかなり時間がかかりそうだった。理由は変わらず色々と重いからである。





 そして、全体の半分ほどをやっとの思いで縛り終えた時。

 異変に気付いた町を守る衛兵たちがようやくこの路地に到着したのだった。

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