第13話 決着、そして――

「まだです。森の中の集落に逃げ帰って応援を呼ばれては後々面倒です。後顧の憂いを断つ為にもこの場で殲滅します」


 何やら恐ろしい事を言っている。

 彼女は目を閉じて集中しだす、ジャイアントオーク達に目をやると、既に現在置から森までの半分くらいの位置まで撤退してしまっている。このままでは逃げられてしまうだろう。

 俺は瞑想するカー子に声を掛けようとした。その時――


「根源より賜りし秩序の灯火よ、滅びを以て彼等に救いを与え賜え……《爆熱波動球フレアバースト》!!」


 ――彼女の目が見開かれる。指先から拳大程の大きさの真紅に燃え輝く結晶が放たれた。

 それは美しい、まるでこの世のモノとは思えない程の煌めきを放ちながら一直線にジャイアントオークの集団に飛来、そして着弾する。


 着弾点となるジャイアントオークの集団を中心に、周囲一体が眩いほどの白光に包まれる。

 目を開けていられない程の輝きはやがて彼等ジャイアントオークを飲み込むように中心部へと収束していき――


 ――世界から――音が消失した――――


「お、おっ? うおぉぉおおおおおッッッ!?」


 俺は吹き荒れる突風に巻き込まれて、遥か後方まで転がるように吹き飛ばされていた。




 暫く時が経過して周囲に音が戻ってきた事を認識すると、俺はボロボロになった身体を軋ませながらやっとの思いで立ち上がる。スーツには大量の土埃が付着しており所々擦り切れていた。

 一体どれ程吹き飛ばされたのだろうか、俺は身体に纏わり付いた土埃を払うと咳をしながら周囲を見渡し、そして唖然とする。


 地形が、変わっているのだ。森の手前、ジャイアントオーク達が居た筈の爆心地を中心に、直径数百メートルに渡って巨大なクレーターが出来上がっていた。


 完全なオーバーキルである。


 唖然としていた俺の後方から足音が聞こえるのに気付いて俺は振り向く。

 そこには先程の大精霊カーバンクルとしての姿を失い、先日俺が渡したYシャツ姿に付着した土埃を払いながら歩いてくるカー子の姿があった。


「いやぁ、説明していませんでしたが私、先日お見せした治癒魔法や風属性魔法よりも、先程使った火属性魔法のほうが得意なのですよ」


 なるほど、森から走って抜け出したのも、「」と言っていたのも得意の火魔法に森を巻き込まない為の距離を稼いでいた訳だ。

 いや、その配慮は立派だし必要な事だとは思うし、火魔法は確かにとんでもない威力だったが、今聞きたいのはそこじゃないよね?

 俺の渾身の白い目が彼女に向けられる。


「えーと、先程私がタカシの指を切って咥えたのは、血を摂取する為ですね。私が必死に抵抗して何とか残したこの胸の精霊核、精霊としての力は失われてしまいましたが、何とか『世界の意志』との繋がりだけはかろうじて残せたんですよ」


 カー子は誇らしげに胸元の赤く輝く宝石に手を当てながら説明を続ける。


「そして【誓約の魔眼】の術者であるタカシの血液を摂取する事によって、元々残されていた『世界の意志』との繋がりを辿って魔眼の根源である誓約の秩序にアクセスして、本当に一時的ですが力の一部を返してもらったという訳です。いやぁ一か八かの賭けでしたが成功してよかったですよ」


 あれで一部なのか、しかしまあ”限定解除”については解った。というかコイツあの場面で成功するかもわからん一か八かの賭けに出てやがったのか……それで――


「それで最後のは?」


 溜息混じり質問する。

 あっ、コイツ今目を逸しやがった!


「……えーとスミマセン。一時的にでも返ってきた精霊の力に浮かれてしまいまして……調子にのって爆発の余波を防ぐ為の魔力まで全部使い切ってしまいました」


 カー子は握りこぶしを頭の上に起きながら上目遣いで舌を出すと、謝罪の意を示してきた。

 いわゆるてへぺろである。見る人が見ればイチコロで許してしまうであろうそのポーズも今の俺に取っては殺意が湧いてくる対象でしかない。


 こっちは死ぬかと思ったのだ。何の説明もなしに、それもオークに囲まれた時と今の爆発で二度も!


「えーと? カーバンクルさん?」


「いやぁ、やめてくださいよー。命を賭して共に戦ったのに、今更さん付け、それも精霊名呼びなんて水臭いじゃないですかー」


 いや、共に戦ってないし、命を賭したっていうより一方的にお前の賭けに俺の命までベットされただけだからね。


 流石のカー子も申し訳なさそうな顔で俺の顔を下から覗いてくる。

 しかし、続く上目遣いで放たれた一言で、俺の我慢は限界を超えるのだった。


「あと、どうせ呼び方を変えるのでしたら、ここはやはり『カーちゃん』が一番可愛らしくていいと思うのですが……」


「呼ぶかぁぁあああああ!! 阿呆かぁぁぁああああああああああッッッ!!!」


 再び俺の絶叫が、この草原に響き渡るのだった――

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