ライドスが、私たちの目標とするべきだと提言したウォルシーという町は、ギュッヒン侯の領地と前線をつなぐ交通の要所である。町の規模そのものは小さく、フェイルの町などと同じように人口五百人程度に過ぎない。旧街道と近隣の村へ向かう道が交差して場所ではあるが、にらみ合う王の軍隊とギュッヒン侯の前線が、この忘れられた小さな町を補給拠点として表舞台に引き出したといえる。拠点といっても城塞もなく、戦線の背後をつかれるようなヘマをギュッヒン侯が許すわけはないので、防衛する兵士もそれほどいないだろうというのが、ライドスの考えであった。

 「ツベヒ君、ジンベジ君、シルヴィオ君、イング君、そしてライドス君。今後の私たちの方針について、ここで決めておきたいと思う。かまわないかな」

 守備隊の使っていた天幕の中に士官補佐に任じた五名を集めて、今後の方針を決める会議を開くことにしたのだ。この天幕はそのままにしていくので、他の兵士たちのように撤収作業が必要ないということもある。

 ライドスが手紙用の紙に書いた地図を、にかわでつなぎ合わせ、大きな一枚の地図としたものを広げ、北東の町を指さしながら全員に問いかける。

 「当面の目的地はウォルシーという町だ。ウォルシーには、ギュッヒン侯の補給物資が山積みされていると思われる。最大の効果を得るには、ここから十五日ほどかけて町や村を避けながらウォルシーに奇襲をかけることだ」

 ライドスは自分の提案が認められたことで、嬉しそうな顔をしている。

 「親父がそう決めたなら、それでいいんじゃねえか」

 イングが面白くなさそうにつぶやいた。

 「イング君、もしこの戦いに私たちが勝利すれば、君も士官になるんだぞ。拳を使う前に頭を使うことも覚えてくれ」

 首をすくめるイングの横から、ツベヒが発言を求めた。

 「補給なしに十五日は無理じゃないでしょうか。ナユーム族は替馬をたくさん連れていますから、いざとなれば馬を食料にできるでしょう。しかし、キンネク族は私たちと同じだと思います」

 「そうだな、ツベヒ君。ろくに食わずに十五日は辛いだろうな」

 「だったら、この町から徴発すればいいんじゃありませんか」

 シルヴィオの意見はもっともだ。無駄な兵力の消耗を防ぐという意味でも的を射ている。しかし、負傷者を託す後送地として、将来の拠点としてフェイルの町を活用したいという考えもある。

 「わたくしの個人的な意見ですが、この周辺でもう一戦おこなう必要があるのではないでしょうか」

 ライドスに視線が集まる。

 「フェイルの町への攻撃は、ギュッヒン侯側から鬼角族が近隣の町を襲撃したとしか認識されないかもしれません。我々の目的が敵を攪乱し、騎兵部隊を引き付けるものであるならば、もう少し東にある敵の拠点を攻撃して鬼角族が東に進撃しているという印象を与える必要があります」

 たしかに、フェイルの町を攻撃しただけでは、拠点を防衛する為に西方軍団の生き残りの槍兵を送ってくるのが関の山かもしれない。タルカ将軍の望みが、国王派が初戦で失い、近くきたる決戦の時に戦局を左右するであろう敵騎兵戦力を後方に引き付けることならば、私たちは目的を達していないことになる。

 その時、ライドスが地図の上の一点を指さす。

 「ここを攻撃すれば、敵は無視することができなくなるでしょう」

 町の名前はルスラトガ。低いながらも城壁を備えた城塞都市。

 騎兵は野戦でこそ敵なしだが、攻城戦ではまるで役に立たないものだ。しかし、この城塞都市に被害を与えることができれば、ギュッヒン侯も私たちを無視することはできなくなるだろう。

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