再会
ハーラントと二十名の鬼角族が、ジンベジに連れられて
モフモフ羊たちは、夜になると家の中で寝ているはずなので、特に問題となることはないだろう。羊たちが、私たちを味方とみなすのか、敵と考えるのかはわからないが、鬼角族は朝までに離れた場所へ移動してもらう必要がある。
ユーオによると、兵士たちが眠っている天幕は、私たちが本部天幕を張っていた場所にあるようなので、迷いなく進んでいく。
懐かしいにおいだった。
草と羊たちの糞でつくった家は、けっして臭いものではなく、むしろ香ばしさを感じるほどだ。
月明かりの中で、ぼんやりと天幕が見えてくる。常夜灯がぼんやりと内側から天幕を照らす。
翌日の料理などの火種にするため、常夜灯をつけているのだろう。完全に真っ暗だと、兵士を捕まえることも難しいと思っていたが、これなら問題ない。天幕の中からは、なんの音もきこえなかった。
兵士用の天幕は中央に入口があり、左右に五つずつの寝台がある。寝台と寝台の間にはほとんど隙間はないので、二十人の兵士がいても天幕に入るわけにはいかない。多少手荒でも、天幕を壊して制圧するしかないだろう。
ハーラントに手招きをし、小さな声で作戦を伝える。そして、ハーラントから鬼角族の兵士にも伝えられた。月明かりの中でも、鬼角族の戦士たちがニヤつくのがみえた。
鬼角族が十名ずつ左右に分かれ、それぞれ一人だけ短剣を抜いた。私とジンベジ、シルヴィオ、族長のハーラントは天幕の入り口近くに立っている。
私がうなずくと、ハーラントが低い声で何事かを命じ、短剣を抜いた戦士が天幕に突き立てた。
鬼角族は、そのまま短剣で天幕を横に切り裂いていく。
丈夫な布地がビリビリと音を立てて口を開くと、たくましい鬼角族の腕が天幕に突っ込まれ、寝台に寝ていた兵士の頭や足首をつかみ、外に引きずり出す。
なにがおこったのかわからない兵士たちは、鬼角族に体を地面に押し付けられて、身じろぎひとつできない状態にされた。
月明かりと天幕の中からこぼれる常夜灯の光で、九名の兵士が制圧されているのを確認すると、できるだけ冷静な声で語りかけた。
「おはよう、チュナム集落守備隊のみなさん。手荒な起床方法で申しわけなかった。私は、元チュナム集落守備隊の指揮官だったローハン・ザロフというものだ。もともと西方軍団と友好関係にあった鬼角族との約束を破り、一方的に攻撃するギュッヒン侯の軍隊を誅罰するために鬼角族に協力をしている」
鬼角族ということばを使うたびに、ハーラントがイライラしているのがわかるが、一般的な兵士にはキンネク族といっても通じないので仕方ない。
「ここにいるのは、鬼角族の王、キンネク族のハーラントさんだ」
驚いた顔をしたハーラントは、私の顔を見てなにかをいおうとしたが、すぐにやめた。だが、その表情に喜びが混じっていることはわかった。
「君たちは、反逆者ギュッヒン侯に嫌々従っていたのだろうから、私たちは殺そうとは思っていない。どのみち、鬼角族の騎兵がこのあたりを蹂躙することになるから、逃げるなら今のうちだ」
おなじみの作り話だが、これを真に受けてギュッヒン侯がもっと西方に兵力を送りこんでくるなら、それはそれでかまわない。それだけ、反乱の成功する率はさがるだろう。
そのとき、鬼角族に押さえつけられた兵士から、きき覚えのある声がした。
「隊長。あなたの部下だったツベヒです。私をお忘れじゃないですよね」
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