第97頁目 暗闇の中のロマンス?
「か、敵討ちでしょうか……!?」
「だろうな!」
「すっごい数!?」
『キュウィ! キュイイィ!』
「ローイス、オリビエ、セクト! 皆頑張って!」
雪煙を巻き上げて疾走してくるゴリラの大群。15匹くらいはいるな……。
「どうしましょうか。」
「冷静か!?」
「こういう時こそ冷静にですよ。ミィさんなら全員仕留められるのでは?」
「簡単だろうけど……一匹殺しただけでこれだけの数が報復に来たんだよ?」
「数が更に増えたら守りきれないリスクもあると……。」
「うん。」
『ビシュゥンッ!』
俺達を守る為かファイが光球を発射する。しかし、それを身軽に躱すゴリラ達。まだ距離があるから避けられるのか。でもわざと距離を詰めたらあの数を対処しきれないかもしれないし……。
「ファイ! 今は牽制だけにしておいてくれ! 殺したら厄介かもしれない!」
『チキッ!』
理解してくれたんだよな? 徐々にゴリラとの距離は狭まってきている。殺さない。逃げ切る。どうすりゃいい?
「気合か!?」
「気合ですか?」
「気合でどうにかなるの?」
咄嗟に浮かんだ馬鹿みたいな方法。ミィやマレフィムは怪訝な様子だが、他に手が浮かばない。
「俺はバカだからよぉ! 心の中に思ったことをする!」
「ど、どうする気なんです!?」
「セクトォ! お前ならもっとイケる! 気合だ!」
「えぇ!?」
驚くルウィアを無視して俺はゴリラの方を向き喉に力を込める。
――やるぜ。
「気合だああああああああああああああああああッッッッッ!!!」
「わっ!?」
「うるさっ!?」
「くぅ!?」
俺の魂のシャウトに耳を塞ぐルウィア達。だが、煩いだけじゃない。この踏ん張り時っていう局面が伝わった……! はずだ……!
ん……?
ゴリラ達が足を止めている? もしかして日和ったか?
『キュアアアアアッ!!! キュアッ! キュウアアアッ!!!』
走りながら吠えるセクト。なんだか何かが通じ合えた気がする……多分。
『キュオッ! キュウウッ! キュアアッ!!』
『キュウッ!! キュッ! キュアウッ!!!』
セクトの咆哮はローイスやオリビエにも伝播していく。そして …… 間違いなく加速しているぞ!
「す、凄い! 本当に速くなりましたよ!」
「言ったろルウィア! 気合だってな!」
『『『ルオアアアアアアアアッッッッ!!!!!』』』
「うわあああっ!」
「狼狽えんな! ただ叫んでるだけだ! まだ距離だってある!」
「で、でもぉっ!!」
ゴリラ達は再びこの引き車を追いかけてきていた。少し間は開いたけど……そうだ!
「ミィ! 霧だ! 霧を起こしてくれ!」
「ここは気温が低すぎて大規模なのは無理かも。」
「じゃあ、引き車のすぐ後ろを爆発させて牽制だ!」
「それなら出来る。」
「頼んだ!」
「うん。アメリも手伝って。出来るよね?」
「勿論です!」
「引き車との距離は考えてくれよ?」
「わかってる!」
「わかってます!」
直後、引き車の後方数メートル後ろの地面、いや、雪が爆ぜる。幾度も、幾度も、幾度も。吹き飛ぶ雪塊を見た感じ、ここは結構硬い雪みたいだ。あれじゃあまり目眩ましにならないけど無いよりマシだろう……。
「頼むぞ! 逃げ切ったらご褒美やるからなぁ!」
その言葉の意味がエカゴット達に通じると信じて。
*****
「はぁ……今日は疲れました……精神損傷にならない程度には抑えられたと思うんですけど……。」
「アメリさん、お疲れ様。私ももっと魔力があれば手伝えたんだけど……。」
『チキッ。』
「殺せないっていうのは難しいね。自分の無力さを痛感するよ。」
「ミィ様がそんな事言ったら私達の立つ瀬がないじゃないですかー。」
女子達とファイが姦しく今日の愚痴を漏らしている。そこから少し離れて休んでいる俺は仰向けでぶっ倒れているルウィアを指で突付く。
「……なんですか。」
「大変だったな。」
「……本当ですよ。」
「今日はゆっくり休め。多分この洞窟が見つかったのはご褒美かなんかだ。」
「……外が吹雪な時点でご褒美でもなんでもないですよ。」
「吹雪に襲われて洞窟も見付からなかったら更に最悪だろうが。」
「……そうですけど。ここって安全なんです?」
「何かあったら守るって言ったろ。」
「……。」
*****
俺達はゴリラに追われつつもセクト達やミィ達の働きによってなんとか逃げ続けられていた。しかし、雲行きが怪しくなり、雪が降り始める。ゴリラを振り切るには好都合だったが、段々と風まで強くなり……次第に雪の降る軌跡が倒れていき……。
「アロゥロ! もっと近くに!」
「うん! ソーゴさん達は大丈夫!?」
「なんとかな! アメリも無事だ! それよりベス達の足音が遠ざかってるぞ!」
「そ、それは嬉しいですけど……!」
マレフィムを毛皮の内側に入れた上で俺が覆いかぶさって風除けになる。幾ら魔法が使えるとはいえ、少しでも離れたらこの引き車を見失いかけないだろう。
「進む方向はあってるんだろうな!?」
「わ、わかんないですよ!」
「雪でも掘るか!?」
「それがいいかなぁ!」
最早投げやりかどうかもわからないアロゥロの叫び。しかし、何もせずこの吹雪の中休める訳がない。下手したらセクト達が先に死んじまう!
