四章 伝説の傭兵
53話
「我等『流れ星』、任務よりただいま帰還しました」
グレイたちより一歩前に出たスティーブが一言告げた。
すると。
「おうおうようやく帰ってきよったか! 無事に帰ってきてなによりじゃ!」
ドミニクはフニャリと表情を崩し、目元に皺を創って笑った。
その笑みは老人が自分の孫を可愛がるような温和なそれで。なんだかこちらが毒気を抜かれたような気分になってしまう。現に4人は表情を崩し、肩の力を抜いたような笑みをしていた。
さっきまで目元に皺を寄せていたあのグレイでさえもだ。よほど彼を信頼しているのかとこちらが感じさせられるものだった。
しこたま笑った彼は6人にソファに座るよう指示をした。そして自らも椅子から腰を上げ、ソファの方に歩いてくる。スティーブたちやレイラ・ディックはその指示に従ってそれぞれ違うソファに腰を下ろした。
そうすればすぐに、
「スティーブ並びにリディアナ・エレミア・グレイよ。長旅だったのじゃ、疲れたのではないかな?」
ドミニクの質問が始まったのだった。
一見事務的な質疑応答のように見えるが、レイラにはなぜか5人が会話を楽しんでいるように見えた。
任務についての話し合いだけのはずが、ごくたまに彼らのプライベートについて質問する声も聞こえてくる。ほとんど関係がない話だというのにだ。ありえない光景にレイラとディックは会話のなかに追い付けない状態であった。
スカイに至っては暇なのか眠くなったのか、近くで丸くなっていたほどである。おかげで会話に入る糸口も入り方もわからず、ためらうしかなかった。
「……あぁすまんすまん、話に入っていけんかったか」
二人が無言であることにようやく気づいたドミニクが話を中断させてこちらを見る。その表情がなんだか申し訳無さそうなものなので、
「い、いえ。なんていうかその……初めてここに来たのでわからなくて。でもお話が楽しそうだったから入るのも難しいかなって思ってただけなのです。なので大丈夫です、よ?」
慌ててレイラは静止の言葉をかけた。まさかここで話し合いを止めてしまうとは思わず、罪悪感と申し訳ない気持ちでいたたまれない。
そういう気持ちも込めて返事をしたつもりだったのだが。
「いやいやそうであってもな? こちらが呼んでおいて放っておいてたのでは、君たちが怒るのも無理はない。いやはや申し訳ないのぉ」
ドミニクがしょんぼりとした表情で頭を下げたものだから余計に申し訳なくて、
「そ、そんなことっ。こちらこそなにも話せなくて……っその、ごめんなさいっ!」
レイラは焦って頭を机にぶつけた。
ゴツン! 乾いた音が鈍く響きわたる。
隣の幼馴染みが思わず噴き出して笑ったのが聞こえたのがかなり恥ずかしくて、レイラは頬や額が真っ赤になった。
「大丈夫かのぅ?
ドミニクに言われて額を手で触ってみれば、微かにポコッと凹凸が。とはいえ衝撃が小さかったのか痛みは感じない。完全に軽い打撲傷のようだ。
「えと、大丈夫です。少しだけのようですし……心配をかけました」
レイラは額から手を退けてにっこり笑った。照れていたので赤みはほとんど引かなかったが、精いっぱいに笑みを浮かべながらなんとか乗り切ろうとしたのである。
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