第80話 怒りが爆発する前に





「んっんっんー!」


「こーら、ちいちゃん、食べないならもうごちそうさましよー」



 今日は困ったことに、大好きな子供番組の時間にごはんになってしまった。もちろん、寝坊したわたしが悪いのだが、こうなるとちいちゃんはごはんをほぼ食べない。



『みんなー、げんきー?』


「んっ、んっ」



 ベビーフォークをテレビに向かってぶんぶんと元気に動かしている。こちらに戻ってくる気配はない。



「もう~」


 しかたなく自分の食べた食器を重ね「もうごちそうさましちゃうからね~」と立ち上がる。


 シンクで水に浸し、麦茶を注いで食卓へ戻ると、離乳食の前にちいちゃんが戻ってきていた。


 え、子供番組だよね!?


 番組は変わらず人気子供番組。……ちいちゃんがごはんに戻ってくるとは。



「ちいちゃんごはん食べるの?」


 じーっと見つめるだけで食べる様子はないけど、無理に食べさせると嫌がるのでこちらも見つめる。


「ん」


 持っていたフォークをお茶碗に入れる。そしてそのお茶碗を、まだおかずの残っている平皿の上に重ねた。


「んー!」


 パチン!と音をたてて食器の前で小さなてのひらが合わさる。



「うおおおおー!ちいちゃんごちそうさまできるのかー!天才だー!」



 母は感動で怒りを忘れ、いろいろ許しがちである。

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