第31話「捜しものはなんですか?」
第三十一話「捜しものはなんですか?」
ーー恐らく
ーー或いは”
俺は目的地を目指しながら頭の中を整理する。
”聖剣”、”
あの時ヨーコは言った。
第一に……
「”聖剣”の可否は判断出来なんだが……」
”聖剣”の可否、つまり、直接
第二に……
「わが孫よ……わが二つ身よ……否定ばかりでは得るものは何もありはせぬぞ」
わが孫は勿論、
わが二つ身は……これも
そして最後に……
「ほほっ、次こそは、我に心地良き証を示してみせよ……」
これはそのままだ、次会うときまでには、”証”つまり記憶を取り戻し、自分を”聖剣”に戻して見せろと言ったのだ。
これらの発言からも、ヨーコ自身が
「…………」
あとは……ヨーコを”聖剣”に戻す方法だが……
幾つか考えつく方法はあるにはあるが……ここはやはり”聖剣”本人であるヨーコと話し合った方が良いだろう。
「よし!」
考えの纏まった俺は、歩きながらパンパンと顔をたたいて気合いを入れ直し、
「彼女から貰ったお守りは持ってる?」
「!?」
不意に俺の後ろから女性の声がかかる。
「ふふっ、大切な物でしょう?」
微笑む大人の女性は、
ワンレングスの黒髪ロングヘア、前髪をかきあげたヘアスタイルがなんとも気怠げで色っぽい大人の美女、俺のクラス担任だ。
彼女は俺の相談に応じてくれ、アドバイスもくれた、そしてもしもの場合に備えて自身も同行してくれるという。
正直そこまで巻き込むのは……とも考えもしたが、万が一荒事になったら俺には抗える手段が無い、一時退散する事も先ず無理だろう。
そのため手練れの
協力と言えば、実は
いざという時のために……まず、必要ないだろうが……
「先生、あまり冷やかさないでくれ」
俺は首にかけた
「ふふ、
ーー
ー
「お主は何か勘違いしておるようじゃな」
開口一番、”
「……?どういうことだ、貴方は”聖剣”には戻りたくないということか?」
俺の問いかけに、時代がかった豪奢な和装姿の美女は首を横に振る。
「強大な力を放棄するということ、その理由が必ずしも
「
まだ他に何か続きがありそうな口ぶりのヨーコの言葉を遮って俺は質問していた。
ーー俺には
「…………」
自身の惨めな経験から勝手に答えを決めつけていた俺は……そこにこだわってしまった……後から思い起こせばこの件の最初からそうだった……
ーーそう……だから周りが見えていなかったんだ
「…………」
和装美女の細い瞳は、何故か俺では無く俺の”後ろ”に注がれている。
ーーしかし俺は……この期に及んで俺は……
「自ら
俺の考えはこうだ。
余りにも大きな力は存在自体が悪だ!
制御できるか
軍隊、核兵器、独裁政治、狂信的な宗教、禁忌の大魔術、そして……聖剣。
それは人類の歴史を紐解いても実証されている……はずだ。
「…………誰しもがお主の如き経験をし、考えをもつ訳ではないぞよ……
「!」
頭の中を見透かされたかのような言葉に、俺は眼前の”
「……
そのときの俺の目は殺気立っていただろう。
およそ、平和的交渉にきたとは思えないほどに。
ーー周りが全く見えていない……それほどまでにその時の俺は愚かだった
「イライラしてますねー
「!」
ーーそれを言うならカルシウムだ!……そんなもん足りてたら危ないだろうがっ!
いつも通りの黒頭巾の口調が、不安定な俺の苛立ちを更に加速させる。
「クククッははっ!
店の奥に座り、宙に浮かせた足を楽しそうにバタバタさせているオンボロ店の主。
ーー
ー
只今、
ヨーコを睨む俺、俺の眼前のヨーコ、俺の後ろに控える同行者の
「……答えろよ!
「……さての、じゃが、
ーー
凄む俺などには、全く怯む事無く答えるヨーコの言葉が更に俺の感情を逆なでする。
ーー
地べたを這いずり回る俺みたいな小人には、大人物の心は理解できないってことかよ!
「そう険しい顔をするな、
「……
未熟な俺の顔はきっと不満タラタラだ。
「そうじゃ、あれは真の強者、希にさえ見ることのない”覇王の器”よ」
「…………」
ーーじゃあ……?
俺の疑問を察したヨーコは静かに頷く。
「
「……
ーー俺は反論する。
いまさら
優れた身内へのひいき目があると思ったからだ。
「
「……言うねぇ、そんなに強いなら、強すぎるなら、とうに世界は楽園だ、俺にもそれくらいは理解できるぞ、あんたの目は、多少曇ってる」
俺は続けて反論する。
俺の過去を
「
ーー解るかよ……俺なんかにそんな贅沢な悩みが!
「……何者も我が身に追いつけぬのなら我が落ちてゆけばよい、牙を失い、脆弱になり、僅かばかりの力で必死の闘争を経験し尽くして、その末に命を落とす……そこにこそ
ーー!
理解……できるわけがない……そんな理由……
「……きおく……は……?」
思いもかけない衝撃的な事実に、俺はかろうじてそう返す。
「記憶は自身で封印した、どんな窮地でも自身が命を落とすような時でも、仲間が、友人が、恋人が、我が子が、悪鬼羅刹に引き裂かれようとする
「…………」
ーー
真の強者とは……孤高の武とはそこまで……させるものなのか……?
自ら封印した……つまり
だけど……それじゃあ、
俺は完全に目標を見失っていた。
それが理由なら、そんな理由でなら、俺にはどうすることも出来ない。
たとえ
「……
「…………」
俺はウンともスンとも答えられない……だってこれではあまりにも……
ーー
ー
「そうっ!不完全!!不完全だからこそ
ーー!
手詰まりになった俺の後ろから高らかに女の声が響いた。
ーーな、なんだ?……
俺とヨーコの会話への突然の乱入者に、俺は唯々目を丸くし、ヨーコは表情を変えずに俺の後ろに立つ”その女”を見据えていた。
「伝説の大妖”
そう言って
「せ、先生?」
「ああ……こんな
「
「ふふふっ……あははは……あははははっ!」
ワンレングスの黒髪を振り乱して、俺のよく知る女性は……俺の後ろで……まったく知らない女の顔で狂ったように
第三十一話「捜しものはなんですか?」END
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