たてたてヨコヨコ。.

第58話「弱虫な英雄級(ロワクラス)？」

　第五十八話「弱虫な英雄級（ロワクラス）？」

　ーーシュバッ！

　次の瞬間、勢いよく宙に飛び出す黄金光の少年！

　ーーバシュッ！

　ーーバシュッ！

　少年は、襲い来る幾つもの黒い触手を体当たりで弾いて消滅させていく！

　ーーバシュッ！

　ーーバシュッ！

　「くっ！……」

　しかし、その触手に対処すればするほどに、黄金色の少年……”じゅんや”の身体（からだ）から光は失われ、輝きは次第に燻（くすぶ）ってゆく。

　「し、集中しろ盾也（じゅんや）！僕の能力（ちから）はキミの能力（ちから）だ！わかってるだろ？この能力（ちから）を掌握すればするほど盾也（じゅんや）は戦士（ソルデア）として……」

　「む、無理だよ！……うわぁぁーー！」

　当の僕は腰を抜かしたように地面に尻餅をついたまま、恐怖に泣き叫ぶだけだった。

　ーーバシュッ！

　ーーバシュッ！

　なおも黒い触手を弾きながら、僕に語りかける事を止めない”じゅんや”。

　「盾也（じゅんや）！能力（ちから）を攻撃に！それだけに集中するんだ！武器を……剣をイメージして僕をそれに変換するんだ！攻撃だけに……そうすれば」

　ーーそうすれば？

　「そうすれば、”聖剣”とまではいかないまでも、それに近い力を手に入れられる！」

　「せ……いけん……」

　「そうだ！今現在、盾也（じゅんや）が持つ能力を目一杯開眼させられる！今のこの窮地を脱して、いつかは”聖剣”……キミは”英雄級（ロワクラス）”に辿り着くだろう！」

　「……せいけん……勇者の剣……僕が……」

　ーーバシュッ！

　ーーバシュッ！

　「くっ！……そうだ……盾也（じゅんや）……もちろん平坦な道では無いけど……それなり以上の努力と、しかるべき指導者の下で血の滲むような修練が必要だろうけど……」

　「…………」

　「盾也（じゅんや）にはその資格があるっ！八人目の英雄級（ロワクラス）たる資質があるんだよっ！」

　ーーバシュゥゥーーーー！

　「うっ！」

　幾つ目かの触手を消したとき、”じゅんや”の身体（からだ）から完全に黄金色の輝きが消えていた。

　そして次第に”じゅんや”は高度を下げる……

　ゆっくり、ゆっくり落ちてきて……

　”じゅんや”の身体はより希薄に、大気に馴染んで消えていく……

　「じゅっ盾也（じゅんや）……英雄になりたいんだ…………ろ？」

　そうして”じゅんや”と僕が名付けた黄金色だった少年の身体（からだ）は、殆どその実態を保てなくなっていった。

　「いやだ！無理だ！こわいよぉぉー！死にたくない！いやだぁぁぁぁ！」

　ーーう゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーん！！

　空で大きな、黒い悪魔が……獲物の悲鳴にまるで歓喜のような雄叫びを上げた。

　「じゅ……盾也（じゅんや）……」

　黄金色だった少年は、殆ど音も無く僕の前の地面に落ちて……

　既に事切れた鳩のようにグッタリと動かなくなった。

　「あ……あ……あぁ……」

　ーーもはや為す術が無い

　ーー僕を守るモノはもう何も無い

　ただ泣き叫ぶだけの”子供（ぼく）”に、見るからに邪悪な無数の黒い触手と、巨大な暗黒球本体が、いよいよと迫って来る！

　「ぅ……うわ……あ……」

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　ギョロリ！ギョロリ！

　無数の目玉どもが一斉に見開かれ、その全てが至近距離で僕を捉えていた！

　「いっ！いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー！！！！！」

　ーーーキィィィィィィィィーーーーーーン

　爆発した僕の感情にーー

　まるで繋がっているみたいにーー

　足元で力尽きていた”じゅんや”の身体から、内部から、突如あふれ出た光で……

