第20話「いっしょにお茶を?」

 第二十話「いっしょにお茶を?」


 「う……ん」


 頷きはしたが、何だかモヤモヤしたスッキリしない顔の羽咲うさぎだ。


 「えっと、本題に戻ろう、その人魂アウムが今回のターゲットということだが、弱いんだよな?」


 多分に無理矢理感の否めない俺の話題変更。

 だが、彼女が知らない以上、今、いくら考えても解決の仕様が無い。


 「う、うん……一応、下級の幻獣種げんじゅうしゅだし、兵士級ポーンクラスでも先ず後れを取るようなことはない相手だけど……」


 「けど?」


 「数がね……数が多いと少し手こずるかも?」


 発光する、いわゆる火の玉系の幻獣種げんじゅうしゅは数多存在する。

 それらを纏めてウィル・オ・ウィスプと呼ぶことが多いのだが、今回はその中でも、人魂アウムを競技の討伐対象とするとのこと。


 そしてその人魂アウムは、羽咲うさぎの話だと集団で発生することがあるらしい。


 「人魂アウムってたしか触れると精力を奪われるんだったか?」


 「ううん、そう勘違いされていることが多いけど、実際には毒ね、痺れるって言うか」


 羽咲うさぎは俺の持つ一般的な知識を軽く否定するよう頭を横に振る。


 「毒?……クラゲみたいなものか」


 「うーん、近いものがあるけど、もっと強力な……あれはいわば”呪い”のたぐいだから」

 「……」


 ーー”呪い”、なんだか一気に夏っぽくなってきたな……


 「えっとね、身体からだが一定時間動かなくなる呪い……とはいっても、効力はそれを受ける人間の精神力に左右されるから、平均以上の能力者なら人魂アウム程度の幻獣種げんじゅうしゅの”呪い”は少しくらい受けても支障はないでしょうね」


 「そうなのか……」


 相づちをうちながらも、”半端な能力者の俺ならどうだろう?”、”俺のシールド”は呪いのたぐいも防げるのだろうか?”と新たな疑問が沸いてくるのだった。


 「それより、わたし達は三人パーティーだし、えっと……”なんとか堂”くん?あのひとは騎士級シュヴァリエクラスなのでしょ?だったら、ルール上ハンデキャップが付くから、わたし達は四十体を退治してから以降でないと競技の討伐数にカウントされない、そっちの方が結構な問題だと思うわ」


「…………」


 そうだ、そうだった。討魔競争バトルラリーには、賞金、副賞目当てで、多くの参加者が集まる。

 そして集まる人間は、比較的高階級ランクの者から複数人のチームまで多種多様だ。


 だからこそ、不公平を無くすためにハンデキャップ制度がある。

 戦士ソルデア系なら騎士級シュヴァリエクラス以上の参加者にはプラス十体、人数が一人増えるごとにプラス十体。

 俺達の場合は、計四十体の人魂アウムを倒してから、初めて競技に参加と言うようなルールだ。


 競技エリアが臨海りんかい市内、時間制限三時間という制限がある中でのこのハンデは結構厳しい。


 「ある程度の実績というのがどのくらいかは解らんが……まぁ、やるだけやるしかないな」


 自身の留年脱出基準を、俺はまるで他人事のように言う。


 「なんか……盾也じゅんやくんって、そういうところ大雑把だよね……」


 呆れたように彼女が言った。


 「そうか?」


 「そうだよ、職人フォルジュ系の仕事にはあんなに真剣だし、わたしの事でも……あの……な、なんだかんだで結構……その……」


 途中からなんだか頬を染めて最後の方がごにょごにょとなる少女。


 「いや、どっちにしても腹ごしらえも済んだし、午後からは本番だ、やるしかないだろ」


 そう言って俺はレシートを持って立ち上がった。


 「……そうね」


 羽咲うさぎは少し消化不良気味の顔で立ち上がる。

 ……?まだ何か言いたいことがあったのだろうか?


 「ああ、そう言えば何か忘れてる気がするなぁ……なんか引っかかるが……ま、大したことじゃ無いだろう」


 「大したことだっ!!」


 俺と羽咲の会話に突然割り込んできたのは…………

 見覚えのある男……桐堂とうどうナニガシ


 「……お……おお」


 知らない間に俺の隣に見知ったでくの坊が立っていた。

 そして俺は今思い出した!今回の三人パーティーの一人は此奴こいつだったと!


