第25話「校門前の美少女?」

 第二十五話「校門前の美少女?」


 登校してすぐにその違和感はあった。


 「おいおい、恥ずかしくないのかよ、あんな不正をやっておいて」

 「俺だったら学校なんて来れないね……」


 あちらこちらから聞こえる俺の噂話。


 もちろん話題の中身は、日曜日の昨日行われた”討魔競争バトルラリー”のことだろう。


 まあな、”臨海祭りんかいさい”はここらの一大イベントだから、その目玉イベントである”討魔競争バトルラリー”の内容を学生達が知っているのも無理は無いだろう。


 だが問題はその内容……


 決して好意的とは言い難い内容だった。


 「…………」


 俺は何食わぬ顔で登校するが、当然と言っては当然、心中は穏やかで無かった。


 ーー最近、悪目立ちが多かったからなぁ……


 本来、地味な俺が、羽咲うさぎの事や、昨日のこと、ちょっと目立ち過ぎたって事だろう。

 俺は教室に向かって歩きながらも、ひしひしと嫌な予感を感じていた。


 このパターン……


 目立たなかった男が急に目立ちだす……


 その内容が他校のとびきりの美少女と仲良くするなんて人もうらやむ神設定。


 さらにとどめは、怪しい経緯で多額の賞金や賞品を手に入れるなんて……


 当然、やっかみと、押しつけの正義感と、やっかみと、道徳に対する意見と……やっかみと…………要は嫉妬がほとんど……つまり同級生達に反感買いまくっている訳だ。


 損な事……もとい、そんな事を考えながら歩いている内に自分の教室が見える。


 「…………」


 そして、予想通りと言ってはなんだが、その入り口には、明らかに敵意をこっちに向けた数人の生徒達が……


 「よう!鉾木ほこのき、随分とずるい手を使って昨日の討魔競争バトルラリーに優勝したんだってな」

 「なーんか、枸橘からたちの可愛いと知り合いだからって、良いところを見せようと無理したんでしょ?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて俺に絡んでくる男女数名。


 ……これだ

 

 本当に予想通りでウンザリする。


 「……」


 当然俺は無視をして教室に入ろうとした……が!


 「まてよ!鉾木ほこのき、てめえ調子にのってんじゃ……!」


 ーーちっ!


 俺は背後から肩を掴まれ、強引にそっちに引っ張られる。


 「…………」


 しかたない、一発二発、殴られて、適当に謝ってお帰り願おう……


 基本、事なかれ主義である俺がそう決め込んだ時だった。


 「やあ、ジュンジュン、調子はどうだい?僕は昨日の今日で、ちょっと筋肉痛だよ」


 ーー!

 

 そこに颯爽と現れる大男。


 爽やかな前髪をさらりと流し、キラキラとした仕草で挨拶する色男。


 ーー桐堂とうどう 威風いふう


 「ん、なんだい?キミたちは?……僕とジュンジュンに何か用でも?」


 「……い、いや……とくに……」


 高い位置から見下ろす桐堂とうどうの視線と、途端にそれから目をそらす男子生徒達。


 「キミ達も、僕はちょっとこの、”親友”たるジュンジュンと大切な話があるんだ、ハニー達の用件は後にしてくれるかな?」


 今度はキラリと光る眼差しで女生徒達に目配せする。


 「は、はい!……桐堂とうどうさん」


 明らかにびびっている男子生徒とは対照的に瞳がハートになっている女生徒達は、俺が色男の親友と知ったからか、そそくさと離れていく。


 ーーっていうか、親友?誰が?……俺も今知ったぞ。


 「……」


 そして、悪意から解放された俺は、無言で目の前のでくの坊を見上げていた。


 「そんな顔しないでくれよ、鉾木ほこのき、余計な事とは思ったんだけど、ここは友達として……」


 困ったように笑う男に、俺は、ぽんっと肩に手を置いた。


 「いや、助かった、悪かったな」


 俺は軽く礼を言って教室に入って行く。


 多少こそばゆいが、人の好意を邪険にするほど、俺も恩知らずじゃ無い。


 背後で桐堂とうどう 威風いふうなるお節介がフッと笑う気配がした。


 「じゃあ、ジュンジュン!次は放課後にでも」

 

 「だから、ジュンジュンいうなっ!」



 ーーー

 ーー

 ーカラーンカラーン


 放課後の鐘が鳴る。


 今日一日……

 なんとか無事に過ごした俺は、人の噂も七十五日……いや、四十九日だったか?


 ……まぁどちらでも良いか、学校の生徒達も、そのうちこの話題にも飽きるだろうと、俺は暫く大人しくしていようと考えていた。


 「おい、校門前に枸橘からたち女学院の女生徒がいるらしいぜ!」

 「マジか?滅茶苦茶、綺麗だって言ってたぞ!」


 そう言う男子生徒の声が、あちらこちらで聞こえ、我先にと外へ出て行く。


 「……」


 俺は鞄を持ったまま立ち止まり、小さく溜息を吐いていた。


 これだ……暫く目立たなくしていようと思った矢先に……

 ってか空気読めよ……羽咲うさぎ


 とは言うものの、放置するわけにも行かず、俺は重い足取りで校舎から出る。



 ーーざわざわ……


 「…………」


 少し距離を置いて、校門の辺り、野次馬による人だかりの……


 ーーあ、いたいた、って?……あれは……?


 校門前に立っていたのは、ひとりのポニーテールの少女。


 少し垂れ目気味の瞳と艶やかな唇が特徴の目鼻立ちのハッキリとした美人だ。


 薄い茶色のカールされた髪をトップで纏め、サイドに垂らしたポニーテールが、快活そうなその風貌によく似合っている。


 俺とそう変わらないくらいある背丈のスラリとしたモデル体型で、グレーのプリーツスカートからのぞく双脚は、美しい脚線美で上品な枸橘からたちの装いにも良く映えていた。


 「……えーーと……誰?」


 俺はてっきりその人物が羽咲うさぎとばかり思い込んでいたため、間抜けにポカンと口を開けていた。


 ーーいやいや、先入観というのは怖いものだ


 校門前に立つ美少女、さらにそれが枸橘からたち女学院の女子生徒となると……まあ、無理も無いといえば無理も無いが、結局の所、全くの人違いだったわけだ。


 若干肩すかしをくらった形だが、なんにしても変な苦労を背負い込まなくて済んだことは、なによりだ。


 「…………」


 俺はホッと一息吐くと、改めて帰ることにした。


 テクテクと歩き、校門から外に出ようとする俺。


 「……」


 すれ違い様、例の美少女の顔をチラリと見るが、やっぱりかなりの美形だ。


 ーーほんと、枸橘からたち女学院ってどんだけレベル高いんだ……


 そう思いながら俺は門から出……


 「みつけた!あなた鉾木ほこのきくんでしょ?、なに帰ろうとしてるのよ!」


 不意にすれ違ったばっかりの背後から見知らぬ女の声が響いた。


 「えっと……?」


 俺は立ち止まり、恐る恐る背後の、声のにを振り向く。


 「あなた、鉾木……盾也くんでしょ?」


 そこにはーー


 スラリとしたモデル体型で、枸橘からたち女学院の上品なシルエットのプリーツスカートからのぞく美しい脚線美が眩しすぎる美少女。


 「…………は?」


 薄い茶色のカールされた髪をトップで纏めたサイドポニーテールの快活そうな美少女が、こちらに、ニッコリと惜しみない笑顔を向けて立っていたのだった。


 第二十五話「校門前の美少女?」END

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