　ズッ！ーーーードォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーンン！！！！

　「うぅ！……」

　辺り一面を！黒い怪物を！……瞬く間に鮮烈な白が蹂躙するっ！

　黒！白！黒！白！白！白！黒！白！白！白！…………

　白！白！白！白！白！白！白！白！白！白っ！！

　無智で無恥の無垢な無法な白……

　持ち主のせいで”ちゃんとした”意思をもたない強烈な閃光は……

　滅茶苦茶に世界を蹂躙し、浸食し……

　「瞬時に救いようのない暗黒色の空は、もっと救いようのない無智な白に塗り替えられたってわけだよ……」

　ーー

　ー

　「…………じゅ……盾也（じゅんや）くん……あなた……本来なら私より前の……八番目の……」

　俺の昔話にじっと耳を傾けていたプラチナブロンドの美少女が、翠玉石（エメラルド）の瞳を俺の顔にじっと向けていた。

　「全て消えた……怪物も”じゅんや”も……木も石も、ビルや山さえ……辺りは少なくとも十キロ四方は無の世界だ」

　「あの……盾也（じゅんや）くん？あのね……もう、もういいから……」

　「俺はその日失ったんだと思う……なにを？それは……戦うことを……立ち向かう勇気を……最後までそれを選ぶことの出来なかった俺は、ただ恐怖に怯えて、自身を、この期に及んで自分だけを、自分だけを守るために……聖剣なんていう”英雄級能力（はためいわくなちから）”を世界に垂れ流した……」

　ーー俺は”聖剣”なる不遜な存在に一家言がある

　見たことも無い存在に何故？

　俺の言い様はまるで聖剣の存在を疎ましく思っているようだ？

　……それは、そうだろうな……

　なら、聖剣とは一体何だ？

　あえて一言二言で表現するなら……

　英雄が携えし神話の剣！

　比類無き威力の宝剣！

　他に類を見ない超弩級の兵器！

　いいや……どれも違う……少なくとも”俺にとって”は違った……

　そうだ……

　”世界のあらゆる存在を無意味なものにする碌（ロク）でもない代（シロ）物（モノ）”

　「…………」

　ーーそれが聖剣だ

　俺にとっての呪いだ……

　「それで、年月を重ねただけの俺は……思う、自分は誰なんだって、泣き虫で無力な盾也（じゅんや）なのか？臆病な自分が創り出した戦う事の出来るもう一人の自分、”じゅんや”なのか？……あの時、生き残った方はどっちなんだって……」

　「それは……」

　「解ってる、今の俺は盾也（じゅんや）だ。けど、”それ”が残ったことに意味はあるのか？存在している俺は”じゅんや”の方が何倍も……」

　「やめてっ！！」

　羽咲（うさぎ）は神妙な顔で、いや、どう対応したら良いか解らない、戸惑った表情で俺を見ていた。

　ーーそうだろうな……そりゃそうだ

　「勿体ぶった割に聞いて面白いもんでもないだろ？だから話さなかった、ってか格好悪すぎるから言いたくなかっただけかもなぁ」

　柄にも無くシリアスな話をしてしまった俺は、どんよりとした空気と羽咲（うさぎ）の表情に気づいて、あわてて冗談っぽく取り繕う。

　「盾也（じゅんや）くん、あなた本来なら……八人目の英雄級（ロワクラス）だった……」

　だが、羽咲（うさぎ）は戸惑いながらもそう切り出す。

　ーーうぅ……簡単には戻らないか……この空気……ってか俺がそうしたんだけど……

　「盾也（じゅんや）くん……」

　ーー彼女は……あぁ、そうだな……

　羽咲（うさぎ）も聞きたいことがてんこ盛りだろうに、気を遣っているのだろう。

　俺が犯した罪の……その後の情けない俺の生活の話に比べたら……

　そうだ、彼女の話題のチョイスは妥当だろう。

　最大限気遣ってくれているとも言える。

　「候補みたいなものだったってだけかな？……今は能力（ちから）の殆どを失った、だから羽咲（うさぎ）の先輩ではないし、正真正銘、羽咲（うさぎ）・ヨーコ・クイーゼルが八人目の英雄級（ロワクラス）だよ」

