29話




 役人の男が宙に放り投げたのは親指サイズの小石。なんの変てつもない、どこででも見ることができるただの石だ。


 しかしこの石にはふたつの特性があった。

 ひとつ目は空気に触れると体積が膨張すること。石自体が空気を吸い込み風船のように大きく膨らむ性質を持っているのだ。下手をすれば森一帯を包む空気をそのなかに内包するほどで、石の大きさが小さいほど吸い込む空気の量は増すと言われているとか。

 そしてもうひとつ。それは、どんな小さな衝撃であろうとも


 故にこの石は名を『喰山石くざんせき』と呼ばれるようになる。山をも消滅させるほどの威力を持つことからそのように名をつけられた。人の魔力によって生成でき、昔戦いの場において敵の退路を断つのに使われていた攻撃用の魔石である。現在は主に鉱山などで発掘作業に使われることが多いのだが・・・役人の男たちが持ってきたのは明らかに攻撃用として使われていたものなのだろう。

 だからこそ村の男たちはそれがなんなのかわかった上で、急いで避難をはじめたのだ。



 

 ―――しかし気付いたときにはもう、全てが遅かった。






           * * * * *






 その爆発はストックの村のみならず、村を囲む一部の森をも飲み込んだ。

 もうもうと砂煙やらで見えづらくなっているが、あとには爆発で原形を留めていない瓦礫の山と爆発で剥き出しになった地面のみ。その場所にだけぽっかりと、半球の穴のような跡が残った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る