83話
―――小さくはなったが未だに聞こえてくるその唸り声は、彼らの戦意を容赦なくバキバキにへし折るのには十分なもので。身を竦め、まだ意識のある兵士たちは次々と後ずさり始めた。
カランカラン。その手に持っていた剣や槍などの武器が、盛大な音をたてて地面へと転がり落ちていく。だがそれすらも気付かないほどに彼らはスカイに怯えていた。
なかには落ちた武器に足を捕られ、尻餅をついた者もいた。
そんな中。
「たかだか獣風情に怯えるなどと……王国兵士の恥さらしにも程があるっ!! 誰でもいい、はやくあの化け物を殺せっ!!!!!!」
隊長らしき男がこれまた盛大なる舌打ちをかました。その足はガクガクと小刻みに震えながらも手に持った剣を手放そうとはせずに。
一人の兵士が声をかけるものの、男はそれを邪魔だとばかりに突っぱねた。そして剣をしっかりと持ち直して真っ直ぐスカイの喉元にその剣筋を差し向けた。切っ先がキラリと陽の光りに当たっているのでスカイは目を細める。
「し、しかし! このままでは―――」
さらにもう一人が声をかけたが、
「黙れぇ!! たかが幻獣一匹にお前たちは時間をかけすぎなのだ!! なにも出来ない腑抜け共は口を閉じて見ているがいい!!」
男の遮る言葉に口を閉ざした。
兵士たちは互いに顔を見合わせると小さく頷きあう。そして巻き込まれぬように1歩2歩と後ろに下がった。
―――最後の戦いが始まりそうな、そんな殺伐とした雰囲気が辺りを漂う。
ほんの少し・・・ほんの少しでもどちらかが動いたならばそのまますぐに決着がついてしまいそうなくらい、重苦しい空気であった。
両方共に相手の出方を鋭い目で伺っている。攻撃の出方を見定めることで自分に有利な状況を作ろうと画策しているのだ。勝つことを確実に、負けることを確実としないために作戦を練り上げていく。
しかし考えていることは同じなのか、まだにらみ合いという名の牽制は続いていた。
兵士たちが固唾をのんで見ているなか、そのあともにらみ合いは続いた。隊長らしき男は剣の構えを崩さず、スカイは爪を剥き出しにしながら。
その均衡を突然崩したのは。
「……っ!? なっ……ぐぅッ!!」
見ていた兵士たちの呻き声。
そして、
―――バキッ……ドサッ……ガツッ……グシャッ……バタッ……―――
彼らの倒れる音だった。
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