失敗
暗闇の中で
町が近づくにつれ、私の体の震えはどんどん激しくなり、いまからまさに戦いが起きることを実感していた。全力をふりしぼり、馬を
鬼角族の騎兵達より少し遅れてターボルに突入すると、町は真っ暗で、どこからか金属のぶつかる音や、人間の兵士の怒号、鬼角族の叫び声がきこえてきた。期待した火の手はどこにもあがっておらず、物資を焼き討ちにする作戦は完全に失敗しているようだった。
ターボルは狭い町だ。記憶にある広場らしき場所がすぐに見えてきたが、予想していたような小麦の袋や干物を積み上げた山はなく、空の荷馬車が二台置かれているだけだった。
「隊長、なにもないですね」
シルヴィオのつぶやきに、ひきつった笑い声で返事をかえして、
「ツベヒ君。もう松明は消してくれ。作戦は失敗だ。かわりに、この荷馬車を一台いただいていこう。君の馬をつないでくれ。やり方はわかるな」
ツベヒが、しっかりとうなずくのが見えたが、顔を照らしていた松明はすぐに地面に捨てられ、馬を降りる音とともに、松明を踏みつける姿がみえた。
すぐに暗闇があたりをつつむ。
目が慣れると、ツベヒが自分の馬を荷馬車の
このまま逃げると、まるで戦果がなく士気が下がる可能性がある。私は、油壷を手に
「ツベヒ君、出発できるようになれば、すぐに声をかけてくれ」
返事はなかったが、きこえていないわけではないだろう。
「シルヴィオ君、
シルヴィオが、矢を合図のための鏑矢に持ちかえるのがみえる。
「隊長、馬車の準備ができました」
ツベヒの合図に、荷馬車の上に置いた麻縄に向かって、火打石で火花を飛ばす。
何度かカチカチと火打石を打ちつけると、麻縄をほぐした
唇を尖らせ、息を吹きかけて火が大きくなるのを待つ。火口の火が油に燃えうつると、次第に大きな火勢となり、あたりを炎の光が照らしはじめた。
「シルヴィオ君、合図だ」
私の号令に、シルヴィオは空に向けて鏑矢を射る。
風魔術の加速がついた鏑矢は、短い断続的な大音を出して天空に消えていった。
「月に向かって進め」
メラメラと燃え上がる荷馬車を背に、私は
ガタガタと大きな音をたてながらツベヒの荷馬車が進み、槍を構えたジンベジが、その前方で周囲に目を光らせていた。
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