　羽咲（うさぎ）は複雑な表情ながらも、無言で頷く。

　そして、なにやら落ち着かない様子で俺を見上げた。

　「……その、その後……”空亡鬼（そらなき）”が消滅した後……あなたは……」

　モゴモゴと聞きにくそうに、聞くのを恐れているといった空気を纏いながら……

　「その後、何日か後に施設に保護された俺を”黒頭巾の奇妙な男”が訪ねて来た」

　言いにくそうな、聞くのに覚悟を決めかねていそうな少女の代わりに、俺は自ら話す。

　「…………」

　彼女は翠玉石（エメラルド）の瞳で真剣に俺を見つめている。

　ーーまぁ、乗りかかった船だ……いや、これはちょっと表現がおかしいか？まぁいいや

　兎に角、俺はその部分は自ら口にすることにした。

　「”臆病者の少年、盾也（じゅんや）くん、キミはこんなところで何をしているんだい？”ってね」

　「……」

　案の定……羽咲（うさぎ）は予想通りの顔だ。

　戸惑った、悲しそうな……どうして良いかわからない顔。

　「なんでその”黒頭巾の奇妙な男”がそれを知っているのか分からなかったけど、子供の俺は、そんなことより、その珍妙な男が怖くて怖くて仕方が無くて……黙っていた」

　ーー

　ー

　「鉾木（ほこのき） 盾也（じゅんや）くん、キミは自立しなければならない。少なくとも多大な迷惑を掛けた”人間”のお世話になっているようじゃあ駄目だ、クズだ、どうやってもクズだけどこのままではクズ過ぎる……解るだろう？」

　「…………でも……僕は……」

　「直ぐにバレるよ、キミが問題を起こした元凶だって、嘘はそう長く続かないんだ、此所（ここ）に居ると直ぐにキミは以前と同じ目に遭うだろう」

　「……以前と……い……いやだ……う……」

　「だろうね……なら自立しないと」

　「でも……でも僕は……」

　「出来るよ、キミはその能力を持っている、造れるんだよ、武器を……”幻獣種（げんじゅうしゅ）”に対抗できる武器を……造ることができるんだよ」

　「…………僕が……武器を？」

　「通常の”武具職人（アルムスフォルジュ）”の能力とはかなりかけ離れた異端者（イレギュラー）だけども、キミはそれが出来る……」

　「……でも……そんな……僕は……」

　「ははっ凄いね、キミは”幻獣種（かいぶつ）”と戦える最高の能力を！”英雄級（ロワクラス）”の素質を！臆病さから手放してそれを武具職人の力に……ははっ！見事だよ！自分は前線で戦わない！戦う者たちを盾に、でも自身の能力をそれに活かせる……自分は安全なところにいながら自分の矮小な罪悪感と自己顕示欲を満たせる方法をキミは無意識に思いついたんだよっ！」

　「……う……うぅ……ちが……」

　「何が違う！？ははは……恥じることも無い、それも生き方だよ……そう卑怯者の生き方の一つだよ……何も恥じる事は無い、キミの作る武具は正規のルートじゃ捌けないだろう、なにしろ異端者（イレギュラー）、無資格（ノーライセンス）の武具職人（アルムスフォルジュ）だからねぇ……でも安心してほしい、それなら裏ルートで捌けば良い、万事、この幾万（いくま） 目貫（めぬき）が引き受けた！」

