第19話「”うさぎ”の”ヨーコ”さん?」

 第十九話「”うさぎ”の”ヨーコ”さん?」


 「”季節のフルーツ盛り合わせ、桃のトーテムパフェ”!美味しかったね♯」


 正面のプラチナブロンドの美少女がニッコリと微笑んだ。


 「そうだな、甘かったな……」


 俺は、自身の口と皿を往復していたスプーンを、一旦止めて答える。


 「あ!この”ハニトー”も美味しそう?」


 翠玉石エメラルドの瞳を煌めかせ、”季節のおすすめメニュー”なる一枚物のメニューを手に取る美少女。


 「うん、それは甘いだろうな……」


 引き続き応える俺だが、既に右手に握ったスプーンの活動を再開させている。


 「……”本場印度のキーマカレー”ってのもあるよ」


 「それは辛いだろ……うん間違いない」


 ”はふっはふっ”とオムライスにかかる熱々の卵部分を口に運ぶ俺。


 「…………」


 はふはふっーーモグモグ……


 「…………盾也じゅんやくんって味覚乏しそうだよね……」


 羽咲うさぎは面白く無さそうに、白い頬を少し膨らませてそう言った。


 「失礼な!もぐもぐ……俺は、もぐもぐ……結構グルメ……もぐもぐもぐ……だぞ!」


 「もう、食べながら話さないでよ」


 ーーいや、食ってる俺に話しかけたのはそっちだろうが……我が儘お嬢様め!


 俺は目下、目の前の”キノコの彩りふわふわオムライス”という季節外れのメニューとの私闘でいそがしい!


 「なーんか、グルメって言ってる割に、パフェ食べてからオムライスって変だし……」


 拗ねたままの口調で俺のグルメ指数にいちゃもんをつけてくる不逞な美少女。


 「それは!お前が、”あ、たべたーい!ぜったい食べられるよ!”って阿呆みたいなテンションで豪語して、あんなバケモノみたいなパフェを注文して、”あ、やっぱりむりだぁー”って憎ら可愛くも巫山戯ふざけたことほざいたからだろうがっ!」


 「あ、怒った♯」


 過熱気味に正当な反論を試みる俺を眺めて、翠玉石エメラルドの瞳を細めた少女がコロコロと笑う。


 「怒らいでかっ!奢りだっていったら、これ見よがしに一番高いデザートたのみやがって!そんで残すってどういう了見だ、あ?どこか俺が間違ってるか、羽咲うさぎさんよぅ!」


 「……………………えへへ」


 うわっ!可愛らしい笑顔で誤魔化しやがった……くそ、最終兵器使いやがって……


 俺の目の前で微塵も悪びれず、微笑みを返す美少女……


 ちくしょうー!可愛いって言うのは凶悪極まりないな!……それも確信犯的なところがまた……くっ!……可愛かったりする……


 ここ最近、俺の煩悩脳スペックでは、羽咲うさぎほどの極上美少女には全く太刀打ちできない事を散々思い知らされてきた。


 「…………もぐもぐ」


 諦めの良いは俺は食事を再開し、それから話題を変えることにする。


 「……まあいい、それより、午後からの”討魔競争バトルラリー”のことだ、パンフもらって来たんだろ?」


 ”討魔競争バトルラリー”の詳細は毎年、当日のパンフレットで告知される。

 これはこのイベントの恒例になっていた。


 下級幻獣種げんじゅうしゅがターゲットになることと、参加資格、日時、場所、それ以外はほぼ当日まで秘密というのは、参加者全員が平等になるようにとの配慮らしいが、同時にイベントを盛りあげる意味もあるのだろう。


 「うん、これだよ」


 頷いたプラチナブロンドの美少女は、テーブルの上に一枚物のパンフを差し出した。


 「……なるほど、これが……」


 羽咲うさぎは午前中、一足先に会場に入り”それ”を入手してから俺の家まで迎えに来てくれた。

 考えてみれば感謝こそすれ、怒るのはちょっとだけ大人げなかったのかもしれない。


 ーーもぐもぐ


 そうだ……たとえ飯の前に、彼女が早々に敗北した”超甘甘特大パフェキング・オブ・ザ・スウィーツ”をほぼ全部食べさせられたのだとしても……


 ーーもぐもぐ……


 ”そうだな、そういうふうに考えれば”と俺は自身を納得させながら引き続き昼食を……


 「盾也じゅんやくんって見かけによらずよく食べるよね」


 ーー!


