63話
そんなある日の午前中のこと。
レイラはスカイと一緒に、またもや朝の市場に来ていた。
もはや馴染みとなった市場ではたくさんの商人やランデルの町人ですでに混みあっている。商売の声売り込みの声ときたまに聞こえるケンカの声・・・なんて活気のある場所だろうか。
あまりにも煩くて少し耳を押さえることもあったりするけれど、こんなにも賑やかで楽しいところは城下町を覗いて他にはここだけに違いない。―――他の町に行ったことがないからこそ言えることだとは思うが。
レイラは賑わっている人の群れのなかをゆっくりと着実にかわしていきながら、時々店に近寄っては売られている商品を見ていった。
そんな姿に気付いた商人たちが彼女に向かって挨拶を送ってくる。それをレイラはにっこりと笑いながら、手をあげて返事した。
・・・ちなみにスカイはというと、魔法で元の大きさより五割ほど小さくなった普通の猫となって
今回、彼女が目的としているのは2つ。ひとつ目はたくさんの商品を見てまわること。そしてもうひとつはスカイ用の食材を買うことである。
スカイの種族は前にも言ったように
全くの謎、と言うわけでもないが、生態が知られていないということは普段何を食べて生活をしているのかがほとんどわからないと言うわけで。普通ならどの食材を与えればいいのか迷ってしまうというものだ。
しかし猫というものは大抵、肉を主食とする肉食動物に分類される。草を食べる草食動物を捕まえ、補食し、糧とする動物だ。
であれば普通なら肉を主食として食べる・・・はずなのだ。
はずなのだ、はずなのだが―――
―――断言しよう。スカイは肉を一切、いや一口も食べようとはしない。
理由はひとつとしてわからない。しかしスカイは断固として肉を食べようとはしないのだ。
レイラは一度だけ生の肉をスカイの前に出したことがある。
初めて出会ったその日の食事に大きな塊のお肉を皿にドン! とのせ、彼女の前にそっとさし出したのだ。まだここにいるのは不安だろうと配慮し、皿を置くとすぐさま離れ、椅子ひとつ分の距離を保ちながら。
けれど―――彼女はスンスンと肉の匂いを嗅いだあと、横に添えてあった野菜だけを食べ始めた。
近くで様子を見ていたレイラは、それはひどく驚いたものだ。まさか猫なのに肉を食べないなんて思わなかったのだから。
その次の日も、また次の日も、レイラは肉を出し続けた。肉の量を少しずつ減らし食べやすいように小さく切り、野菜をいつも通り添えながら。
しかしそれでも―――スカイは一口も肉を食べようとはしなかったのである。
ただし、肉は食べないが魚はパクパクと食べるようで。それ以来、肉を出さずに野菜と魚を出すようになった。そんな生活を続けて今に至っている。
ちなみに魚は川魚でも海の魚でも乾燥させた魚でも喜んで食べている。魚であれば彼女にとっては別段なんでもいいらしい。それはそれでありがたかったりするのだが・・・問題は野菜の方である。
彼女が好きな野菜は三つ。
一つ目はトマの実と呼ばれる真っ赤な野菜だ。甘味と酸味があって生で食べるのはもちろんのこと火を通してもその味が落ちずさらに甘くおいしくなる。スカイが初めて食べてから絶対に食べたがる野菜のひとつである。
それからキャラムと呼ばれる緑の野菜、そしてサンの実と呼ばれる黄色い果実だ。
キャラムは大きなお皿ひとつ分の大きさのある葉物野菜。半分に切ると幾層にも葉が重なっていて、真ん中になればなるほど葉の色が黄色く柔らかくなっている。
そしてサンの実は皮は硬いが中身は柔らかい、手のなかにすっぽりはまる大きさのもの。味はとっても甘い。南に位置するこの地方では砂糖の代わりにもなっている果物である。
トマの実は意外とどこでも栽培されている野菜なので手にいれるのになんら問題はない。
しかしキャラムとサンの実はレイラたちがいるこのアルラ地方でしか栽培はされていない。だからここで大量に購入しておきたいのだ。スカイのための食料としてだけでなく、保存食を作るのに欠かせないから。
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