東へ
「隊長、本当に戦いは終わったんでしょうか。いまから大規模な会戦ということはありませんか」
並んで進むツベヒが、心配そうに問いかけてくる。
「まだ戦いが終わっていないとしても、私たちにできることはあまりないよ。敵の後方を
「それより、ルスラトガの部隊はどこに消えたんでしょうか。いくら静かに行動していたとしても、街道を通ったのであれば、寝ずの番をしていた誰かが見つけたでしょうに」
「町の南に脇街道があるから、そちらを通ったのかもしれないな。
なぜ、わざわざ脇街道を進んだのか。本隊と合流するなら、私たちの進んできた街道を行くのが普通だろう。前線に近いという意味では、南を通る脇街道を選ぶ意味もあるが、現状では情報が不足しすぎている。
「案外、街道沿いに進むと国王の軍隊と出会っちまうから、こそこそ逃げだしたんじゃないか」
後ろからイングが大声で茶々を入れた。
「油断するな、イング。破れかぶれの敵ほど恐ろしい相手はいないぞ。本当に逃げ出したのであれば、逃げるついでに町を襲ったりするかもしれない。武装が整った正規兵は、賊になると手強いからな」
小部隊に別れた兵力を完全に鎮圧するのが難しいのは、私たちが体現していた。
「この後はどうするんだ、親父」
「まずはガビエの町に向かう。戦争に関する情報が、なにか届いているかもしれないからな。ガビエの町に情報がなければ、さらに東へ向かう」
もし、国王派であるタルカ将軍が敗北していれば、私たちはどうするべきだろうか。このまま西方に逃げ出し、ハーラントのキンネク族とともに暮らしてもいいかもしれない。約束した羊に代わるものを用意しないと、ナユーム族に殺されるかもしれないが。逆にギュッヒン侯が敗北していれば、どうなるのか。戦いの結果次第では、北方のギュッヒン侯の領土へ攻め込む戦いが続くのかもしれない。
急いでも、ガビエの町に着くのは日が暮れてからだろう。今日は天幕を張り、三交代でゆっくり休息を取ろう。
敵は姿をあらわさず、翌朝、私たちは東へ進んだ。
アコスタたちには、久しぶりに胸甲や
一刻ほど街道沿いに進むと、すぐにガビエの町が見えてくる。
どうするべきなのだろうか。私たちを目撃した騎手が、あらかじめこの町に情報を伝えているかもしれない。だが、この町には敵を防ぐための柵も、土を掘ってつくった壕もない。兵隊がいるなら遊ばせているのももったいないので、防御陣地くらいはつくるだろう。恐れなければならないのは、建物の影から使われる弓と槍だけだ。
「シルヴィオ君。風魔術で矢を散らすことはできるか」
馬車の御者席にいるシルヴィオは首をひねった。
「矢を少しだけそらすくらいならできますが、近いと無理ですね」
「かまわない。町の方へ私の声がより届くように、後ろから前に向かって風を吹かせてほしい」
体の震えはなく、敵の殺意は感じられない。久しぶりに、隊長らしい事でもやってみよう。大きく息を吸い込んで怒鳴った。
「騎兵隊整列! 重騎兵は前へ。横隊をつくれ! 残りは重騎兵の後ろに回れ」
これだけの大声だ、町の中まで響き渡ったはずだ。
「前進!」
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