弩と長弓
初冬の太陽は駆け足で沈み、すぐに夜がおとずれる。非戦闘員と羊たちは、日の出とともに北へ移動する予定だ。
鬼角族の戦士、ジンベジ、ホエテテは馬上の人となり、私とシルヴィオは二頭立ての
冬営地が襲撃されるのを防ぐため、日が暮れる前に少しでも東に陣取りたいというハーラントのことばに従い、私たちは
「教官殿、さっきの方法で、本当に重騎兵を倒すことができるんですか」
ジンベジのことばに、ハーラントがチラリと私に視線を向けた。
「そう簡単にやっつけることができるのなら、重騎兵なんて兵科はとっくの昔になくなっているよ」
「ならば、お前は我に嘘をついたのか」
「ハーラントさん、あれは嘘ではない。全身を鎧で覆われた連中に、私たちが攻撃するとすれば、ああいう方法しかないということだ。胸や腹を狙っても、私たちの武器では歯が立たない」
大男のホエテテが、静かに口を開いた。
「
「そうだな、ホエテテ君。鬼――キンネク族の大太刀は、騎乗したまま片手で斬るために大きく湾曲しているから、腕を振りぬいて斬るのではなく、相手の腕や足に叩きつける感じで戦えばいいんだ。鎖帷子の上からでも、重い一撃は骨をへし折ることができる」
どうせ切れないので、鬼角族の大太刀に手をかばうような柄がなければ、逆さまに持って大太刀の峰で殴ってもいいくらいだ。
「私は凱旋式くらいでしか見たことがないのですが、戦場では重騎兵相手にどう戦ってるんですか、隊長」
隣のシルヴィオからも質問がでる。ふと、新兵訓練所で講義をしていた時のことを思い出す。あれからまだ、一年もたっていない。
「重騎兵を殺すのなら、やはり
「弩というのはなんだ、ローハン」
ハーラントたち鬼角族は、ひょっとすると弩を見たことがないのかもしれない。
「とても強い弓のことだ。撃つのに時間がかかるが、すぐに誰でも使えるようになる便利なものだよ」
「ならば我らも、その弩というものを用意すればよいのではないか」
弩をつくるには、高度な技術が必要である。機会があれば、バウセン山の鍛冶屋に頼んでみても面白いかもしれない。
「ハーラントさん、残念だが弩は私のような素人ではつくれないし、多額の費用もかかる。そして、いまはなにより時間がない」
それ以上ハーラントはなにもいわなかった。
「でも教官殿、弩は扱う軍隊は少なくないですし、火の魔術なら鎧ごと丸焼けにできそうですよね」
「火の魔術という珍しい
一呼吸置いてから続ける。
「もうひとつは、歩兵や弓兵の脅威になる軽騎兵を蹴散らすときだ。私たちのような軽騎兵をね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます