第40話「一生ついていきます?」
第四十話「一生ついていきます?」
「作戦其の壱!俺が
「……言いくるめるってどうやって?」
勢い込んで提案する俺を冷めた瞳で見る少女。
「そ、そりゃ……男の魅力?で……」
「却下……
ーーなんて理不尽なお言葉……そりゃ経験なんてないけども!
「……いや、それは解らないだろ!実際、
ーーっ!
ーーうわっ……いま滅茶苦茶、怖い眼で睨まれた……
「とにかく!
本日もプラチナブロンドのツインテールが眩しい生粋の美少女は、白い指先で摘まんだストローでガラスコップの氷をカランとひとかき回す。
「って、俺の魅力はごく一部の人間の間で最強と名高い生物、”
「…………」
即座につっこむ対面の俺をなんとも言えぬ
「……
「いや、そんな褒められても……照れるな」
「褒めてない!」
そして呆れ顔の
ーー俺、
「…………」
ファミレスのドリンクコーナーでも、男性客の視線をチラチラと集めるプラチナブロンドの美少女。
しかし当の彼女はそんな視線など全く意に介さずに、そそくさと好みのドリンクを調達している。
とはいうものの……実際、
今日の学校では病欠と言うことになっていたし、明日からは夏休みだ……
ーーカタッ
テーブルの上に置かれる数枚の皿とホットの紅茶。
思案していた俺の意識は目の前のテーブルに向けられる。
この紅茶の爽やかな香りはセイロンだろうか……しかし皿の方が……
「
「美味しそうでしょ?」
テーブルの上に皿が四枚、勿論全て皿だけと言うことは無い。
カップケーキの上に山と盛られたクリーム、その上に燦然と輝くつやつやのマロングラッセが象徴のモンブラン。
さくさくのパイ生地を埋め尽くすほどの、季節のフルーツをふんだんに使った瑞々しいフルーツタルト。
香ばしい上質な生チョコでコートされたガナッシュ。
オーソドックスではあるがケーキの王様、苺のショート……などなど。
「…………」
いくらケーキも食べ放題だからって……ひとりで……これを?
俺が怪訝な顔でスウィーツと対峙していると、彼女はニッコリと笑って言った。
「取りあえず色々試してみたいの、で、あとは……」
プラチナブロンドの美少女はニッコリと微笑みを俺に向けた。
「やっぱり俺か!なんだ、俺は残飯処理班か!っていうか、自分が食べられるだけにしなさい!」
目の前の学習能力ゼロな女に、俺は至極真っ当な説教をする。
「だって、色んな味覚を……」
「俺は喰わないからな……おまえなにか?俺をデブキャラかなにかに仕立てあげるつもりデプか?……」
いやいや、思わずデブキャラ言葉になってしまった。
どっちにしても今度という今度は絶対に知らん!
この女は、スウィーツなだけに”甘やかす”とつけあがるからな……
ーー
「……あーんしてあげてもいいけど?」
「さあ!何から食べる!」
プラチナブロンドの美少女が魅せるとびきりの笑顔に、俺の右手には既にフォークがキラリと光っていた。
「ふふ……素直でよろしい」
ーー
ー
もぐもぐーーー
もぐーー
「
そう言って微笑む、何が楽しいのか、ご機嫌な彼女。
「…………」
いや、幸せに決まってるだろう。
こんな美少女に”あーん”してもらえる……
俺の人生でこんな奇跡的なひとコマがあろうとは……
ーークーーーー!生きてて良かったぁぁ!
「!、ふぉれはふぉうと……うふぁび……」
「ちょっちょっと、食べながら話さないでよ……もう」
ーーゴクン!
「改めて、それはそうと
「ん?うん、そうだけど」
「だったら、ちょっと相談があるんだけどな、明日一日付き合って欲しいところが……」
「!?えと……ごめんね、明日はちょっと……」
俺の誘いに少しだけ
「……そうか、用事が?」
「えっとね、前に貰ったあの、
ああ、たしか”豪華リゾート施設マリンパレスの一日無料券とロイヤルベイホテル、スウィートルームペア宿泊券”……宿泊券?……
「そ、そうか……友達と?」
ーーいや、なにつっこんで聞いてんだよ、俺!
「……え、うん、ちょっと……」
「そうか!そうかぁぁーー!そうだよな!おまえもお年頃だしな!いや、悪かった悪かった!はっはっはーー!」
何か答えようとする
「……?」
俺の反応に、何だか不思議そうな視線を向けてくる少女。
ーーうぅ……そりゃそうか……突然大声で意味不明の高笑い……
だが俺はそんな奇行で
そう、俺は確認したくなかったのだ……多分彼女ならそんな相手がいても不思議じゃ無い、いや、寧ろいない事の方が信じがたい。
「いや、気にするな、大した用事じゃ無かったし、まぁ”聖剣”のことも
「……彼氏と?」
落ち着きが無い俺の言葉の最後……ごにょごにょと消え入りそうな声で漏らした言葉を拾って、
「いや、他人の俺が立ち入るのは野暮だった……忘れてくれ」
見る間に雰囲気が変わる
ーーうぅ……生ぬるい……ってか味がしない
「…………」
対面で黙り込んだ少女はというと……不機嫌そうな表情で俺を見据えていた。
ーーやはり余計な詮索だったか?そりゃ気分悪いよな、馴れ馴れしいっていうか……
「……わかった、息抜きさせて貰うわ……彼氏とっ!」
プラチナブロンドの美少女は大変ご立腹でそういうとプイと横を向く。
「お、おう……」
俺の軽はずみな一言で気まずくなる空気の中……
誠に話しかけにくい状況ではあるが……俺はあと一つ、報告しておくべき重要案件があるのを思い出していた。
勿論、”聖剣”がらみ……
とは言っても、今となっては先生って呼ぶのもな……
多分もう学校には来ないだろうし。
いや、この際どっちでも良いか、呼び方なんて。
「
「っ!?……み・ず・のぉーー!」
ーーうわっ!またもや、滅茶苦茶、怖い眼で睨まれた!
「い、いや、
「……ふぅーん、で、その”みぃ・ずぅ・のぉ”さんの居場所がわかったのかしら?」
ーーうぅ……なんてか……”ピーターの茨屋敷”並に棘があるなぁ、”うさぎ”だけに……
「……ざ、残念ながら……ただ、
「そぅ」
少女からは、紅茶を飲みながらの素っ気ない返事が返ってくる。
「分かり次第連絡するよ、えっと……携帯にで……良いんだよな?」
「……」
「でられたらでるわ、でも、わたしも明日からいろいろと忙しいから!」
ーーくっ!……なにもそんなに邪険に言わなくても……
ーーー
ーー
そうして、しばらく無言でお茶の続きをした後、プラチナブロンドの美少女はツインテールを揺らせて帰っていった。
なんだか後半はもの凄く怒っていた様子だったが、最終的に独りで黙々とケーキを全て平らげていったのは流石というか、なんというか……
ーーいや、最後は若干涙目になってたな……
「……ふぅ」
俺はひとり残った席で、味のしない水を口に含む。
「…………」
なんか色んな意味で、気が滅入った。
ーーまぁ、俺の滅入った気分の理由は解りきっている……
考えてみれば
普通に考えても、彼氏がいない方が不自然だろう……
俺も知らなかったとはいえ……
いや、正直、無意識にそう言うことは考えないようにしていたのかもしれない。
ひょんなことから親しくなったファンデンベルグのお姫様で、超お嬢様学校に通うプラチナブロンドの髪と
本来、俺のような輩とは接点が有りようもない相手だ……それを……
「……ちょっと、調子に乗って馴れ馴れしくしすぎたかなぁ……」
俺は今更だが、身の程を弁えて猛反省中だ。
「…………」
ーーカチャ
コップを手に取る。
ーーごくりっ
水を再び一口。
「…………帰るか」
俺はレシートを手にとってそそくさと立ち上がった。
ルルルルル!ルルルルル!
ーー電話?……誰からだ?も、もしかして……
焦ってそれをポケットから出して確認する俺……
ディスプレイに表示されたのは……
ーー
「…………」
ーーいや、期待とかしてなかったぞ……別に
俺は心の中で見苦しく自己弁護しながら、あからさまに残念な顔で通話ボタンを押した。
「あ、
「……この電話番号は現在、気分的に使われておりません、ピーという……」
「そんな情緒的な留守電があるかっ!ジュンジュン、いいか?キミにとっては良い話だぞ!」
「…………」
ーーなんだよ、面倒くさいな……俺は忙しいんだよ
「僕のファンクラブの
ーーなんだ?ファンクラブ?……くそ、モテ男自慢かよ……ほんと面倒くさいな
「しらね……」
非常にモチベーションの上がらない俺はそっけなく返す。
とはいっても、実際のところはその名自体は記憶している。
と言っても勿論口をきいたことは無い……確か、そこそこ可愛い
「そうか、まぁ、その
「…………」
「その……な……
ーーおいおい……
「
「うっ……すまない、気を悪くしたか?」
「あざーっす!!
俺は周りの客の目など寸分も気にも留めず、スマートフォンに向かって勢いよく、九十度にお辞儀をしていた。
「そ、そうか?……良かったよ、では待ち合わせは明日、マリンパレスのロイヤルベイホテル、ラウンジで」
「
見事にぐるりんと手の平を返す俺に若干引き気味になりながらもそう告げる
ーー明日?ロイヤルベイホテル?
「じゃあ僕はこれで」
「いや、ちょっちょっとぉぉ!!」
ガチャリ!
「
ツーツー…………
「……ま、
ーーえっとね、前に貰ったあの、
「……」
ーーああ、たしか”豪華リゾート施設マリンパレスの一日無料券とロイヤルベイホテル、スウィートルームペア宿泊券”……
「見事なまでの偶然の一致だ……」
ーーいや、別に俺が誰と会おうと関係無いんだろうし……そもそも、同じホテルに行くからって会うとは限らないけど……
俺はレシートとスマートフォンを片手に持ったまま、ファミレス”ゲスト”でぼぅっと立ち尽くしていた。
ーー全ては明日か……ていうか、すっかり頭から離れていたけど……元々の用事……どうしようかなぁ……
第四十話「一生ついていきます?」END
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