　「ひっ！……う……あぁ……」

　「安心したまえ、鉾木（ほこのき） 盾也（じゅんや）くん……万事、この幾万（いくま） 目貫（めぬき）が引き受けたよ」

　「てな感じでな……あの”幾万 目貫（くろずきん）”の野郎……傷心の幼気（いたいけ）な子供の俺を言いくるめて、俺の努力の結晶を二束三文で買いたたいて暴利を貪ってやがったんだぞ？信じられるか、あの生きたブラック企業め！」

　終始真剣で悲しげな羽咲（うさぎ）の表情を覗いながら、俺はなんとかこの過去話を面白く……は無理だが、少しでもマシに話そうとユーモアを交えようと試行錯誤するが……

　「…………」

　彼女の反応を見る限り、それはどうも上手くいっていないようだ。

　「ああ、そうだ、さらに数年後なんだけど……”鉾木（ほこのき）くん、能力（ちから）に目覚めたみたいだね、キミの対幻想種技能別職種（エシェックカテゴリ）は”盾（シールド）”だよ”なんてな、巫山戯た宣告をしやがったのもあの黒頭巾だ……たく……あの野郎は……はは……は」

　ーー駄目だ……人付き合いが苦手で、ましてや女子なんて高等な生き物の相手なんて殆どしてきたことが無かった俺には……

　ちくしょー！こんなことならもうちょっとチャラく生きてきたら良かった……って、それこそ無理か……俺には……

　そもそもこういう展開になることが嫌で話さなかった俺。

　親しい相手に向けられる同情や哀れみは……時として何より気まずい……

　現状の打開策も無く、最早引きつって笑う俺に……羽咲（うさぎ）の翠玉石（エメラルド）の瞳は真剣なまま……俺を見つめ続ける。

　「え……と、話してみると滑稽な話だよな、過去の爆発でも、周辺住民は皆避難していて人的被害も無かったって言うし、考えようによっては、馬鹿な子どもの結構な喜劇とも言えるし……」

