58. ペンを探す旅─ぺん、なあい─
「きゃきゃー」
─わたしはまだこの時、思ってもいなかった。
「ぺん、なあい」
「本当だ、ないねぇ」
─これが長期戦のゴングとなることを。
…我が家は賃貸住まいのため、クレヨンは買やず、消ゴムできれいに消える色鉛筆と、マグネットのお絵描きボードがある。これらがちいちゃんのお絵描きのお供だ。とくにマグネットボードは、描いたものをすぐに消せるところが良いらしく、何度も消しては描いて嬉しそうに見せてくれる。
しかしそのボード用のマグネットペンが行方不明なのだ。
「あれー?」
「あえー?あええええ?」
おもちゃ箱にも、マグネットボードのケースにも、色鉛筆にも交ざってない。テーブルの上下、ブランケットの下、テレビの裏まで調べても、まだ見つからない。
「ないねー…呼んでみよっか、ペン、どこー?」
「ぺん、んっくー?」
まぁ、どうせキッチンの角とか、レンジ台の隙間とかにあるでしょ。たかをくくって探したものの、キッチンにも見当たらない。
「あれ?本当にどこ?ないなぁ…」
「なぁい、ぺん、なぁい」
その後、洗面台や廊下、玄関、一応トイレ、寝室、洗濯物の干された除湿器部屋も確認したが見当たらない。
「あれー…本当にどこに行ったんだろ?」
可能性として高いリビングダイニングのテーブル付近やおもちゃ棚を入念に調べるが全く気配がない。
「嘘でしょ…こんな狭い賃貸で無くした…?」
「ぺん、なあい」
……いや待てよ。さっき掃除機掛けたとき、なんかすごい音で吸い込んだものがあったな。全然見てなかったし、ちゃんと吸引されたから大丈夫だろうと放っておいたけど…まさかペンだった!?
掃除機を開けて解体してみるともりもりのゴミたち…。しっかり確認したが、やはりない。
「うそでしょ…あれ無いと描けないのに…パーツ売りなんてしてないよ」
「きゃきゃ、なあい、ぺんぺん、なあい」
「ね…ほんとどこいったん…」
愕然としつつ掃除機を片付けていると、洗濯部屋の扉が開けっぱなしだったことを思い出した。除湿器にちゃんと仕事をしてもらうためには閉めてこねば。喪失感に苛まれながら扉を閉めにいくと、なにやらその部屋では見ることのない、やけに明るい色の細長い何かが視界の端に写った。
「あ、あったー!!!ちいちゃーん、あったよお!ペンあったー!」
ドチドチドチドチ、と懸命に走ってくるちいちゃんにマグネットペンを掲げる。
「ペンあったよ~!」
「ぺん、った~」
……こうしてマグネットペンは無事、ちいちゃんの手の中に収まりましたとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます