5. 10連休が明けまして
史上最長の10日間のゴールデンウィークは、夫の風邪が娘に移り、何もせぬままに終わりを告げた。そんなゴールデンウィーク最終日の夜のこと…
「げぇほっ、ごほっ、うぇ、うえぇぇ~……」
「ちいちゃん大丈夫?苦しいね、いいこいいこ」
鼻水が喉の方に流れうまく寝付けない娘は、嗚咽し吐き戻し、かれこれ寝かしつけから2時間が経過していた。
「どうしよう…熱はないし、鼻さえどうにかなれば寝られるはずなのに…」
ちいちゃんは昨年、突発性湿疹を筆頭に年末まで毎月風邪を引いて熱を出していたのだが、あのときはだっこをして寝かしていた。抱っこひもでも寝かしつけが定番だった頃のはなしで、娘もそれが安心できたのだ。
その後、風邪パレードを脱出、年を越し、添い寝寝かしつけに切り替えていたため、だっこで寝かしつけを拒むようになってしまった。
「大丈夫だよ、だっこしてれば喉に鼻水いくの少ないからね」
「びゃあああああ!んあああー!うっ、げほっ、ゴホゴホゴホ、うっ、う………うあー……」
どうしよう、夫は明日から仕事で6時に出勤していくし、すこしでも寝てもらいたい……。
同室にいる夫は心配そうに娘を見つけている。
「ごめん、ちょっとちいちゃん連れてドライブしてくる。気分転換になるし、振動で寝てくれるかも」
最近のちいちゃんはすこしでも疲れていれば車ですぐに寝てしまっていた。もしかしたら、と思ったのである。
身支度をし、玄関に行くと、夫が寝室から出てきた。
大泣きをしていたちいちゃんも、だっこに少し慣れ、鼻が喉にいかなくなったからか、落ち着き始めていた。
「どうしたの?いってくるね、すこしでも寝てね」
「…………」
「どうしたの?」
夫の顔は今にも泣き出しそうだった。
「悲しいの?」
「…だって、こんな夜に、二人でどっか行って、ちいちゃん泣いてて、かわいそうで、なにもできなくて……」
その言葉にぎゅっと胸が締め付けられた。
わたしだって、まだよく知らない街で夜に外になんて繰り出したくない。
それでも、全員が苦しみ続けるより、誰かひとりでも助かる方がいいと思った。
わたしまで泣きそうな顔になっていたと思う。
「大丈夫、泣かないで」
夫の頭を撫で、ふと、娘がまったく泣かなくなったことを思いだし、そっと顔を覗きこんだ。
「………寝てる」
───翌日、もちろんわたしたちは眠くてだるい朝を迎えた。
それでも、隣で気持ち良さそうにまだ寝ている我が子を見て、夜中に何回も泣いて起こされたことも忘れ、なぜかほっとした気持ちになった。
「昨日、まさか泣くとは思わなかったよ」
ハムエッグがジューッといい音をたてパチパチを油が跳ねる。我が家の手抜き朝食だ。
「そうだね」
あのあと、お布団に下ろした娘の隣で二人で泣いた。
わたしは久しぶりの娘の風邪と夫の風邪でゴールデンウィークにたまった疲れとストレスで、夫は初めて経験する風邪を引いた娘との夜のストレスで、爆発した。
あんなの序の口だよ、もっとひどいこと何回もあった。
と、味噌汁を作りながら夫と自分に言い聞かせた。
「おつかれさま」
味噌汁が疲れたからだに染み渡った朝だった。
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