己が為に、刺はある―0―


 運命。


 初めてその言葉を知った時の衝撃を、今でもよく覚えている。



 『昔々、あるところに』から始まるよくある絵本のよくある話が、昔々、あるところで、純粋無垢な幼女に読み聞かせられた。

 良い事をすれば報われ、悪い事をすれば罰せられ。頑張る誰かと支えた誰かに愛が芽生えて、そしていつかは結ばれる。苦難を乗り越え幸せになった二人の道筋を、どうやら運命と呼ぶらしい。しかもそれは、出逢うべくして出逢った二人でもあるらしい。

 ……何だか疑わしい。でも、それよりずっとずっと素敵だ。


『そんなことってあるの?』


 ───ああ、あるよ。


『ほんとう?』


 ───本当さ。


『あたしにも……?』


 ───もちろん。信じていれば、きっと、な。


『……そうなんだ』



 運命。


 初めてその意味を知った時の感動を、今でもよく覚えている。


 それは─────夢だ。

 透明な心に舞い降りた、七色の虹だ。

 可哀想なネロとパトラッシュを、天界へ導く天使の羽ばたきだ。


 信じていた。憧れていた。探していた。大好きだった。幸せを願った。それくらい、衝撃も、感動も、何もかも、よく覚えている───だから。



『ふざけないで!……これの何が“運命”なの……!?ずっと、信じてたのに!もうこれ以上、そんな偽物で私達を掻き乱さないで!───気持ち悪いのよ……!!』



 今は、もう────全部、忘れたい。

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