集結

 ナユーム族の戦士たちから、またどよめきが起こる。

 しかし、今度は騒めきの中に、激しい怒りが混じっていることは容易に感じることができた。

 調子に乗りすぎたか。

 そう判断し、すぐに倒れている鬼角族に駆け寄る。うつ伏せに倒れた男の脇の下に手を入れ、仰向けにし、状態をみる。両耳から少し出血していたので、耳の後ろの骨を確認するが、砕けたりはしていないようだ。

 「大丈夫だ。しばらく寝かせていれば、すぐに気がつく」

 ハーラントが、すぐに私のことばをナユーム族に伝えた。

 「私たちは二千五百人の敵にできなかった。しかし、私のもとには、イングをはじめとする一騎当千の部下たちがいます。キンネク族のみなさんと協力し、敵を追い返したのは本当のことです」

 ナユーム族が信じたかどうかはわからない。しかし、これで私たちを侮ることはないだろう。戦士たちと対等になるためには、自分たちも戦士であることを証明するしかない。

 ふと気がつくと、さきほどからナユーム族の視線がなぜか私に集まっている。

 「ハーラントさん、なんでナユーム族の人たちはこちらを見ているんだ」

 肉ダルマのような族長が笑う。

 「お前は、このイングという男を瞬きする間に倒すっていった。ここにいる連中は、なによりも強い男に敬意を払うんだ」

 褒めてもらうのはいいが、今の私では素手での戦いでイングに勝てない。しかし、敬意を払われることは、あなどられるよりはいい。軽く手を振ると、倒れたキンネク族を介抱することにする。

 喧嘩でひどく殴られたキンネク族の戦士は右腕が折れており、とても戦闘に参加できる状態ではなかった。イングが両こぶしで耳を強打したナユーム族の戦士も、立つと目がくらむといって戦闘に参加できそうにない。つまらない喧嘩で、私たちは二人の兵士を失ったわけだ。ハーラントに頼んで、二度と喧嘩がおきないようにエナリクスに頼んだこともあり、その後は特に問題なく旅は続いた。


 きっかり十二日。

 キンネク族が秋まで使っていた拠点に、私たちは到着した。

 この場所にはギュッヒン侯の末っ子が陣地を構築していたので、水飲み場を中心とした円形の壕と土塁がそのまま残っており、雪で白く染まって独特の威容を誇っていた。

 「ハーラントさん、ここでルビアレナ村に行った兵士たちを待ちます。ケガをしたキンネク族の人と、もう一人を冬営地に送って、ここまで騎兵を連れてきてもらってください。ここに集結し、東方へ向かいます」

 十日あれば、予定していた兵士がすべて揃うだろう。ナユーム族の騎兵百。キンネク族の騎兵六十。鎧を着ただけの重騎兵もどき十。人間の軽騎兵十。合計百八十騎に、士官として扱っているツベヒやジンベジ達。これが現状での全兵力になる。戦場で叩くには足りないが、後方かく乱や、補給拠点の焼き討ちには十分だろう。タルカ将軍との約束に十分間に合うはずだ。

 「おい、ローハン。エナリクスがききたいことがあるそうだぞ」

 思索はハーラントにより打ち破られた。

 「ああ、かまわないですよ。それで、ききたいこととはなんですか」

 いつの間にかハーラントの隣にいた、エナリクスに気がついて、そちらに顔を向ける。

 「このあたりは、なぜこんなに地面を掘り返しているのか。こんなことになにか意味があるのか、ということが知りたいらしいぞ」

 ハーラントが通詞つうじとなって、私たちの会話を取りついでくれる。

 「ここは、攻め込んできた敵が私たちと戦うためにつくった防御陣地です。穴を掘り、土を盛り上げているのは、馬による突撃を防いでいるのです。中心に向かって、真っすぐに進めないのがわかるでしょう」

 エナリクスは、陣地を興味深く眺めていた。ナユーム族に軍事知識を与えることには問題があるかもしれないが、どのみち戦場で目にすることになるはずだ。

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