48話
そのとき。
存在を確認するかのように手をギュッと握りしめられるのを彼女は感じた。同時に飛んでいた意識がグッと現実に引き戻されていく。
感じた方向に目を向ければディックがそこにいて。目線こそ前だったが、その握る手にはどこかレイラを安心させるような、そんな何かが感じ取れた。
暖かいその感覚に、レイラは心の中のわだかまりが少しずつ解れていくのを感じる。
―――その様子をグレイが耳をたてながら見ていた。琥珀色で縦長の瞳を猫のようにキラリと光らせながら。
レイラは少し目を閉じ、また開くと自身の答えを出した。
「……どうだろうか?」
剣の青年が再度訊ねてくる。
数秒間経ったのち、彼女は答えた。
「っ、あたしは……―――』
* * *
次の日。
片付いてほとんどもぬけの殻になった自分の部屋に、レイラは1人立っていた。足下には大きなカバンがポツンと一つ。斜めに肩に掛けて持ち運びするタイプのものだ。
中には部屋にあった服や姉や兄から貰った大切なもの、それからこれから使うだろうお金といくつかの着替えが入っている。旅の間に買った食料をいれるための容器や袋も詰め込んであった。
もちろんあの錠のかかった例の本も中に入っている。もしかすればどこかで
彼女は大きく深呼吸をしたあと、最後の準備をし始めた。
着ている服の上に茶色のフードが付いたマントをさっそうと羽織る。風になびいてマントの裾がふわりと広がった。
ちなみにここだけの話だが。このマント、後々すごい効果が現れる予定だ。ただその効果が出るのは―――まだまだ先のお話である。
それから棚に立て掛けていた刀身が細い
そして頭にしっかりフードを被れば準備は万端だ。あとは家を出るだけである。
ちょうどそのとき。一階から、
「準備終わったか? そろそろ出るぞ」
とディックの声が聞こえてきて。
彼女はもう一度部屋の確認をすると、走って廊下に出ていった。
家の外玄関に出ればすでに全員が集合しており、各自旅支度を終えてレイラを待っていた。
黒い下地に黄色の刺繍が施され、青い石の付いた首輪を付けたスカイが、主人を見つけてすり寄ってくる。レイラが頭を撫でてやれば寄りいっそう甘えた鳴き声をあげた。
最後だったレイラが来たのを確認すると、剣の青年は、
「それじゃあ、出発だ!」
全員に声をかけて先頭を歩き出した。そのあとを魔導士の少女・エル・グレイの三人が連なるように続いて歩いて行く。
レイラは体を屈めたスカイの上にしっかりと跨がった。乗ったのを確認したスカイが立ち上がってグレイの後をゆっくりと歩き出す。その最後尾にディックがつき、ようやく一行は家を出発した。
そう。彼女は家を出発したのである。ここにいることはもう出来ないと判断し、その上で一緒に隣町へ行くことを決めたのだ。
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