嫌がらせ
一兵士として軍へ入隊した私は、実戦になると体がすくんで動かなくなり、臆病者で軍規違反を犯したとして営倉に入れられることになった。戦場でのあまりにも極端な変化を
「お久しぶりです、タルカ将軍。士官学校以来でしょうか」
目じりの皺が、私の中にある青年の姿を上書きしていく。髪に白いものが混じっているが、それはお互い様だ。
「そうだな。あなたには訓練でボコボコにされたのを覚えているよ」
笑いながら、タルカ将軍は椅子に座るよう促した。
「昔話はやめておこう。さっそく本題だが、鬼角族を動員して西方から攻撃できるというのは本当か」
ハーラントのキンネク族だけでは、動員できる戦力はせいぜい百騎程度になる。もし、攻撃といえる規模の兵士を揃えるのであれば、他の鬼角族の部族を仲間に引き込まなければならないだろう。果たしてそれは可能なのか。地震の影響がどれくらい広範囲なのかによるが、不可能ではないはずだ。
「騎兵一騎に対して羊五頭、戦争に勝利すれば追加で羊五頭。あるいは馬一頭を約束してもらえれば、ある程度の数を動員できると思います」
「最大で何騎、最低で何騎の鬼角族を集められると考えているのかね」
一つの部族が五百名程度の人口だとすれば、自分たちの生活を維持しながら送り出せる人数は百程度だろう。二十部族すべてが兵士を派遣するならば、最大で二千騎。最低なら、キンネク族とナユーム族の百騎をあわせて二百騎といったところだろうか。
「最大で千騎、最低なら二百騎。補助部隊として黒鼻族の兵士を二百人動員できます」
タルカ将軍は視線を床に向け、少しなにかを考えている。
「黒鼻族というのは、あの羊の人だろう? 戦いに役立つのか、あの羊人は。それに、二百騎ぽっちの騎兵では、なにもできないのではないか」
「ああ見えても、羊たちは四十人でギュッヒン侯の重騎兵を二十騎倒したんですよ。また、鬼角族の騎兵は補給なしで十日以上行動することができます。人間の軽騎兵の倍は戦いますし、手に負えない相手からは逃げることができる機動力もあります」
私の売り込みに、タルカ将軍はニヤリと笑った。
「後方かく乱なら二百騎でも十分というわけだな。しかし、あの重騎兵を羊が倒せるとは思えないのだが、どういう手品を使ったんだ、ザロフ君」
「黒鼻族は恐れを知らない優秀な兵士ですよ。それに、草が彼らの食料ですから、水以外の補給は必要ありません」
私が西方で動員できる部隊は、どう考えても戦局を左右できるほどの大戦力にはなりえない。しかし、ギュッヒン侯への嫌がらせとしての効果はある。タルカ将軍は、その損得を頭の中で素早く計算しているようだ。
「最大で千騎を集めたとしても、羊が一万頭か。羊って一頭いくらくらいするんだろう。ローセノフ君知っているか」
突然の問いかけだったが、ローセノフ中隊長はよどみなく答える。
「羊一頭で、正銀貨一枚から一枚半くらいですな。ヴィーネ金貨でなら五百枚から七百五十枚相当になります」
「ザロフ君、報酬はすべて戦いに勝利した後になる。もしわれわれが負ければ、報酬は支払われない。だが、私は戦いに勝つつもりだ」
タルカ将軍は自信に満ちた声でいった。
「
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