「ちょっと待ってて!」
「ミィ!?」
ミィはそう叫ぶと雪に降り立ち見る見る間に雪を取り込んで身体を大きくしていった。吹雪の中、佇む巨人の人影。まるでデイダラボッチだ。
「み、皆! と、止まって!」
「ミィ様……凄い……!」
ルウィアはすぐに引き車を止めて、後ろに佇む透明の巨人を見上げた。ミィは何をする気なんだ? なんて思った側から巨人は凍りついていく。
「なっ!? おい! ミィ!!」
幾ら何でもおかしい。あんなスピードで水が凍っていくもんなのか? しかも、いきなりだぞ?
「お待たせ。」
「ミィ!? え!?」
「ええ!? あの大っきいのがミィ様じゃないの!?」
「アレは私だった物。もう分離したからただの大きい氷柱だよ。それより、ルウィア! 向こうに崖があった! せめてあっちに寄ろう!」
「わ、わかりました! ローイス、オリビエ、セクト! もう少しだけ頑張って……!」
バラ鞭の音が吹雪にかき消される。心なしかエカゴットの動きも鈍い……。
「凄い速度で凍ってったから驚いたぞ!」
「だってあれを水として分解したらみんな飲まれて凍っちゃうから仕方ないじゃん。」
「あぁ……なるほどな。」
「み、見えました! 崖です!」
ルウィアの言う通り、前方には横を向いた氷柱が何本もしがみつく絶壁がどっしりと構えていた……あんな氷柱塗れの壁に近づいて大丈夫なんだろうか……。
「ソーゴさん! 私が横穴を掘るから魔力を貸して!」
「お、おう!」
そうか! その手があったか!
*****
「アロウロが掘ろうとした場所の側でこんな大きい亀裂を見付けられたのですから助かりましたよ。」
「偶々とはいえ本当に幸運だよな。あの吹雪の中作業なんかしてたらアストラルまで凍っちまうよ。」
「……ですね。横穴を掘らなかった今でさえもうヘトヘトなんですから。」
風が岩にぶつかり砕ける音がなんとも寂しい雰囲気を演出する。明かりは殆ど無い。燃やせる物が無いからだ。今はただ干し肉を齧って時を待つ。幸い、身体の温度はミィの分離体が調節してくれているから問題ない。このまま眠ればいつの間にか吹雪が止んでると良いんだけどな……。
「やることもねえし寝るか。」
「……ですね。」
「ルウィアは私と寝る?」
「あ、アロゥロ!?」
急に側に来ていたアロゥロがとんでもない事を言い出す。月明かりも差し込まない天気だ。今なら何も見えない……!
「ってアホか! からかうのはルウィアだけにしろ!」
「そうですよ。はしたない。」
「アロゥロは大胆だね。」
『チキュゥゥン……。』
マレフィム、ミィ、ファイも此方へ来たようだ。……どんだけ暗くても俺には熱源の動きがわかるからな? 耳も良いんだからな? い、いい、いやらしい事は是非……遠すぎず近すぎない所でやってほしいもんだな?
「ソーゴに悪影響だけは出さないようにね。」
「わかってますって。ね?」
「な、何がですか!」
「ふふっ。でも本当にこのまま起きてても疲れるだけだし、もう寝ようか。ミィ様……この奥には何にも居ないんですよね?」
「うん。いなかったよ。一応見張るけどね。」
「助かります!」
アロゥロはもう結構ミィに慣れたみたいだなぁ。ずっと様付けをヤメないけどミィはもう諦めてるみたいだ。
「アメリは身体冷えてないか?」
「えぇ、ミィさんのお陰様で問題ございません。それに、ミザリーおば様から頂いたこの服は本当に温かいんです。」
「確かに、隠れてる部分は温かいんだけどさ……。」
「あはは……ま、まぁ、露出してる部分は仕方ありませんよ。でも、本当に素晴らしい出来の服ですよねぇ。今のお二人は正に貴族と間違われてもおかしくありません。ですよね? アロゥロ。」
「うん。すっごく綺麗。特にアメリさんのドレスなんて初めて見た時びっくりしちゃった。今から何処に行く気なんだろうって思ったくらい。」
「あ、ありがとうございます……。」
顔色までは伺えないが、その声は微かな喜色を帯びている。俺は服を着るのなんて何年ぶりだよって感じだ。前世でもオシャレに気を使ってなかったからなぁ……。ってか今着てる服は前世と勝手が違い過ぎてマトモに着る方法がわからないし、なんなら今正しく着られているのかも自信がない。自信の無い俺と堂々とした服。これじゃ服を着てるというより服が俺を着てるみたいじゃねえか。
「ぼ、僕もミザリーさんに服を仕立てて貰いたいなぁ……。」
「そのためには商談を成功させないとな。」
「まず服を褒めるならよく見える時に褒めてあげなよ。それに、『穴の底から海は見えない』でしょ。」
「『穴の底から』……?」
「良いから!」
暗にもう寝ろと示すミィ。
「私がここの気温調整しとくから、もう……!」
引き車さえ入る事の出来た大きい洞窟だ。外の冷たい空気は完全に遮断する事なんて出来ない。だからこそミィは俺達を守ってくれる。こうして考えるとミィを秘密にして旅なんて最初から不可能だったんじゃないか?
「ありがとな。」
俺の感謝の言葉を皮切りに全員がミィへ礼を言ってそれぞれ眠りに就く。ほんのりと温かく、しっとりとした空気で満ちた不思議なこの洞窟内は、とても心地よく俺達を夢の先へと……
「あ、アロゥロ!? 本当にぼ、僕と……!?」
「(静かに!)」
「寝ろ!!!」
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