 「ほ、鉾木ほこのき!クイーゼルさんとお茶するなら、なぜ僕を呼ばない!」


 挨拶も無しに泣きそうな顔で抗議してくる男。


 「呼ぶも何も……現地集合、現地解散って言ってあっただろ?」


 俺は昨日伝えていた情報を確認する。


 「ぼ、僕だけ現地集合、現地解散か?……僕だけ……」


 「…………」


 う……とくに考えてなかったが……なんか、この男の落ち込み様を見ていると、今更になって罪悪感がチクチクと……


 「いや、偶然だって、偶然!……たまたま羽咲うさぎと会ったから、そんで開幕までまだ時間があったんで先に腹ごしらえに付き合ってもらっただけだって」


 嘘だ……実際は羽咲うさぎが俺の家まで迎えに来た……


 いや、だって、そんなの俺も知らなかったし、その流れでここに来たわけだし、大体、ホントのこと言ったら余計ややこしそうだろ?


 「それだけか…………」


 恨めしそうなジト目で見てくる桐堂とうどう 威風いふう


 「あ、ああ、それだけ……」


 「あ、”どーどー”くん?、貴方もここで休憩?……そうだ、ここ、すっごく大きなパフェがあるのよ、盾也じゅんやくんと二人がかりでやっとだったんだから」


 変なタイミングで会話に介入する無神経羽咲おんな……


 ーーバカっ、空気読め!


 「…………」


 うっ!……ほらみろ、桐堂とうどうのやつ……情けない顔で固まっちまった。


 いや、俺は悪くないぞ、だいたい飯の前に無理矢理化け物級のパフェ食わされる身になってみろ!ある意味拷問だぞ……どーどーくんよ。


 「……」


 「あ、あれだ、桐堂とうどう、おまえを誘っても良かったんだがな……」


 「…………だが……なんだ?」


 落ち込みきっていた顔を上げ、桐堂とうどう 威風いふうはギロリと俺を睨む。


 「だが……そうすると、協力してもらう手前、おまえにも奢る必要があるだろ、誰が好きこのんで男に奢るかよ!」


 ーーおまえも忙しいだろうから、そこは控えたんだ。


 「大体、もともと俺が頼んだ訳じゃないしなぁ……」


 ーー経緯はどうあれ、感謝はしてるんだぜ!


 「……」


 「……」


何だか変な顔で俺を見つめる桐堂とうどう 威風いふう


 ーー変なヤツだな……


 「キミ……まさかとは思うが……考えていることと、口に出していることが逆になっていないか?」


 「……あ!」


 心底呆れた顔で俺を睨む桐堂とうどう


 「…………てへっ!」


 「巫山戯ふざけているのか!キミは!」


 俺の会心の笑顔、”ドジッちゃった、でもこの笑顔で許してね、てへっ!”が全く通用しない桐堂とうどう 威風いふうという面白いが面白みの無い男。


 「いや、だってなぁ、羽咲うさぎ……」


 俺はこの技の元祖使い手であり、師匠?でもある美少女を顧みた。


 「……っていない!放置かよ!」


 「く、クイーゼルさーーん!僕とも、僕ともブレークタイムを!」


 俺達が不毛なやり取りを続けている間に、プラチナブロンドの美少女は姿を消していた。

 っていうか、単に先に会場に向かったのだろう……冷たい……


 「…………」


 いや、確かに、時間には多少余裕があるものの、こんな無駄な事をしていても仕方が無い、俺も向かうか……


 「……ああ……クイーゼルさん……なぜ……」


 「…………」


 振り返った俺の目に入る男の姿。


 彼女の座っていた席に腰を下ろし、項垂れて小さくなる様は、普段の無駄に偉そうな態度と百九十センチを超える偉丈夫だけに何とも言えぬ寂しさを感じさせた。



 「……ほら、取りあえず茶でも飲むか?奢ってやるよ」


 何だかいたたまれない気持ちになった俺は自然とそう声をかけていた。


 「じゅ、ジュンジュン……」


 ーーだ・か・ら・ジュンジュンはやめろ、ジュンジュンは……


 そうして俺は、暫くの間、仕方なく桐堂とうどうと不毛なブレークタイムを過ごしたのだった……


 ーーうぷっ!……戦う前に、こんな喰って大丈夫か?……俺


 第二十話「いっしょにお茶を?」END

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