大勢
敵があらわれるまでの三日のあいだ、私たちは遊んでいたわけではなかった。
ハーラントたちは、敵とひと当たりした後に、どの経路を通って集落に戻ってくるかという演習を何度かおこなっていたし、モフモフ達も
手の空いた私は、ヤビツから手甲鉤を預かり、人間のイングでも使えるように加工していた。
イングの手甲鉤は、刀の斬撃を受け止められる唯一の部分、つまり拳で軍刀の攻撃を受け止めていた。殴るという技術を防御に使ったのがわかる。頭部と胸部のみとはいえ板金の鎧で覆われ、そのうえ全身を鎖帷子で包んだ騎士は、馬上でこそ真価を発揮するものであり、徒歩になると鈍重な動きがいい的になってしまう。
力を込めた一撃を受け止められた騎士は、再び軍刀を振り上げるが、イングは軽々と後ろに回り込み、膝の裏を強く蹴り飛ばす。
がくりと膝を折って騎士が
兜の隙間から血が噴き出すと、イングは騎士の背中を蹴り、地面に転がした。
まるで動物を殺すように、なんのためらいもなく人を殺すイングへ大きな衝撃を受けるが、つとめて表情に出さないように努力する。
徹底的にやるわけだから、敵にとどめを刺しておくことは正しい。暴力の中で生きてきたイングは、その任務を果たしているにすぎない。しょせん、
「よし、イング君。私たちも敵の軽騎兵の方へ向かう。ついてきて欲しい」
この場所に、一時的に意識を失っているだけかもしれない敵を残していくことには気が引けるし、イングに命じれば全騎士の頸動脈を切り裂いて確実に殺してくれるだろうが、自分にできないことを部下に命じるつもりもなかった。
少なくとも、ここに倒れている騎士から殺意が流れてこないことは間違いない。つないでいた馬のところまで戻り、馬に乗って南の斜面の方向へ向かう。イングは馬に乗らず、そのまま後ろから追いかけてきた。
倒れているのは人間の軽騎兵たちばかりで、鬼角族はほとんどいない。つまり、鬼角族は優勢であったということがわかる。見晴らしのいい場所までくると、戦場を一望することができた。
黒っぽい皮鎧を着る鬼角族たちが、そこここで敵の軽騎兵を追撃しているのが見える。
数の劣勢は、質の優越でおぎなうことができたようだ。
勝敗は決した。
だが、敵の一部は戦場を離脱しているのが見えるので、羊たちがギュッヒン侯に反旗を翻したことはすぐに伝わることになるだろう。
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