 「おー・まー・ふぇ・はぁーー!!」


 「きゃっ!だから食べながらしゃべらないでって!」


 ーー

 ー


 「…………」


 なんて不毛な事に時間を費やしている場合じゃ無い。



 兎に角、俺達は、ファミレスの机の上に広げられたパンフレットを前に簡単な対策会議をする事にした。


 「……ウィル・オ・ウィスプの退治?ウィル・オ・ウィスプってあの?」


 俺はパンフレットの討伐対象の欄に目を通し、その後、正面に座る少女を見る。


 「ええっと正確には、っていうか今回の討伐対象はウィル・オ・ウィスプの中でも”人魂アウム”の事ね」


 俺の質問に、アイスティーの氷をカラカラとストローで混ぜながら、羽咲うさぎはそう補足した。


 「…………」


 遅ればせながら、プラチナブロンドが眩しい彼女の今日のコーデは、白くて華奢な肩がざっくりとみえるオフショルダータイプのトップスと、フリルのついたショートパンツ。


 ーー可愛らしくも大胆なファッションだ


 「?」


 正面に座る彼女をじっと凝視しすぎた為か、少し大胆かつプリティーな美少女は小首をかしげて俺を見た。


 「ああ、うん……おほんっ!……あうむ……”人魂アウム”ね……」


 スッとペラペラの紙に視線を戻し誤魔化す俺。


 「わたし的には”イルリヒト”って言われた方がピンとくるのだけど」


 そんな俺を気にもとめず、プラチナブロンドの美少女はそう言って口元を綻ばせる。


 ーー羽咲わたし的には”イルリヒト”……ね


 対幻想種技能別職種エシェックカテゴリに始まり、戦士ソルデア魔導士ソルシエール職人フォルジュ、はては、その階級の、兵士級ポーンクラス騎士級シュヴァリエクラスなどなど、この業界の名称はフィラシス語で表現されることが多い。


 それは、十一世紀頃、人類最初の能力者といわれるシモン・アルノード・コリニーなる人物が、フィラシス公国の人間であったこと。

 それ以降、対幻想種技能別職種エシェックカテゴリを管理する国際的な組織本部”協会ソシエテ”がそこにあることが大きい。


 だが、一説には人類最初の能力者は、フィラシス公国隣国のファンデンベルグ帝国人、ゲオルク・フォン・クルーゲという見解もあるのだが……


 どちらにしても、彼女の母国であるファンデンベルグ帝国には面白くないことだろう。


 「……今回は大会本部でもそう呼ぶみたいだし、”人魂アウム”で統一した方がわかりやすそうね」


 「ああ……そうだな」


 人魂アウム……フィラシスでは”アウム”

 ファンデンベルグでは”イルリヒト”……か、じゃあ、日本ではどうだろう?


 人魂ひとだまという呼ばれ方の他には、鬼火おにび陰火いんか……


 そういえば、狐火きつねびともいうな。


 「…………」


 俺は目の前に座る、相変わらずキュートな容姿の少女をマジマジと見ていた。


 「?……なに?」


 「いや、そう言えば、羽咲うさぎはファンデンベルグ人だけど、ファーストネームはどう見ても日本語名だよな?漢字もあるし……」


 人魂アウムの各国名称に思考を巡らせていた為か、今更だがクォーターであるという美少女の些細なことが気に掛かる俺。


 「ああ、そのこと」


 彼女は両手に持っていたアイスティーのコップを一旦置いて、こちらを見る。


 「わたしはね、祖母も母も日本人で、わたし自身はファンデンベルグ国籍、つまり母国では四分の一クウォーターのファンデンベルグ血統のファンデンベルグ人ってこと、血統的には四分の三が日本人なんだよね」


 おお、クウォーターってそういうことか……つい、日本ベースで考えてしまうから何だか勘違いしていたな……


 「それに別に”羽咲うさぎ”だけじゃないよ、わたしの母は日本人で、祖母も日本人、”羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼル”のヨーコは祖母のファーストネームで、わたしはそこからその名をもらったのよ」


 「えっと……?」


 なんだかややこしくなってきたな……


 羽咲うさぎはファンデンベルグ人。

 彼女のファーストネームの”羽咲うさぎ”にしたって本来はむこうの表記だろうし、ただ親しみやすさとかそんな感じで日本ではそう表記しているのだろうか?


 「えっとね、”羽咲うさぎ”はファーストネームで、セカンドファーストネームが”ヨーコ”になるんだけど……日本には無い習慣だから、解りにくいかな?」


 「……まあな……で、そのお祖母さん、ヨーコさんは、もともと、どんな漢字を書くんだ?」


 俺はそこまで詳細に知りたいわけでも無かったが、なんとなく会話の流れで何となく聞いていた。


 「……」


 可愛らしく翠玉石エメラルドの瞳をぱちくりさせる少女。


 「え……と、羽咲うさぎ?」


 そんなに難しい質問をしたか、俺?


 「……あれ?……あれ?……そう言えば、わたし聞いたこと無いわ……その事、自分の祖母の名前で、わたしの名前でもあるのに……」


 「……いや、これは俺が悪かったよ、ヨーコそっちの方は別に今は漢字を使ってないんだから、気にすることでも無いよな」


 何だか必要以上に引っかかっている彼女、ちょっと変な空気になるのを俺は誤魔化すようにフォローしていた。


 第十九話「”うさぎ”の”ヨーコ”さん?」END

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