　「盾也（じゅんや）くん……」

　ーーなんだよ……その瞳……人がせっかく明るく？話そうと……くそ……やっぱり言うんじゃ無かった……重くて、カッコ悪くて、表面上は可哀想ねっていわれる俺の過去……

　ーーでも実際は自業自得、せっかく持って生まれた貴重なものを、卑怯で弱虫の俺が無為に失った愚話だと……本心（ほんとうのところ）では他人（ひと）は……

　「盾也（じゅんや）くん……あの」

　ーーそうだ……俺は懲りずに期待した……

　ーー懲りずに……昔逃げたくせに……大事なときに逃げたくせに……

　ーーいや、だからこそ……今度こそ……やり直そうと……人生を取り繕おうと……

　ーー”戦士（ソルデア）”の能力の開眼に期待した……

　かつて英雄に憧れた意気地の無い子供が、せっかくの才能と自分をその臆病さで失った……それを帳消しにしようと……

　けど……

　けど、どっちにしても、俺が得たのは”盾（シールド）”という珍妙な幻想職種（カテゴリ）……

　あの性格がねじ曲がっている幾万（いくま） 目貫（めぬき）でなくても言うだろう。

　それを知った皆が思うだろう……

　ーーまた自分を守るためだけの能力だ

　ーー決して戦わない……臆病な能力だ……と

　「…………」

　「盾也（じゅんや）くん……その……あなたは……だから、わたしの戦いに協力を……」

　黙ったままの、俺の未練たらしい心を見透かしたのか、羽咲（うさぎ）は心配そうに声をかけてきた。

　ーーそう……だ

　ーー俺はこの臆病な能力の”盾（シールド）”を使ってでも、今度こそ……

　ーー今度こそ自分以外を守って見せたい……

　ーー流されるうち、何時しか芽生えたそんな”悪あがき”だった？……のか……

　俺の目の前にはプラチナの髪が眩しい翠玉石（エメラルド）の瞳を持った希な美少女……

　そして彼女は、羽咲（うさぎ）は今までの他人と違う……きっと本当に俺を心配してくれているだろう……だろうけど……

　ーー俺は……それでも、こういう空気が嫌だった……

　「……羽咲（うさぎ）」

　「盾也（じゅんや）……くん」

　見つめ合う二人……

　だから俺は……

　ーーすっ

　「えっ？えっ？えぇーーっ！！」

　グイッ！

　ドターーンッ！！

　次の瞬間、俺は投げ飛ばされていた……

　「う……うぅ……いてて……」

　目の前のプラチナツインテールの麗しき美少女によって……豪快に床の上に寝転んでいた。

　「なっ！なにするのよっ！じゅ、盾也（じゅんや）くん！？……」

　ーーなにを？

　そう、彼女と見つめ合っていた時、俺の手は、そっと美少女の可憐に膨らんだ胸に向けて伸びて……

　その果実に触れる寸前で、手首を掴まれて見事に宙に舞っていたのだ。

　「……いや……なにって……報酬を……」

　「…………」

　俺の言葉に羽咲（うさぎ）の冷たい視線が刺さる。

　「いや……だって約束しただろ？……それも大分前に……」

　「してない！っていうか、ちょっとでも真面目に聞いたわたしが馬鹿だったよ……ほんと、盾也（じゅんや）くんが何のためにこんな危ない戦いに付き合ってくれているのかって……」

　「いや……それは……まあ……むね……」

　ーーダンッ！

　「答えなくてよろしいっ！」

　羽咲（うさぎ）は、仰向けに寝転んだ俺の顔の直ぐ横を思いっきり踏みつけた。

　ーーおっ……おお、もうちょい！

　ヒラリと翻る、短めのスカート……

　ーーぎろりっ！

　そしてそれを追った俺の視線は、直ぐに翠玉石（エメラルド）の瞳に留められる。

　「うっ！……はい……」

　俺の時と場所を選ばないセクハラ行動にご立腹の美少女は、それでも心底と言うよりは、”しかたないなぁ”と呆れ気味の、俺にはいつもの大甘な裁定をしてくれる。

　ーーそうだ、俺はあんな空気は嫌だったんだ……だから……これでいい

「……でも、それにしても、あの”フィラシスの男”は盾也（じゅんや）くんが九年前に死んだって……」

「死んだ？俺が？……ああ、それは多分、あの”幾万 目貫（くろずきん）”が吹き込んだんだろうなぁ……そっちの方が面白そうだとかってぐらいの理由で……」

　「そもそも私たちに流した情報といい、あの”ひと”って……」

　羽咲（うさぎ）も怒りを通り越して呆れているが……

　「で、その”フィラシスの男”……えっと、何て言ったっけ？えっと……」

　ーーガッシャッァーーーン！！

　ーー！？

　俺達の会話を遮るように……

　突如！教室の窓ガラスが飛び散って、俺達のいる部屋に何かが放り込まれてきた！

　俺の視線はその”物体”……冷たいリノリウムの床に転がる”なにか”を確認しようとしたが……

　「っ！」

　羽咲（うさぎ）は既に剣を構え、破壊された廊下側の窓ガラスの方角をを睨んでいた。

　「みーつけた、見つけたぞ、月華の騎士（グレンツェン・リッター）……」

　暗闇へと続く廊下側の破損した窓から、ゆらりと現れる大きな影。

　二メートル、いや、天井ギリギリの高さを窮屈そうに移動するシルエットは、三メートル以上ある人影？だ……

　俺の視線は、否が応でもそのシルエットに移っていた！

　「お前はっ！じゃっ……ジャンジャンタベールっ！？」

　「ジャンジャック・ド・クーベルタンよ……」

　隣で剣を構えた美少女の……冷たい声が聞こえた。

　第五十八話「弱虫な英雄級（ロワクラス）？」END